不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

弱肉強食の島編

調子に乗るなよ……

「はぁあああっ！！」
「な、何だ、この力……！？」
「ハルナ！！」


アンジュの大剣が押し込まれ、ハルナは耐え切れずに膝を崩す。このままでは彼女が切り裂かれると判断したレナはサーシャの身体を掴むと、アンジュに目掛けて投げ飛ばす。


「うおりゃああっ！！」
「え、ちょっ……きゃああっ！？」
「なっ！？」
「うわっ！？」


投げ飛ばされたサーシャはアンジュに激突すると、アンジュは体勢を崩してしまい、鬼刃の発動に失敗した。意識が乱れると戦技の発動は出来ない事はレナも承知しており、この隙にレナはハルナと共に反撃に移る。


「今だハルナ！！」
「よ、よし！！」


レナの声に合わせてハルナも動き出すと、彼女はアンジュとサーシャの顔面を掴み、力ずくで壁に叩き込む。この際に二人は後頭部を強打して一瞬だけ意識を失う。


「があっ！？」
「あぐぅっ！？」
「どうだ、この野郎！！」
「ハルナ、離れろ！！」


二人を壁際に叩きつけたハルナにレナは指示を出すと、即座に彼女は従い、頭を強打して身体をふらつかせるアンジュとサーシャに対してレナは踏み込む。この際にレナは二人の顎先に向けて掌底を繰り出す。

格闘術の基礎はゴンゾウやアイラから教わっており、武器を失った時のために護身術程度の技術は身に付けている。二人に対してレナは顎に目掛けて掌底を叩き込む。


「はああっ！！」
「「ぶふぅっ！？」」
「おっしゃあっ！！」


美少女らしからぬ悲鳴を漏らしながらアンジュとサーシャは顎を打ちぬかれて意識を失い、そのまま倒れ込む。その様子を見てハルナは歓声を上げるが、この時に上の方から物音が聞こえてきた。


「アンジュ、サーシャ！！何事だ！？」
「なっ、二人とも……それにお前達は！？」
「脱走だ！！奴隷共が脱走しようとしているぞ！！」
「げっ……」
「……まだいたのか」


階段の上にレナ達は視線を見上げると、そこには数名のダークエルフが存在し、全員が若い女であった。厳密に言えばダークエルフは森人族と同様に長寿のため、見た目は若くても実年齢とかけ離れている可能性もある。

新手のダークエルフ達はレナとハルナに対して警戒心を抱き、武器を身構える。流石に数が多く、倒せるかと思った時に気絶したと思われたアンジュとサーシャが頭を抑えながら起き上がる。


「うっ……」
「くぅっ……」
「うわっ！？まだ起きれるのか！？」
「くっ……手加減し過ぎたか」


起き上がった二人を見てレナとハルナは構えるが、何故かアンジュとサーシャは武器を手放してレナに視線を向け、二人は虚ろな瞳のままお互いの顔を見て頷く。


「おい、お前……名前は？」
「名前を……教えろ」
「……今更？」
「あたしはハルナだよ！！そっちはレナだ！！」


唐突に名前を問いかけてきた二人組にレナは戸惑い、ハルナが代わりに即答すると、アンジュとサーシャはハルナに顔を向けずにレナの元へ近づき、ゆっくりと手を伸ばす。


「「うああっ！！」」
「くっ！？」
「おい、レナから離れ……！？」


アンジュとサーシャは両腕を広げてレナに近付き、その様子を見て自分を狙うつもりかとレナは身構え、ハルナは助けようとしたが、何故かアンジュとサーシャからは殺気の類が感じられない。

二人はゆったりとした動きでレナに近寄り、その様子を見て戦うつもりはないのかとレナは戸惑うと、アンジュとサーシャは口元に笑みを浮かべてレナの腕に抱きつく。


「お前、気に入ったぞ」
「……強い奴、嫌いじゃない」
「は？」
「ちょ、何してんだ！？」
『アンジュ！？サーシャ！？』


アンジュとサーシャはレナの腕に抱きつくと、アンジュは豊かな胸元でレナの腕を挟み込み、サーシャの方は頬ずりを行う。二人とも先ほどまでの態度はどうしたのかレナに擦り寄り、その様子を見てハルナとダークエルフ達は呆気に取られる。

何が何だか分からないが先ほど頭を強打した際に意識が混濁して正気を失ったのかと思ったレナは、自分に擦りよう二人に対して戸惑いながらもハルナに話しかけた。


「よく分からないけど……ハルナ、こいつらを頼む」
「あんっ」
「やぁっ……」
「うわっ……頼むって言われても」


レナはハルナにアンジュとサーシャを任せると、引き剥がされた二人は寂しそうな表情を浮かべるが、レナは新たに現れたダークエルフ達と向かい合う。それぞれが武器をに手にしており、雰囲気から察しても立た物ではない。


(やっぱり見知った顔はいないな……となると、やっぱり別の地方のダークエルフか)


ヨツバ王国のダークエルフならば全員がレナの顔見知りだが、この場に存在するダークエルフの女性達はレナは見覚えがない。外見の年齢的には全員がホムラとそれほど変わらないと思われるが、エルフの場合は見た目と年齢は必ずしも釣り合うわけではない。

ともかくこの状況を脱するためにレナは身構えると、この時にダークエルフの女性を掻き分けて一人の老婆が現れる。こちらの女性もダークエルフらしく、褐色の肌をしていたが耳元には緑色の琥珀のようなイヤリングをしていた。