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剣鬼 闘技祭準備編

マリアの指導

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「あの性悪女……もう手を打ってきたのね、油断してたわ。こんな事ならハンゾウを護衛に付かせておくべきだったわ」
「別に平気だよ。まあ、今度からは単独行動は控えないといけないけど」
「そういう事ね。大会が開催される前はここで大人しくしてなさい」


マリアはレナが怪我していない事を確認して安心すると、彼女は窓の外に視線を向け、先ほど外へ放出した精霊の事を思い出す。あの精霊は王妃の刺客がレナを尾行するために送り込んだ物で間違いないが、レナが精霊を見える事が判明する。彼女はその事実を考え、レナに尋ねる。


「レナ、貴方は精霊が見えるのなら触れる事は出来るの?」
「ううん、触ろうとしても逃げちゃうから触れない」
「だけど見えるのね?それなら私が精霊魔法の扱い方を教えてあげるわ」
「え、本当に?」


森人族であるマリアも精霊魔法を習得しており、彼女は窓を開くと室内に風を招き、掌を翳す。しばらく時間が経過すると、窓の中に緑色の光の球体が出現し、マリアが差し出した掌に収まった。


「ほら、触れてみなさい」
「え?でも……」
「大丈夫よ。ゆっくりと近づけなさい」


レナに向けてマリアは掌を向け、精霊を差し出す。レナは不安を覚えながらも精霊に手を伸ばすと、今回は近づいても精霊が逃げる事はなく、指先が球体に触れる。


「あれ?触れ……いや、何だこれ?」


精霊に指先が触れるが、何の感触もなく、指先がすり抜けてしまう。何度か試すが精霊は実体がないかのように触れる事は出来ず、レナは困った表情を浮かべると、マリアが微笑む。


「落ち着きなさい。普通に触ろうとしても駄目よ。まずは両手で挟み込みなさい」
「うん」


マリアの言葉通りにレナは両手で精霊を挟むと、彼女は掌を離して精霊を解放する。レナは不用意に触れないように気を付けながら精霊に視線を向け、マリアに次の指示を伺う。


「まずはその状態で風属性の魔法を使って見なさい。出来る限り、威力を弱めてね」
「魔法……よし、ちょっと離れてて」


間違っても部屋の中を壊さないように気を付け、レナは開け放たれた窓に視線を向け、両手を翳して風圧の魔法を発動させる。


「風圧……うわっ!?」


レナの掌から魔法が発動しようとした瞬間、精霊が勝手に動き出してレナの「風圧」の魔法に吸収されるように消え去り、突風が室内に発生してしまう。


「な、何だっ!?」
「成功ね」


一瞬だけ強烈な風が室内に満ち溢れたが、やがて開け放たれた窓から放出され、収まったころには室内に飾られていた肖像画や花瓶などが床に落ちてしまう。しかし、その事を意にも介さずにマリアは感心したようにレナの掌を見つめ、小さな子供を褒めるように頭を撫でる。


「今のは中々良かったわよ。精霊の力を上手く魔法に吸収させていたわ」
「え?という事は今のが精霊魔法?」
「そういう事よ。あんな小さな精霊でもここまでの力を引き出せる事が出来るわ」


マリアは部屋の惨状に視線を向け、レナは申し訳ない気持ちを抱きながらも両手を確認し、本当にたいした力を入れていないにも関わらずに強力な魔法を生み出せたことに驚きを隠せない。確かに精霊魔法が他の魔法よりも上位に位置する存在である事を実感し、これならば普通の魔術師の攻撃魔法など恐れる事はない。


「でも、どうして急に精霊が見えるようになったんだろ。今までは何ともなかったのに……」
「それは貴方が成長したという事よ。精霊を感じ取れるのは優れた魔術師の証拠、実際に人間の中でも見る事は出来なくても精霊を感覚的に感じ取れる者もいるわ」
「そうなのか……」


レナが精霊を見えるようになったのはマリアの予測では肉体や精神的に成長した事が関わっており、大迷宮で魔物を倒し続けてきた事が切っ掛けでレナも大きく成長したのも理由の一つと考えられる。しかし、精霊の扱い方は覚える事は出来たが、肝心の精霊を呼び寄せる方法に関しては何も分からない。


「叔母様はどうやって精霊を呼び寄せたの」
「答えにくい質問ね……私の場合は生まれた時から精霊を引き寄せる事が出来たから、やり方を教える事は難しいわ。私にとって精霊は常に傍に存在する物だったから、どうやってと聞かれても答えられないわね」
「そうなの?」


可愛い甥の他の身でもマリアは精霊の呼び出し方を教える事は出来ず、生まれた時から魔術師の才能に満ち溢れていた彼女は精霊魔法を習得しており、精霊の使い方を教える事は出来ても精霊の呼び出し方は教えられないという。


「だけど、精霊は環境に合わせて寄り付く事は確かよ。例えば風の精霊は強烈な風を生み出せば自然と寄ってくるわ。今も部屋の中に精霊が漂っているでしょう?」
「あ、本当だ……」


マリアの言葉にレナは室内を見渡すと、何時の間にか複数の小さな精霊が漂っている事に気付き、近づいて触れようとするが、やはり逃げ出してしまう。
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