不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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S級冒険者編

辻斬り事件

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「ケンゾウさんも剣鬼なんですよね」
「ああ、そうだな……といっても、人を殺した事なんて1度しかないんだがな」


レナの言葉にケンゾウは何かを思い出すようにため息を吐き出し、彼の言葉を聞いてレナは嘘ではないと感じた。そして彼が殺した「1人」というのがケンゾウにとっての最愛の人間だったのだろう。



――剣鬼は最も愛する人間を殺したときに目覚める称号であり、剣聖を上回る力を手に入れる代償として人殺しに快楽を覚える人間も多い。だからこそ剣鬼に至った殆どの人間の殆どは大量殺人者として歴史に名前を残していた。だが、レナやケンゾウのように殺人鬼には至らず、平穏に暮らす人間だっている。



ケンゾウが殺した相手は共に剣士として切磋琢磨をしていた相手でもあり、彼にとっては好敵手のような存在だった。だが、年月が経つ事に剣士として高みを目指すケンゾウに対し、相手の人間は徐々に剣の腕に差が生じ始める。このままではケンゾウに追いつけない事を悟った剣士は「禁忌」を犯してしまい、ケンゾウに討たれた事になった。


「……俺が殺した剣士は馬鹿な男でな、吸血鬼と化して俺に襲ってきやがった。だからこそ俺は返り討ちにするしかなかった」
「吸血鬼?」
「50年以上も前の話になるが、この国に吸血鬼が現れて辻斬り紛いの騒動を引き起こしやがった。結局、犯人は捕まる事はなかったが、そのせいで多くの剣士が失われたよ。俺が斬った剣士もその中の一人だ……馬鹿な奴だったよ」


ケンゾウは自分が切り伏せた剣士の事を思い出してため息を吐き出し、余程大切に想っていた相手だったらしい。それこそ「剣鬼」に覚醒する程に大切に想った相手が、吸血鬼に身を落として自身に襲いかかってきたという事に彼は今でも心に傷を残していた。

だが、皮肉にも剣鬼と覚醒してからケンゾウは剣士として高みに登り、遂には平民の出身から剣術指南役という大任を任せられる。今現在は引退して道場を経営しているが、彼にとっては一時期だけとはいえ、和国の剣士の頂点に建てた事に満足したという。


「おっと、俺の昔話はここまでにしておこうか。悪いな兄さん、色々と迷惑をかけた。その詫びにといっては何だが、今日は俺が飯を奢ってやるよ。何か食べたい物はあるか?寿司でもすき焼きでも何でもいいな」
「すき焼きまであるんだこの国……じゃあ、カニ鍋がいいかな」
「兄さん、結構遠慮ないな……まあ、迷惑をかけた詫びだ。よし、それじゃあ俺の知り合いの店に……何だ?」


レナ達に詫びをするためにケンゾウは立ち上がろうとすると、道場の玄関の方から騒がしい事に気付き、突如として道場の内部に大勢の人間が入り込む。その全員が警官の服装をしており、ケンゾウの姿を発見すると警官たちは取り囲む。


「動くなっ!!そこでじっとしていろ!!」
「逃げられるとは思うなよ!!」
「おいおい、これは何の真似だ?」
「か、勝手に道場に入るなど……しかも土足で!!無礼にも程があるだろう!!」
「いったい拙者達に何用でござる!?」


自分達を取り囲んだ警官たちにレナ達は見渡すと、やがて一人の男が前に出てきた。細目が特徴的な長身の男性で、腰には異様に刀身が長い日本刀を装備していた。男は険しい表情を浮かべながらケンゾウに視線を向けると、一枚の書類を取り出して見せつける。


「元剣術指南役のケンゾウだな?貴様にある事件の容疑が掛かっている。一緒に来てもらうぞ」
「殺人だと!?ふ、ふざけるな!!師匠がそんな事をするはずがないだろう!?」
「抵抗するならば貴様も強制連行するぞ!!」
「横暴な警官だな……これがこの国の警察のやり方?」
「何だと貴様……」
「よせ、止めろお前達」


警官の言葉にレナが言い返すと、一人の警官が腰に差した刀を抜こうとした。しかし、それを長身の男が止めると彼はレナと向き直り、睨みつけた。


「貴様の事は知っているぞ、S級冒険者のレナ・バルトロスだな」
「へえ、俺の事を知っているの?結構、有名になったのかな」
「我々の情報網を甘く見るな。貴様がこの国に訪れた理由は知っている、だがいくらS級冒険者であろうと我々の邪魔をすれば容赦はしない。大人しくその男を引き渡せ」
「引き渡せだと?俺がいったい何の容疑で捕まえるつもりだ?」
「当然、この界隈で行われている殺人事件の容疑者だ」
「例の辻斬りの事でござるか?しかし、どうしてケンゾウ殿が……」


警官たちが訪れたのはケンゾウを殺人事件の容疑者として捕まえるためらしく、彼等は今にも刀を引き抜いて襲いかからない気迫だった。しかし、ケンゾウ本人は辻斬りの犯人に疑われている事に疑問を抱き、自分がどうして犯人に疑われているのかを問い質す。


「俺が犯人であるという証拠は?それを聞かない限りは俺も付いていく事は出来ねえな」
「知れた事よ、貴様が「剣鬼」だからだ。それだけで証拠としては十分だろう?」
「……なるほど、そういう事か」


ケンゾウは警官の言葉に目を鋭くさせると、周囲を取り囲んでいた警官たちは怯えた表情を浮かべるが、長身の男は笑みを浮かべながら刀を引き抜く。
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