不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
635 / 2,090
外伝 ~ヨツバ王国編~

ギンタロウの反応

しおりを挟む
妻と娘を残したギンタロウは四本脚を洗ってから屋敷の中に入り込む。元々は人間用(森人族)に作り出された屋敷なので床が抜けないのかとレナは心配したが、屋敷を構築している木材は地球の木材とは比べ物にならない程に頑丈で耐久力もあるらしく、何事もなくギンタロウは廊下を歩いていく。


「ここが俺の部屋だ。お手が東聖将になった時に増築して新しく作った部屋だぞ!!」
「あれ……これってもしかして畳ですか?」
「おおっ!!本当でござる!!」


ギンタロウはが案内した広間は床一面に畳が敷き詰められ、更に掛け座布団や机まで用意されていた。この世界にも畳が存在した事にレナは驚くが、ハンゾウとカゲマルの祖国である「和国」は元々は日本人の転移者が作り出した国のため、畳が存在してもおかしくはない。


「何だ?お前達も畳を知っているのか?この部屋は和国から訪れた親友が作ってくれた部屋でな、ここだけは俺も安心して休められるから気に入ってるんだ!!はっはっはっ!!」
「この部屋はあたしも気に入ってますよ。こうやって寝そべっても身体が汚れませんから」
「こら、行儀が悪いよ」
「ほう……和国の職人もこの国に住んでいたのか」


エリナは遠慮なく畳の上に横になると、他の者達も履物を脱いで畳の上に上がる。ちなみに屋敷に入る時に渡された履物は草の葉で構成され、ギンタロウの場合は蹄の形をした布袋を足の裏に張り付けて廊下を歩いていた。


「さあ、遠慮なく寛いでくれ!!おい、誰か茶菓子と熱いお茶を用意してくれ!!」
『あ、すいません!!今手を離せないんです!!自分で用意してくださぁいっ!!』
「むう、仕方あるまい……待っていろ、すぐに俺が持ってくるからな!!」
「え、ギンタロウさんが!?」
「……ここの使用人はどんな教育をしてるんだ」


屋敷の主人であるギンタロウに対して使用人が客人の持て成しを手伝わせる事にカゲマルは眉を顰めるが、当のギンタロウ本人は気にした様子もなく部屋を出て本当に茶菓子とお茶を用意してきた。


「さあ、遠慮なく食べてくれ!!これは和国からの土産のおはぎと緑茶という奴だ!!俺の大好物だぞ!!」
「おおっ!!あたしの大好物っす!!」
「ほう、おはぎはともかく、茶葉まであるのでござるか」
「良い香りだ……高級品だな」
「わあ、この世界で食べるのは初めてかも……」


机の上に差しだされたおはぎと緑茶をレナ達は遠慮なく味わう。おはぎも緑茶も転生してから初めて食べたレナは勘当を覚え、地球ではあまり縁がなかった食べ物ではあるが、食べてみると懐かしさのあまりに涙を流しそうになる。


(ああっ……お祖母ちゃんの家で食べたおはぎを思い出すな。この世界でも食べられるなんて夢みたいだ)


和食が気軽に食べられる生活を送っていないため、レナは感慨深く食べているとエリナが食事の途中に本題に入る。


「叔父さん、さっきも話したんですけど、あたし達がここに来たのは叔父さんに協力して欲しいんです。ティナ様を助けるために力を貸してくれませんか?」
「むうっ……さっきの話か。正直に言えば返答に困るな!!」
「まあ、人が石像になるという突拍子もない話を簡単に信じられるはずがないでござるな……」


ギンタロウは姪のエリナの話でも俄には信じられず、伝説の魔人族であるメドゥーサの魔眼を手に入れた死霊使いによってティナを除いた王族全員が石像にされたと聞いても素直には信じられないだろうとハンゾウは考えたが、ギンタロウは不思議に首を傾げた。


