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闘技祭 決戦編
新闘技場
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「あれ、そういえばハヤテさんとハンゾウちゃんも見かけないけど……先にいったのかな」
「ハンゾウならずっと上に張り付いているよ」
「呼んだでござるか?」
「うわぁっ!?びっくりした!!」
「お前、天井に張り付く癖は直せと言ってんだろ……戦う前に無駄な体力を使うんじゃねえよ」
馬車の天井に張り付いていたハンゾウに驚愕の声が上がり、彼女は申し訳なさそうに逆さまの状態で頭を掻きながら謝罪する。
「申し訳ないでござる。ただ、拙者の場合はこうしている方が落ち着くのでござる」
「忍者の悲しい性ね……そういえばハヤテはどうしたのよ?姿が見えないけど……」
「おい、人の師匠を呼び捨てにすんじゃねえよ」
「あら、気に障ったかしら?」
「止めなよ二人とも」
ハヤテの名前をシズネが口にすると、シュンが苛立ったように彼女を注意する。そんなシュンの態度にシズネが挑発するように声を掛けるが、レナの言葉に両者は渋々と引き下がる。
「あの……シュンさん。ハヤテさんはどうしたんですか?」
「師匠は野暮用だ……まあ、大会には間に合うだろうが、あの人は俺と違って優しくないからな。油断しているとやられるぞ」
「えっ……?」
1人だけ事情を知らないミナはシュンの言葉に戸惑うが、離している間にも馬車は冒険都市の城門を潜り抜け、新設された闘技場に向かう。新しく作り出した闘技場は都市の内部ではなく、郊外で建設されている。理由としては旧来の闘技場では観戦できる人間に限りがあり、今回の大会は各国の代表が集まるため、防備面を強化するために大規模な闘技場の建設が行われた。
――魔物が生息する草原に闘技場を建設するなどむしろ危険のように思われるが、安全面を考慮するために闘技場の周囲にも魔物が寄り付かないように大きな堀と城壁を築いている。更に王国の軍隊が配備されており、城壁には数千人の兵士が配備されているという。
事前にカゲマルとハンゾウが調査を行ったところ、城壁に配備されている警備兵と闘技場の運営を行う兵士を合わせればその数は5000人は上回り、更に大会のために最大で「3万人」の人間が収納出来る。
「おい、見てみろよ。見えてきたぜ……あれが闘技場だ」
「どれどれ……うわ、凄い。あんな大きい建物を二か月で作り出したの?」
「建設のために数千人の巨人族と小髭族が派遣されたそうよ」
馬車の外の光景にレナ達が視線を向けると、冒険都市からそれほど離れていない場所に城壁で取り囲まれた新しい闘技場を確認出来た。冒険都市の闘技場は「コロッセウム」を意識するデザインに対し、闘技祭のためだけに建設された闘技場は更に二回り程大きく、東西南北の建物の屋上には大きな柱が存在した。柱の頂点には巨大な硝子玉のような水晶が設置されており、それを見たシュンは眉を顰めた。
「なんだあの塔は……天辺にあるのは魔石か?」
「あれは……恐らくは記録水晶でしょうね」
「記録水晶?」
「あの水晶で映し出された光景は映像水晶と呼ばれる水晶玉に表示されるんです。恐らく、闘技場の試合場の映像を撮影し、記録水晶を所持する人々にも公開するのではないでしょうか?」
「ようはビデオカメラみたいな物か……そんな魔道具もあるのか」
闘技場の建物の屋上には無数の柱が設置されており、試合中の映像を記録して観戦に訪れた客以外にも映像を配信するつもりだとジャンヌは判断する。こちらの世界にそれほど便利な魔道具がある事にレナは驚く。
「俺達を見世物するつもりか?随分と趣味が良い事で……」
「他の人間に戦法を見られるのは少々困るでござる……」
「う~ん……緊張してきた。これから僕達、あそこで戦うのか」
まさか観戦客以外の人間達にも映像を配信するとは予想も出来ず、レナ達は顔を顰める。試合で映像が配信されるという事は大会に出場する人間の戦法が多くの人間に晒される事になる。
「恥ずかしい負け方をした奴は明日から悲惨だな……顔を知られたら仕事にもありつけなくなるぞ」
「威厳を失った冒険者や傭兵の末路は悲惨な目に遭うでござるからな。負けるにしてもみっともない負け方だけは避けねばならないといけないでござる」
『がははははっ!!別に良いではないか!!より多くの人間に自分の腕を見せつける好機だと考えれば良い!!』
「たく、相変わらずあんたは呑気なおっさんだな……」
「…………」
ゴウライに対してシュンは悪態を吐くが、実際にはゴウライの中身は男性ではなく女性である事を知っているのはレナだけである。しかし、本人が何も言わないのならばレナも敢えて口は挟まず、自分がこれから戦う場所となる闘技場を見つめる。
「あそこで戦うのか……試合前にトイレが何処にあるのかちゃんと調べないとな」
「緊張感がないわね……」
「いや、まあ……大事な事だけどさ」
「レナ殿はどんな時もいつも通りでござるな」
