不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

凍り付く使者

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「取り込み中の所、失礼するぞ」
「何者だ!!我々の話を邪魔するなど……えっ!?」


扉が許可もなく押し開かれ、謁見中だった使者達が振り返ると、そこにはエリナとティナを引き連れた「デブリ国王」の姿が存在した。唐突に現れた自国の国王の姿に使者達は目を見開き、ナオでさえも予想外の人物の登場に驚きを隠せない。


「こ、国王様!?ま、まさか……生きておられたのですか!?」
「生きていただと……それはどういう意味で聞いている?貴様、この余が死んでいたと思っていたのか?」
「あ、いや……も、申し訳ありません!!」
「デブリ国王!?石化から復活したのか!?」


国王の登場で慌てて使者達は平伏し、ナオは歓喜の声を上げながら玉座を降りてデブリ国王の元へ向かおうとした。だが、それを制するようにデブリ国王は掌を前に差しだし、黙って首を振る。


「バルトロス14世……いや、ナオ女王よ。色々と迷惑を掛けてしまったな、見ての通り、余は無事だ」
「それは良かった……だが、一体どうやって石化から復活を?」
「その辺はおいおい説明しよう。それよりもお前達、話は外まで聞こえていたぞ。不可侵条約とはどういう意味だ?」
「いえ、あの……それは……!?」


デブリに睨みつけられた使者達は顔色を青くさせ、まさかこの状況下で国王が姿を現すとは思いも寄らず、先ほどまでの態度はどうしたのか全員が顔を上げる事が出来ない。そんな彼等の反応を見てデブリは鼻を鳴らし、彼等を問い詰めた。


「答えろ!!お前達をここへ送ったのはカレハだな!?」
「は、はい!!その通りでございます!!我々はカレハ様の命を受けてこの場に……!!」
「ふん、儂が石化している間、随分とカレハの奴は好き放題にしておるようじゃな……大方、儂の不在の間に国を掌握し、武力をちらつかせて王国に対して無理難題を突き付けたという所か」
「国王様!!どうか我等のお話を聞いて下さい!!」
「聞かぬ!!」


使者の言い訳も聞く耳持たずにデブリ国王は激しい怒りを露わにすると、玉座に座っているナオに頭を下げて配下の無礼を謝罪する。


「ナオ女王よ。此度の娘の失態、誠に申し訳ない……儂が不在の間に隔離していた長女がどうやら国を動かしていたようだが、今回の不可侵条約の件に関してはなかった事にしてもらいたい。そもそもヨツバ王国とバルトロス王国は同盟国、不可侵条約など結ぶ必要もない話なのだが……」
「それは本当ですか!?あ、いや……こちらも有難い話だ。では、不可侵条約の件は破棄という形でよろしいか?」
「無論、問題はない。そうであろう?」
「は、はい……」


王国側の不利な条件の不可侵条約が撤廃されるという話にナオは喜んで承諾し、デブリに睨みつけられた使者達も素直に従う。彼等はカレハに送り込まれた家臣ではあるが、あくまでもヨツバ王国の統治者はカレハではなくデブリである以上、デブリの命令に逆らえるはずがない。

予期せぬ展開で不可侵条約を結ばずに済んだナオは安堵するが、改めてデブリの方を向き直り、どうして石化されていた彼が復活したのかを尋ねた。


「デブリ国王、貴方はメドゥーサの魔眼で石像と化したはずだが、一体どうやって復活したのですか?」
「うむ、余も詳しい事は分からぬが何故か急に石化が解けてこのように自由になったのだ。恐らく、石化する寸前にメドゥーサの魔眼を片目だけしか見ていなかった事が何か関係しているのかもしれん」
「片目……つまり、両目で見なければ石化は永久化しないという事なのか?」
「詳しい事は余にも分からん。だが、実際に余はこうして復活を果たした。他の者に関しては残念ながら石化が解ける様子はないが……」