「ん?いや、俺が困っているのは別の理由だぞ?エリナの話はそもそも疑ってなどいない、俺の姪が嘘をつくような娘ではない事は知っているからな!!エリナがそういうのなら本当に国王様達は石像と化しているんだろう?」
「叔父さん、信じてくれるんですか?」
「当たり前だ!!お前は姪とはいえ、俺にとっては実の娘のような物だ!!家族の言葉はなにがろうと疑わん!!」
「お、叔父さ~ん!!」
「待て、話は戻るがそれならばどうして返答に困る?」


ギンタロウの言葉にエリナは感激するが、それを冷静にカゲマルが二人の間に割って入り、どうしてギンタロウがレナ達の協力に応じる事を渋るのかを尋ねる。ギンタロウは困った表情を浮かべながら緑茶を飲み込み、溜息を吐き出す。


「お前達の話は俺も信じている……だが、協力してくれと頼まれてもそう簡単にはいかんのだ!!」
「ど、どういう事っすか!?」
「現在、俺は東聖将の位を剥奪されかかっているからな!!」
『ええっ!?』


予想外の返答を受けたレナ達は驚愕し、どうしてギンタロウが東聖将の座を剥奪されようとしているのかを尋ねると、理由は一か月以上前に遡るという。


「実は将軍の中で俺だけが森人族ではない事に不満を抱く輩が多くてな。特に南方のレイビの奴に至っては俺の事を嫌っている!!あいつにとってケンタウロス族など魔物の一種だと普段から抜かしているからな!!俺もあいつの事は大嫌いだ!!」
「レイビ……確か南聖将の?」
「しかし、東聖将の位を与えたのはヨツバ王国の国王ではないのでござるか?」
「うむ!!レイビの奴は何度も国王様に俺を東聖将から外す様に直訴したようだが、寛大な国王様は種族が違うからという理由だけで将軍の座を奪うなど愚かな事だと宣言してくれた!!だから俺はあの人に一生仕えると決めた!!」
「国王様は若い頃に色々な種族と交わっていたそうで、森人族だけが特別に優れた種族だとは考えていないんですよ。だから今の国王様がヨツバ王国の王の座に就いた時から他種族の方がこの国によく訪れるようになりました」


ヨツバ王国のデブリ国王は人種差別を行わず、むしろ様々な種族と交わる事に積極的で他国からの来訪者を快く受け入れていた。そのお陰で現在のヨツバ王国には森人族以外の種族も多く、特に東聖将の管理する領地には数多くのケンタウロスが暮らしている。

だが、それを気に入らないがの南聖将のレイビであり、彼はケンタウロスであるギンタロウが自分と同格の六聖将である事が気にくわなかった。理由は魔人族であるケンタウロスなど魔物使いであるレイビにとってはせいぜい人語を理解する魔物という程度の存在でしかなく、いくら国王に認められようと彼はギンタロウの事を認められなかった。

しかも最悪な事にレイビはギンタロウを嫌っていながらも南方の領地の管理のために彼から兵士を借りている状態であり、その事も理由でレイビはギンタロウの存在を忌々しく感じていた。自分が嫌っている相手に力を借りて領地を管理するという立場にレイビは酷く屈辱感を味わい、もしも東聖将がギンタロウでなければ彼はここまでの屈辱を味わう事はなかっただろう。

嫌悪する相手から借り受けた兵士で領地を守護しなければならない日々を送っていたレイビだが、デブリ国王の代わりにカレハがヨツバ王国を管理するようになった途端、彼は絶好の好機と考えてある行動を起こしたという。


「実は先日、王都のカレハ王女から書状が届いてな……内容はレイビが再び俺から東聖将の座を降りるように進言してきたのだ。そしてカレハ王女もその案を受け入れるかもしれん!!」
「ええっ!?」
「カレハ王女様が……」
「だが、もしも自分に忠誠を誓うというのであれば東聖将の座は剥奪せず、代わりに今後はレイビに領地内のケンタウロス以外の兵力を譲り渡すように命じられてな!!それで困っているのだ!!」
「何と……」


ギンタロウも自分の立場が窮地に立たされているらしく、この状況ではエリナ達に力を貸す事も難しいという。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。