不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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蛇足編

依頼者の謎

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「けど、依頼者が誰なのかは気になるな。シルバースライムを捕まえたらどうするつもりだろう」
「焼いて食べるのかもしれない」
「スライムを!?」
「ぷるぷるっ(スライムは食用じゃない)」


依頼書を取り出したレナは依頼人の確認を行おうとしたが、依頼書には名前は匿名希望としか書かれておらず、依頼人が何者なのかは分からなかった。


「今回の依頼は匿名希望との事で依頼人の正体は明かせないようでござる」
「なんか怪しいけど……やばい人からの依頼じゃないよね」
「大丈夫でござる、拙者達には知らせられなくてもマリア殿ならば知っているはずでござる」
「そう……まあ、叔母様が選んだ依頼ならいいか」


レナに依頼を任せたのはマリアである以上、怪しい人物からの依頼を引き受けるとは思いにくい。シルバースライムを依頼人が何故欲しているのかは気になったが、報酬金額を考えると相当な金持ちだと予想された。


「それにしてもアトラス金貨10枚なんて太っ腹だね」
「拙者はそちらの方が気になっているでござる。どうしてわざわざアトラス金貨で支払いを行おうとするのか……そもそもアトラス金貨自体が滅多に手に入らない代物のはずでござる」
「うちの国でもアトラス金貨を持っているとしたら貴族ぐらいですね」
「アトラス金貨……レナは持ってる?」
「一枚だけ持ってる」


コトミンの言葉にレナはアトラス金貨を取り出し、このアトラス金貨は今回の依頼人から前金として受け取った代物である。アトラス金貨は特別な魔法金属で加工されており、現在でこれを所有する人間は貴族ぐらいしかいない。

依頼人はアトラス金貨を10枚支払うという事は貴族である可能性が高く、何者なのかは気にかかるがマリアが依頼を受託した以上は怪しい人物ではないと思われる。しかし、支払いが全てアトラス金貨と言う事にレナは気になった。


「……そろそろ寝よう」
「分かった。ならスラミン枕は私が使う、レナは私のおっぱい枕でいつも通りに寝ればいい」
「ちょっ!?兄貴、いつもコトミンさんのおっぱいを枕にして寝てたんですか!?」
「み、見損なったでござる!!」
「い、いつもじゃないわい!!」
「でも、たまにしてる」
「ぷるぷるっ(アツアツだぜ)」


コトミンの爆弾発言にハンゾウとエリナが頬を赤らめる中、ウルは眠たそうに欠伸を行う――





――翌日、塔の大迷宮に到着すると過去の時代に訪れた時よりも人が集まっていた。その中には冒険者や傭兵ではないと思われる人物も多く、バルトロス王国の兵士も大量に存在した。


「なんだあの人だかり……」
「きっと、例の街作りのために集まった人々でござる」
「おお、本格的にここに街を作るつもりなんすね」


塔の大迷宮を中心に新しい街を作り出す計画が進められており、城壁の建築が行われようとしていた。魔物が近付けない範囲は1キロ圏内であるため、そこから先は城壁で取り囲むつもりらしい。

狼車に乗り込んだレナ達が近付くと兵士達は魔物であるウルが近付いてくる姿を確認して驚き、慌てて馬に乗った兵士が何名か近付く。そして狼車の前に停止すると兵士は敬礼を行う。


「レナ王子様!!お待ちしておりました!!」
「え?俺の事を知っているの?」
「当然でございます!!白狼種を従えられるのは世界広しと言ってもレナ王子様だけだと有名ですので!!」
「クゥ~ンッ」


兵士達は白狼種のウルが馬車を引いている姿を見て搭乗者がレナだと悟り、即座に挨拶に向かう。自分も有名になったと思いながらもレナは兵士に作業の経過を尋ねた。


「街作りの方は順調?」
「は、はい!!予定通りに進んでおります!!」
「そう……でも、ここって魔物は近づけないから苦労してるんじゃない?魔物使いも雇えないでしょ?」
「お、おっしゃる通りです……」


魔物使いを雇えば力の強い魔物を使役させて資材の運搬を手伝わせる事ができる。この世界では建造を行う際は魔物力を利用する事が多いが、大迷宮のような場所は魔物が近付けない事もあって彼等の力には頼れない。だから街づくりを行う時は人間だけの力でなんとかしなければならない。

馬などの動物は大迷宮に近付く事はできるため、馬車などで資材を運び出す事はできる。しかし、魔物の力を借りれないとなると資材の運搬には時間が掛かり、街を建設するには相当長い時間が掛かる事が考えられた。


(俺の空間魔法なら資材を異空間に保管して一気に運ぶ事もできるし、もしくは空間移動を利用すれば資材を直接運び込む事もできるけどな)


レナの空間魔法ならば街作りに必要な資材を運び出すのにこれ以上に役立つ魔法はないが、今は冒険者として仕事を果たす事に集中し、兵士に話を通して大迷宮に挑む事にした。


「悪いけど先を急ぐから行かせてもらうよ」
「はっ!!どうかお気をつけて!!」
「宿所には話を通してありますので疲れた時はそこで休んでください!!」
「分かった。ありがとう」


兵士に礼を告げてレナ達は塔の大迷宮へ向かおうとしたが、急にウルが立ち止まって困った表情を浮かべる。
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