デブリの説明にナオは驚いた表情を浮かべ、使者達も戸惑いの表情を浮かべる。メドゥーサの魔眼によって石像化した人間はメドゥーサが石化を解くか、あるいは死亡しない限りは解除される事はないと思われていたが、実際にデブリが目の前に居る以上は彼が石化を破ったという事実は覆らない。


「こ、国王様がご無事で何よりです!!では我々と共に国へ戻りましょう。カレハ様も国王様達の身を心配しておりましたので……」
「悪いが、それは難しい……どうにかここまで移動する事は出来たが、まだ石化の影響が残っているのか身体が痛くて歩く事もままならん。ぐうっ……!!」
「だ、大丈夫!?」
「国王様、肩を貸します!!」


呻き声を上げたデブリに対してエリナとティナが両脇で彼の身体を支え、心底苦しそうな表情を浮かべる国王に対して使者達も手を貸そうとしたが、デブリはそれを拒否する。


「この身体では長旅は出来ん……ナオ女王よ、迷惑を掛けるが今しばらくの間はこの国に滞在させてもらえるか?」
「それは勿論構わないが……」
「礼を言う。ではお前達は国へ戻り、カレハにこう伝えるのだ。余の代理として民衆を大事にし、無暗に他国に対して挑発的な態度を取るなとな」
「国王様、カレハ様は決してそのような事は……」
「黙れ!!お前達がこれまでにバルトロス王国に対してどれほど傲慢な態度を取っていたのかは聞いているぞ!!しかもヨツバ王国の軍勢を動かして脅迫紛いの交渉など許せん!!ヨツバ王国は決して他国を侵さず、自国の守護のためだけに存在する事を忘れたか!?」
「も、申し訳ありません!!」


デブリの言葉に使者達は言い返す事も出来ずに頭を下げ、そんな彼等に対して興奮を収まらない状態でデブリは胸元を抑え、激しく咳き込む。身体が本調子ではないのに無理をし過ぎたのかと心配したナオは兵士達に命じた。


「すぐに医療魔導士を連れてこい!!車椅子も用意しろ!!」
「はっ!!」
「ぐふっ……大丈夫じゃ、自分の足で戻れる。お前達は即刻に国へ引き返し、カレハに伝言を伝えるのだぞ」
「ですが、国王様を残して我々だけが先に戻るなど……」
「話を聞いていなかったのか!?この身体では長旅には耐えられん、貴様等は余を苦しませてまで国へ連れ戻すつもりか!!」
「ひいっ!?そ、そのような事は決して考えておりません!!お許しください!!」


普段は温厚なデブリからは考えられない程の威圧に使者達は怯え、二人に肩を借りながら玉座の間から退室するデブリの姿を見送る。だが、ナオはその後姿を見て違和感を覚え、肩を借りなければ移動出来ない割にはしっかりとした足取りに疑問を抱く――




――玉座の間から退室したデブリはすぐに近くに存在した部屋に移動すると、肩を借りていた二人を解放し、先に部屋の中で待ち受けていたレナ達と合流する。


「ふうっ……作戦は上手く行った。奴等は見事に騙されていたぞ」
「流石は叔母様の腹心……それにしても本当にデブリ国王にそっくりに化けたね」
「う、うん。びっくりだよ~……何処からどう見てもお父様にしか見えないよ?」
「あたしもびっくりしました。言動も何もかも、デブリ国王にそっくりでしたから!!」


部屋に戻って早々に「デブリ」はカツラを外すと、しわがれていた皮膚を元に戻し、顔の骨格を変形させる。やがてレナ達の前にはデブリの恰好をした「カゲマル」が現れ、何事もないように元の衣装に一瞬で着替えた。



実は先ほどまで使者と対面していたのは「変装」のスキルを利用したカゲマルであり、本当のデブリは未だに石像の状態で保管されている。どうしてわざわざカゲマルがデブリに変装して玉座の間に訪れたかと言うと、レナがアイリスからの交信からの助言を受けて不可侵条約を結のを阻止するようにカゲマルに頼み込んだからだった。
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