レナの言葉にシズネとミナは呆れた表情を浮かべ、他の人間も苦笑する。しかし、内心は誰もがこれから開催される闘技祭に緊張を抱き、馬車は遂に城門を潜り抜けて闘技場の敷地内に入り込んだ――
「ハンゾウならずっと上に張り付いているよ」
「呼んだでござるか?」
「うわぁっ!?びっくりした!!」
「お前、天井に張り付く癖は直せと言ってんだろ……戦う前に無駄な体力を使うんじゃねえよ」
馬車の天井に張り付いていたハンゾウに驚愕の声が上がり、彼女は申し訳なさそうに逆さまの状態で頭を掻きながら謝罪する。
「申し訳ないでござる。ただ、拙者の場合はこうしている方が落ち着くのでござる」
「忍者の悲しい性ね……そういえばハヤテはどうしたのよ?姿が見えないけど……」
「おい、人の師匠を呼び捨てにすんじゃねえよ」
「あら、気に障ったかしら?」
「止めなよ二人とも」
ハヤテの名前をシズネが口にすると、シュンが苛立ったように彼女を注意する。そんなシュンの態度にシズネが挑発するように声を掛けるが、レナの言葉に両者は渋々と引き下がる。
「あの……シュンさん。ハヤテさんはどうしたんですか?」
「師匠は野暮用だ……まあ、大会には間に合うだろうが、あの人は俺と違って優しくないからな。油断しているとやられるぞ」
「えっ……?」
1人だけ事情を知らないミナはシュンの言葉に戸惑うが、離している間にも馬車は冒険都市の城門を潜り抜け、新設された闘技場に向かう。新しく作り出した闘技場は都市の内部ではなく、郊外で建設されている。理由としては旧来の闘技場では観戦できる人間に限りがあり、今回の大会は各国の代表が集まるため、防備面を強化するために大規模な闘技場の建設が行われた。
――魔物が生息する草原に闘技場を建設するなどむしろ危険のように思われるが、安全面を考慮するために闘技場の周囲にも魔物が寄り付かないように大きな堀と城壁を築いている。更に王国の軍隊が配備されており、城壁には数千人の兵士が配備されているという。
事前にカゲマルとハンゾウが調査を行ったところ、城壁に配備されている警備兵と闘技場の運営を行う兵士を合わせればその数は5000人は上回り、更に大会のために最大で「3万人」の人間が収納出来る。
「おい、見てみろよ。見えてきたぜ……あれが闘技場だ」
「どれどれ……うわ、凄い。あんな大きい建物を二か月で作り出したの?」
「建設のために数千人の巨人族と小髭族が派遣されたそうよ」
馬車の外の光景にレナ達が視線を向けると、冒険都市からそれほど離れていない場所に城壁で取り囲まれた新しい闘技場を確認出来た。冒険都市の闘技場は「コロッセウム」を意識するデザインに対し、闘技祭のためだけに建設された闘技場は更に二回り程大きく、東西南北の建物の屋上には大きな柱が存在した。柱の頂点には巨大な硝子玉のような水晶が設置されており、それを見たシュンは眉を顰めた。
「なんだあの塔は……天辺にあるのは魔石か?」
「あれは……恐らくは記録水晶でしょうね」
「記録水晶?」
「あの水晶で映し出された光景は映像水晶と呼ばれる水晶玉に表示されるんです。恐らく、闘技場の試合場の映像を撮影し、記録水晶を所持する人々にも公開するのではないでしょうか?」
「ようはビデオカメラみたいな物か……そんな魔道具もあるのか」
闘技場の建物の屋上には無数の柱が設置されており、試合中の映像を記録して観戦に訪れた客以外にも映像を配信するつもりだとジャンヌは判断する。こちらの世界にそれほど便利な魔道具がある事にレナは驚く。
「俺達を見世物するつもりか?随分と趣味が良い事で……」
「他の人間に戦法を見られるのは少々困るでござる……」
「う~ん……緊張してきた。これから僕達、あそこで戦うのか」
まさか観戦客以外の人間達にも映像を配信するとは予想も出来ず、レナ達は顔を顰める。試合で映像が配信されるという事は大会に出場する人間の戦法が多くの人間に晒される事になる。
「恥ずかしい負け方をした奴は明日から悲惨だな……顔を知られたら仕事にもありつけなくなるぞ」
「威厳を失った冒険者や傭兵の末路は悲惨な目に遭うでござるからな。負けるにしてもみっともない負け方だけは避けねばならないといけないでござる」
『がははははっ!!別に良いではないか!!より多くの人間に自分の腕を見せつける好機だと考えれば良い!!』
「たく、相変わらずあんたは呑気なおっさんだな……」
「…………」
ゴウライに対してシュンは悪態を吐くが、実際にはゴウライの中身は男性ではなく女性である事を知っているのはレナだけである。しかし、本人が何も言わないのならばレナも敢えて口は挟まず、自分がこれから戦う場所となる闘技場を見つめる。
「あそこで戦うのか……試合前にトイレが何処にあるのかちゃんと調べないとな」
「緊張感がないわね……」
「いや、まあ……大事な事だけどさ」
「レナ殿はどんな時もいつも通りでござるな」
レナの言葉にシズネとミナは呆れた表情を浮かべ、他の人間も苦笑する。しかし、内心は誰もがこれから開催される闘技祭に緊張を抱き、馬車は遂に城門を潜り抜けて闘技場の敷地内に入り込んだ――
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