857 / 2,091
S級冒険者編
辻斬り事件
しおりを挟む
「ケンゾウさんも剣鬼なんですよね」
「ああ、そうだな……といっても、人を殺した事なんて1度しかないんだがな」
レナの言葉にケンゾウは何かを思い出すようにため息を吐き出し、彼の言葉を聞いてレナは嘘ではないと感じた。そして彼が殺した「1人」というのがケンゾウにとっての最愛の人間だったのだろう。
――剣鬼は最も愛する人間を殺したときに目覚める称号であり、剣聖を上回る力を手に入れる代償として人殺しに快楽を覚える人間も多い。だからこそ剣鬼に至った殆どの人間の殆どは大量殺人者として歴史に名前を残していた。だが、レナやケンゾウのように殺人鬼には至らず、平穏に暮らす人間だっている。
ケンゾウが殺した相手は共に剣士として切磋琢磨をしていた相手でもあり、彼にとっては好敵手のような存在だった。だが、年月が経つ事に剣士として高みを目指すケンゾウに対し、相手の人間は徐々に剣の腕に差が生じ始める。このままではケンゾウに追いつけない事を悟った剣士は「禁忌」を犯してしまい、ケンゾウに討たれた事になった。
「……俺が殺した剣士は馬鹿な男でな、吸血鬼と化して俺に襲ってきやがった。だからこそ俺は返り討ちにするしかなかった」
「吸血鬼?」
「50年以上も前の話になるが、この国に吸血鬼が現れて辻斬り紛いの騒動を引き起こしやがった。結局、犯人は捕まる事はなかったが、そのせいで多くの剣士が失われたよ。俺が斬った剣士もその中の一人だ……馬鹿な奴だったよ」
ケンゾウは自分が切り伏せた剣士の事を思い出してため息を吐き出し、余程大切に想っていた相手だったらしい。それこそ「剣鬼」に覚醒する程に大切に想った相手が、吸血鬼に身を落として自身に襲いかかってきたという事に彼は今でも心に傷を残していた。
だが、皮肉にも剣鬼と覚醒してからケンゾウは剣士として高みに登り、遂には平民の出身から剣術指南役という大任を任せられる。今現在は引退して道場を経営しているが、彼にとっては一時期だけとはいえ、和国の剣士の頂点に建てた事に満足したという。
「おっと、俺の昔話はここまでにしておこうか。悪いな兄さん、色々と迷惑をかけた。その詫びにといっては何だが、今日は俺が飯を奢ってやるよ。何か食べたい物はあるか?寿司でもすき焼きでも何でもいいな」
「すき焼きまであるんだこの国……じゃあ、カニ鍋がいいかな」
「兄さん、結構遠慮ないな……まあ、迷惑をかけた詫びだ。よし、それじゃあ俺の知り合いの店に……何だ?」
レナ達に詫びをするためにケンゾウは立ち上がろうとすると、道場の玄関の方から騒がしい事に気付き、突如として道場の内部に大勢の人間が入り込む。その全員が警官の服装をしており、ケンゾウの姿を発見すると警官たちは取り囲む。
「動くなっ!!そこでじっとしていろ!!」
「逃げられるとは思うなよ!!」
「おいおい、これは何の真似だ?」
「か、勝手に道場に入るなど……しかも土足で!!無礼にも程があるだろう!!」
「いったい拙者達に何用でござる!?」
自分達を取り囲んだ警官たちにレナ達は見渡すと、やがて一人の男が前に出てきた。細目が特徴的な長身の男性で、腰には異様に刀身が長い日本刀を装備していた。男は険しい表情を浮かべながらケンゾウに視線を向けると、一枚の書類を取り出して見せつける。
「元剣術指南役のケンゾウだな?貴様にある事件の容疑が掛かっている。一緒に来てもらうぞ」
「殺人だと!?ふ、ふざけるな!!師匠がそんな事をするはずがないだろう!?」
「抵抗するならば貴様も強制連行するぞ!!」
「横暴な警官だな……これがこの国の警察のやり方?」
「何だと貴様……」
「よせ、止めろお前達」
警官の言葉にレナが言い返すと、一人の警官が腰に差した刀を抜こうとした。しかし、それを長身の男が止めると彼はレナと向き直り、睨みつけた。
「貴様の事は知っているぞ、S級冒険者のレナ・バルトロスだな」
「へえ、俺の事を知っているの?結構、有名になったのかな」
「我々の情報網を甘く見るな。貴様がこの国に訪れた理由は知っている、だがいくらS級冒険者であろうと我々の邪魔をすれば容赦はしない。大人しくその男を引き渡せ」
「引き渡せだと?俺がいったい何の容疑で捕まえるつもりだ?」
「当然、この界隈で行われている殺人事件の容疑者だ」
「例の辻斬りの事でござるか?しかし、どうしてケンゾウ殿が……」
警官たちが訪れたのはケンゾウを殺人事件の容疑者として捕まえるためらしく、彼等は今にも刀を引き抜いて襲いかからない気迫だった。しかし、ケンゾウ本人は辻斬りの犯人に疑われている事に疑問を抱き、自分がどうして犯人に疑われているのかを問い質す。
「俺が犯人であるという証拠は?それを聞かない限りは俺も付いていく事は出来ねえな」
「知れた事よ、貴様が「剣鬼」だからだ。それだけで証拠としては十分だろう?」
「……なるほど、そういう事か」
ケンゾウは警官の言葉に目を鋭くさせると、周囲を取り囲んでいた警官たちは怯えた表情を浮かべるが、長身の男は笑みを浮かべながら刀を引き抜く。
