不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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外伝 ~ヨツバ王国編~

神獣フェンリル

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「というかエリナ、こんな道もない場所なのに進んでるけど大丈夫なの?」
「ふっふっふっ……森人族の名前は伊達じゃないっすよ。一見すると何も道がないように見えますけど、産まれた時からこの森で暮らしているあたしにとっては庭のような物です。方角くらいなら風の精霊に尋ねれば分かりますしね」
「流石は自然の申し子と呼ばれる森人族だな。では俺達は上の方から周囲の様子を把握する。ハンゾウ、付いてこい」
「承知!!」


忍者組は大樹の枝の上に跳躍して周辺の様子を探り、見張りとして配置されている兵士や魔獣の姿を探す。その間にレナ達は徒歩で移動を行い、ウルも鼻を鳴らしながら自分達以外の生物の臭いを嗅ぎ分ける。


「スンスンッ……クゥ~ンッ」
「どうしたウル?何か嗅ぎつけたのか?」
「キュロロッ……」


少し進むと唐突にウルとアインが足を止め、レナ達を引き留めるように身体を掴む。2匹の反応に疑問を抱いたレナはエリナに視線を向けると、丁度彼女は精霊魔法を駆使して周囲に存在した風の精霊を呼び寄せていた。


「ちょっと待ってくださいね……どうやらこの先に腐敗石を装備した人間が待ち構えているようです。ウルとアインは腐敗石から放たれる異臭を感じ取って嫌がってる様子ですね」
「人間?森人族じゃないの?」
「多分、密猟者ですね。時々、アトラス大森林に無断に入り込んで魔獣の素材を手に入れようとする人間がよく訪れるんです」


エリナによるとアトラス大森林には貴重な薬草や希少種の魔物が生息しているらしく、それらの素材を回収するために密猟者が訪れるという。だが、生半可な実力者ではアトラス大森林に生息する魔獣の相手は出来ず、大抵の場合は森の外に抜け出す前に魔獣に殺されるという。


「どうします?放っておいても問題はないと思いますけど、あたし達の進路上にいるのでこのまま進むと顔合わせすると思いますけど……」
「相手の人数は?」
「えっと……10人ぐらいですね。あれ?」
「どうした?」
「いえ、風の精霊が妙に騒がしいというか……うわっ!?」


風の精霊を介してエリナは離れた位置に存在する密猟者の様子を確認していると、前方の方角から強風が発生し、レナ達に襲いかかる。吹き飛ばされないようにウルとアインが咄嗟にレナとエリナの身体を抑えつけると、前方の方角から風に紛れて悲鳴が響き渡る。



――ぎゃあぁあああっ……!?



尋常でない悲鳴が森の中に響き渡り、その声を聞いたレナは風に吹き飛ばされないように耐えながらも前方に視線を向けると、足音を鳴り響かせながら人間を咥えた巨大な灰色の狼が出現した。その体長はウルの一回りは大きく、全身に血を浴びた状態で生きた人間も咥えたままレナ達の元へ降り立つ。


「何だこいつ……!?」
「ま、まさか……!?」
「グルルルッ……ガアアッ!!」
「キュロロロッ……!?」


目の前に巨狼に対してレナ達は動揺し、ウルに至っては威嚇するが、灰色の巨狼はレナ達を一瞥すると口元に咥えていた中年の冒険者らしき恰好をした男の胴体を食い千切る。


「グガァッ……!!」
「や、止めっ……あがああああっ!?」
「なっ!?」


目の前に男性の身体を引きちぎった巨狼に対してレナは退魔刀を咄嗟に握りしめると、先にウルが牙を開いて巨狼の元へ襲い掛かった。


「ウォオオンッ!!」
「ガアアッ!!」



巨狼は正面から飛び掛かって来たウルに対して頭を突き出すと下から顎を打ち付け、ウルの巨体を地面に倒す。いとも容易くウルを吹き飛ばした巨狼の姿を見て仲間を傷つけられて興奮したアインが飛び掛かる。


「キュロロロッ!!」
「待てアイン!!」
「フゥンッ!!」


空中から飛びついてきたアインに対して巨狼は右前脚だけで払い除け、アインはすぐ傍に存在した大樹に叩きつけられてしまう。アインの巨体を片腕(前脚)のみで振り払った巨狼に対してレナは驚愕するが、すぐに戦闘体勢に入って退魔刀を構えた。


