不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

ダイン 監獄都市編

ひいいっ！！助けてぇっ！！

「殺せぇっ！！絶対に逃がすな！！」
「生きて返さなないわよ！！」
「生き血を搾り取ってパール様に差し出してやるわ！！」
「ひいいっ！？」


ダインは必死に通路を駆け抜け、下着姿の女囚に追い掛け回される。このまま捕まれば冗談抜きで殺されるかもしれず、そもそも見つかっている時点で作戦が破綻しかかっていた。だが、まだ完全には失敗に終わっておらず、仮に侵入者が現れた事を気付かれても正体を知られずに逃げ出せれば良い。

問題なのは獣人族の囚人とダインでは身体能力に差があり、徐々に距離が追いつめられていく。ここでダインは影魔法を利用しようかと考えたが、人前で影魔法を発動するのはまずい。


『いいですか、ダインさん。ダインさんの魔法は既に大勢の人間に見られています。だから屋敷で影魔法なんて使えば正体がバレますからね』
『ギギィッ(気を付けろよ)』
『わ、分かってるよ！！そんなへまを僕がするわけないだろ！？』


ミイネに言われた言葉を思い返し、必死に逃げながらダインは囚人達から逃げ出す方法を考える。何処かに隠れられる場所はないかとダインは探すと、思いもよらぬ存在を目にする。


(え、あいつまさか……どうしてここに！？)


曲がり角の方で見覚えのある小さな生き物を発見したダインは驚くが、今は考えている暇はなく、その生き物の後を追う。女囚人達はダインの後を追いかけ、曲がり角を曲がろうとした時、彼の姿が消えている事に気付く。


「なっ！？何処に消えたの！？」
「まさか外へ逃げ出した！？」
「いいえ、窓と扉は閉まっているわ！！きっと近くの部屋に隠れたのよ！！」


女囚人達が辿り着いたのは広間であり、彼女達は窓や扉を確認するが開けられた形跡はない。時間的に考えても外に逃げ出したとは考えにくく、近くの部屋に隠れていると思われた。

ダインを探すために囚人達は手分けして部屋の中を調べ回り、彼が隠れていないのかを確認する。だが、どういうわけなのかダインの姿は見当たらず、彼女達は困惑する。部屋の中を隈なく探してもダインの姿は見当たらず、彼女達は何処へ消えたのかと捜索を続ける。


「どういう事！？こっちの部屋にもいないわ！！」
「ここにも隠れてないわよ！！」
「まさか、もう外に逃げ出したんじゃ……」
「それならファングたちが捕まえるはずだわ！！きっと、まだ何処かに隠れているのよ！！上の階も探し直すわよ！！」
「ええっ！！」


見つからないダインに対して女囚人達は１階だけではなく、２階も探すために階段を駆け上る。しかし、この時に一人の囚人がダインを見失った広間に存在する煙突と繋がった暖炉だった。


「まさか……」
「ちょっと、あんた何してるのよ！！早く来なさい！！」
「え、ええっ……」


他の者に注意された事で暖炉に視線を向けていた女囚人は二階へ向かう。まさか煙突を登って外へ逃げ出すなど有り得ず、きっと犯人は二階へ逃げたのだと考えた女囚人は仲間の後を追う――





――この女囚人の考えは半分は当たっており、誰もい亡くなった後にダインは煙突と繋がっている暖炉から抜け出し、身体中が煤と埃まみれになりながらも抜け出す事に成功した。彼は息を荒げ、這いつくばる様に抜け出す。


「た、助かった……死ぬかと思った」
「チュチュッ」
「うわっ……びっくりした！！驚かせるなよ、けどありがとな……」


ダインの前には頭にリボンを装着した鼠が立っており、闘技場に訪れた時も見かけた鼠だった。前回に遭遇した時は兵士達の休憩室に繋がる隙間を教え、ダインに戦う相手の情報を知る機会を与えた。そして今回は女囚人達からの隠れ場所まで教えてくれる。

この鼠が何者なのかは不明だが、リボンを頭に巻いた鼠はダインの身体に擦り寄り、懐いている様子だった。そんな鼠に対してダインは不思議に思いながらも頭を撫でてやる。


「よしよし、お前のお陰で助かったよ……でも、まさか煙突の中に隠れる羽目になるとは」
「チュウチュウッ」
「ん？何だ、そっちに何かあるのか？」


鼠はダインに付いて来いとばかりに鳴き声を上げ、その鼠の行動にダインは戸惑いながらも従う。ここまで助けてくれたのでダインはこの鼠の事を信じる事を決め、後に続く。

リボンを頭に巻いた鼠はダインを先導するように移動すると、やがて地下に続く階段の前に移動する。階段を見てダインは当初の目的地である地下の倉庫に続いている階段だと気付き、驚いた様子で鼠に語り掛けた。


「お前、僕がここを探しているのを気付いていたのか？」
「チュウッ？」
「不思議な奴だな……まあ、いいや」


地下に続く階段を降りたダインはやがて鋼鉄製の扉の前に辿り着き、この先が倉庫のはずだった。この倉庫は食料庫として利用されているらしく、もしかしたら目当ての酒もここで保管されている可能性が高い。

当然ながら食料庫には鍵が施されており、それに対してダインは掌を構えると、屋敷に侵入した時のように影魔法の応用で鍵を開く。扉を開くと急に冷気が迸り、どうやら内部の方は冷蔵庫や冷凍庫のように冷え切っていた。