「ああ、そうだな……といっても、人を殺した事なんて1度しかないんだがな」
レナの言葉にケンゾウは何かを思い出すようにため息を吐き出し、彼の言葉を聞いてレナは嘘ではないと感じた。そして彼が殺した「1人」というのがケンゾウにとっての最愛の人間だったのだろう。
――剣鬼は最も愛する人間を殺したときに目覚める称号であり、剣聖を上回る力を手に入れる代償として人殺しに快楽を覚える人間も多い。だからこそ剣鬼に至った殆どの人間の殆どは大量殺人者として歴史に名前を残していた。だが、レナやケンゾウのように殺人鬼には至らず、平穏に暮らす人間だっている。
ケンゾウが殺した相手は共に剣士として切磋琢磨をしていた相手でもあり、彼にとっては好敵手のような存在だった。だが、年月が経つ事に剣士として高みを目指すケンゾウに対し、相手の人間は徐々に剣の腕に差が生じ始める。このままではケンゾウに追いつけない事を悟った剣士は「禁忌」を犯してしまい、ケンゾウに討たれた事になった。
「……俺が殺した剣士は馬鹿な男でな、吸血鬼と化して俺に襲ってきやがった。だからこそ俺は返り討ちにするしかなかった」
「吸血鬼?」
「50年以上も前の話になるが、この国に吸血鬼が現れて辻斬り紛いの騒動を引き起こしやがった。結局、犯人は捕まる事はなかったが、そのせいで多くの剣士が失われたよ。俺が斬った剣士もその中の一人だ……馬鹿な奴だったよ」
ケンゾウは自分が切り伏せた剣士の事を思い出してため息を吐き出し、余程大切に想っていた相手だったらしい。それこそ「剣鬼」に覚醒する程に大切に想った相手が、吸血鬼に身を落として自身に襲いかかってきたという事に彼は今でも心に傷を残していた。
だが、皮肉にも剣鬼と覚醒してからケンゾウは剣士として高みに登り、遂には平民の出身から剣術指南役という大任を任せられる。今現在は引退して道場を経営しているが、彼にとっては一時期だけとはいえ、和国の剣士の頂点に建てた事に満足したという。
「おっと、俺の昔話はここまでにしておこうか。悪いな兄さん、色々と迷惑をかけた。その詫びにといっては何だが、今日は俺が飯を奢ってやるよ。何か食べたい物はあるか?寿司でもすき焼きでも何でもいいな」
「すき焼きまであるんだこの国……じゃあ、カニ鍋がいいかな」
「兄さん、結構遠慮ないな……まあ、迷惑をかけた詫びだ。よし、それじゃあ俺の知り合いの店に……何だ?」
レナ達に詫びをするためにケンゾウは立ち上がろうとすると、道場の玄関の方から騒がしい事に気付き、突如として道場の内部に大勢の人間が入り込む。その全員が警官の服装をしており、ケンゾウの姿を発見すると警官たちは取り囲む。
「動くなっ!!そこでじっとしていろ!!」
「逃げられるとは思うなよ!!」
「おいおい、これは何の真似だ?」
「か、勝手に道場に入るなど……しかも土足で!!無礼にも程があるだろう!!」
「いったい拙者達に何用でござる!?」
自分達を取り囲んだ警官たちにレナ達は見渡すと、やがて一人の男が前に出てきた。細目が特徴的な長身の男性で、腰には異様に刀身が長い日本刀を装備していた。男は険しい表情を浮かべながらケンゾウに視線を向けると、一枚の書類を取り出して見せつける。
「元剣術指南役のケンゾウだな?貴様にある事件の容疑が掛かっている。一緒に来てもらうぞ」
「殺人だと!?ふ、ふざけるな!!師匠がそんな事をするはずがないだろう!?」
「抵抗するならば貴様も強制連行するぞ!!」
「横暴な警官だな……これがこの国の警察のやり方?」
「何だと貴様……」
「よせ、止めろお前達」
警官の言葉にレナが言い返すと、一人の警官が腰に差した刀を抜こうとした。しかし、それを長身の男が止めると彼はレナと向き直り、睨みつけた。
「貴様の事は知っているぞ、S級冒険者のレナ・バルトロスだな」
「へえ、俺の事を知っているの?結構、有名になったのかな」
「我々の情報網を甘く見るな。貴様がこの国に訪れた理由は知っている、だがいくらS級冒険者であろうと我々の邪魔をすれば容赦はしない。大人しくその男を引き渡せ」
「引き渡せだと?俺がいったい何の容疑で捕まえるつもりだ?」
「当然、この界隈で行われている殺人事件の容疑者だ」
「例の辻斬りの事でござるか?しかし、どうしてケンゾウ殿が……」
警官たちが訪れたのはケンゾウを殺人事件の容疑者として捕まえるためらしく、彼等は今にも刀を引き抜いて襲いかからない気迫だった。しかし、ケンゾウ本人は辻斬りの犯人に疑われている事に疑問を抱き、自分がどうして犯人に疑われているのかを問い質す。
「俺が犯人であるという証拠は?それを聞かない限りは俺も付いていく事は出来ねえな」
「知れた事よ、貴様が「剣鬼」だからだ。それだけで証拠としては十分だろう?」
「……なるほど、そういう事か」
ケンゾウは警官の言葉に目を鋭くさせると、周囲を取り囲んでいた警官たちは怯えた表情を浮かべるが、長身の男は笑みを浮かべながら刀を引き抜く。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。