種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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学園編

クズキの最期

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「がはっ……」


胸元を大きく斬られ、激しい出血をしながらクズキは膝をつく。そんな彼に、ダークエルフは一瞥しただけで、すぐに学園の正門へと向かう。そんな彼女にクズキは胸元を抑え、血反吐を吐きながらも笑みを浮かべ、


「もう……遅いですよ……彼女は、既に事を為している」
「何?」


吐血しながらも、ダークエルフに向かってはっきりと告げる。彼女は再び此方の方を見つめ、


「センチュリオンは……彼女だけじゃありませんよ」
「センチュリオン……?」


何かに勘付いたようにダークエルフは視線を鋭くさせ、クズキはすぐ傍の鉄柵に身体を預け、


「私もセンチュリオンですよ……センチュリオンの「クズノキ」それが今の私の名前です」
「センチュリオン……千年前の雑兵どもか」
「これは手厳しい……ですが、事実ですね」


服の懐から煙草を取り出し、口に咥えると火をともすクズキ。彼女は目の前の男が、服の裏に一体どれほどの武器や道具を隠しているのかと気になった。


「まさか本物ではあるまいし……センチュリオンの名前を語った組織か?」
「半分は正解ですね……確かに私達は千年前のセンチュリオンと比べたら、ただの傭兵にしか過ぎません……ですが、あの方は本物です……」
「あの方……?」
「お話はここまでですよ……さあ、殺しなさい。お馬鹿さん……」
「……貴様……」


ダークエルフは長刀を片手で振り上げ、クズキの目の前に立つ。自分が間違いなく殺されるというのにも関わらず、彼はいつも通りのわざとらしい笑みを口に浮かべ、


(心残りは……結局、あの子をセンチュリオンに育てられなかったことですねぇ……)


彼の脳裏に映るのは、自分の指示を渋々ながらに従うレノの姿であり、彼の母親とは昔からの知り合いだった。

クズキがレノの面倒を見ていたのは、彼があまりにも可哀想だったからだ。実の母親に愛されず、父親さえも消息不明。そんな彼に自分の姿を重ね合わせ、クズキは自ら「組織」を離れ、大人になるまで面倒を見て、いつしか自分の組織に反旗を翻して乗っ取り、自分の右腕として育て上げるつもりだったが、



(仕方有りませんねぇ……これもまた、運命ですか)



真っ直ぐに自分の頭に振り落される薙刀の刃に、クズキは笑みを浮かべ、自分の心臓に埋め込んだ「魔石」を発動させた。



(但し……ただでは死にませんよ)



最後に満面の笑みを浮かべ、薙刀の刃が真っ直ぐに頭上から落とされた瞬間、




――ズガァアアアアアンッ!!




学園の正門で、凄まじい爆発が起きた――






――その後、学園には大勢の人間が集まった。学園の異変を感じ取った学園都市のお抱えの「魔導部隊」が到着したころには、既に学園の門は不可解な爆発によって崩壊しており、生存者の姿は確認されない。


また、学園内部でも「学生寮」に至ってはかまいたちによって建物が傷だらけ、男子寮の庭などは激しい戦闘の跡があり、すぐに生徒会のメンバーが呼び出され、事の顛末を問いただされる。

レノもその中に含まれていたが、すぐに彼だけは解放された。生徒会の面々が彼は人質にされていたと証言し、戦いには参加していないと認められ、すぐに他の生徒同様に学園の外へ避難される。



――人間が作り上げた国家「バルトロス王国」は、今回の一件を「センチュリオンの再来」を名乗る「組織」が引き起こしたことだと判断し、男子の学生寮だけではなく、同様に女子寮や学園内でも同じ「魔方陣」の痕跡が見つかり、知らず知らずの内に学生や教員たちは「魔力」吸収されていたらしい。

奪われた莫大な魔力は「魔石」などに保管され、既に回収されたのだと思われる。すぐに生徒会の4人から聞いた情報から、「マドカ」の似顔絵が発注され、数日後には世界中に広まるだろう。


また、犯人である「マドカ」は「ハーフエルフ」である事は公開するが、エルフとしての「禁忌」を犯し、自由に性別を変えられることは伏せられている。もしもそんな情報まで流したら、途轍もないパニックを引き起こすとの判断だ。


何故、ここまでハーフエルフが「性別」を変えられる能力を持っていることに恐れを為しているのかというと、ハーフエルフという種が非常に厄介な存在であると思われているからだ。



――頭は人間よりも賢く、エルフよりも高い魔法能力、かつては魔族に協力して一度は全種族を支配した存在。それだけでも恐ろしいのに、「性別」を自由に変えられる「ハーフエルフ」の子供は、高い確率で歴史に名を残す。



実際にハーフエルフの子供の1人は、あの歴史上で一番高名な「魔王」でさえも手を焼いており、たった1人の子供に「センチュリオン」が出向いて討伐したという実話がある。これ以来、「魔王」は「ハーフエルフ」に呪いを掛けて「性別」を変えられる能力を封じたという。

そのため、世界規模で「ハーフエルフ」はこの魔王が施した「禁忌」を解放された物を見つけた場合、どのような理由があろうと普通ならば処刑される。そのため、レノが殺されずに「反魔紋」を刻まれるだけで済んだのはある意味運がよかったのだ。



だが、結局は「マドカ」の情報は得られず、レノはクズキを失ったことで「組織」との繋がりが無くなり、学園で途方に暮れていた――
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