「エリナ!!こいつは何だ!?」
「あ、ああっ……ま、不味いっす!!そいつは……いや、その魔獣はフェンリルです!!このアトラス大森林にしか生息しない世界最強の狼です!!」
「フェンリル……!?」
「ウオオオオンッ!!」


エリナの言葉を聞いてレナは巨狼の姿を見上げると、まるで竜種の咆哮を想像させる程の大音量で鳴き声を上げ、身体にこびり付いた血液を振りはらうようにフェンリルは身体を震わせる。その圧倒的な存在感は竜種にも勝るとも劣らず、退魔刀を握り締める腕が震えてしまう。

フェンリルという名前は地球でも有名だが、こちらの世界では狼種の魔獣の中でも最強を誇るらしく、レナは知らないが全ての狼種の先祖とさえも言われている。その圧倒的な戦闘力と高度な知能は魔獣の域には留まらず、ヨツバ王国の間ではユニコーンと同様に「神獣」として崇められている程だった。


「兄貴、不味いっす!!フェンリルは竜種に匹敵する程の力を持つ魔獣です!!このまま戦っても勝ち目はないですよ!?」
「マジかよ……くそ、どうすればいい!?」
「グルルルッ……!!」


フェンリルは完全にレナ達の事も敵と認識しているらしく、威嚇するように唸り声を上げて睨みつけていた。その様子を大樹の上から伺っていたカゲマルとハンゾウは迂闊に動く事が出来ず、下手に刺激すれば不味い相手だと本能が告げる。


「クゥンッ……!!」
「キュロロッ……!!」
「ウル、アイン、無事だったか……そこで大人しく見てろ、こいつは俺が相手をする」
「いや、無理ですよ兄貴!!いくら兄貴でもフェンリルに勝つ事は出来ませんって!!」


レナが退魔刀を構えてフェンリルと向き合うと、慌ててエリナは引き留めようとしたが、身体が上手く動かない。フェンリルのあまりの威圧感に無意識に身体が怯えてしまい、背中のクロスボウさえ構える事も出来なかった。


「ガアアッ!!」
「うわっ!?」
「レナ殿!!」


フェンリルはレナに目掛けて右前脚を振り下ろした瞬間、衝撃波が発生して地面に大きな爪で抉り取ったような跡が誕生した。咄嗟に危険を察知して「縮地」の戦技でレナはフェンリルの背後に移動を行い、回避に成功するがフェンリルはそれを予測していたように今度は後脚を突き出す。


「ウォオンッ!!」
「受け流し……ぐあっ!?」
「兄貴ぃっ!?」


馬の様に両足を突き出してきたフェンリルの攻撃に対してレナは退魔刀で防ごうとしたが、勢いを完全に受け流す事が出来ずに吹き飛ばされ、先ほどのアインと同様に大樹に背中を叩きつけてしまう。その強烈な一撃にレナの意識が飛びかけるが、同時に彼の中の「剣鬼」の能力が発動した。


「このっ……調子に乗るなっ!!」
「ッ……!?」


頭に血が上ったレナは怒りに任せて接近し、退魔刀に重力を纏わせた状態でフェンリルの頭部に目掛けて振り下ろす。直撃すれば不味いと判断したのか、フェンリルはその場を跳躍して攻撃を回避すると、振り下ろされた退魔刀の刃が地面に衝突して轟音が生じる。

跳躍したフェンリルはレナから距離を取ると、地面にめり込んだ退魔刀を確認して回避していなければ自分も無事では済まなかった事を判断し、警戒するようにレナを睨みつけた。普通の人間ならばフェンリルに睨みつけられるだけで恐れおののくのだろうが、様々な強敵と相対したレナにとっては今更睨まれた程度恐れを抱くはずがない。


「逃げるなこの臆病者!!」
「ウォンッ……!?」
「ひいいっ!?フェンリルを臆病者呼ばわりするなんて……兄貴、格好良すぎて惚れそうっす!!」
「え、エリナ殿……そういう状況ではないのでは?」


竜種と渡り合う戦闘力を持つ魔獣に対してレナは戦意を漲らせて退魔刀を構えると、フェンリルは自分に対して全く恐怖を抱かない様子のレナを見て戸惑う。
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