種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

待ち望んだ再会

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「こっちか……」


現在、レノは村から離れて闘人都市に向けて駆け出していた。乗り物は使えない以上、足に魔力を通わせて走り出すしかない。「瞬脚」を使えばより速く移動できるが、レノは敢えて「肉体強化」で脚部を強化させて走り抜ける。

瞬脚のデメリットは魔力消費が激しく、それに比べれば「肉体強化」の方が肉体に掛かる負担はあるが、長時間走り込むことも可能。今の所は村から離れた草原を駆け出している最中であり、何処か見覚えのある風景にレノは思い出す。過去に自分はこの草原を見た事がある。


――レノの目の前には5年前に森人族の「集落」から追放され、バルに拾われた草原が広がっていた。


獣人の女盗賊というゴンゾウの言葉に「バル」の顔が思い浮かび、よくよく考えればまだ彼女は生きている可能性も高いとクズキに言われていたのを思い出した。3年前、彼女が王国の貴族の屋敷で「何か」を見たのか不明だが、もしもこの土地にに戻り、再び盗賊家業を復活しているのであれば隠れ家に戻っている可能性が高い。


「バル……皆、いるといいけど……」


レノは草原に隠された隠れ家へ向かう。枯葉の森以外にも黒猫盗賊団が拠点としていた場所は数多く存在し、ここの隠れ家は草原の地下に隠されているはずであり、草むらに隠れた古井戸が出入口だった。

井戸を降りればバルと兄貴分の青年達が作り出した洞窟が存在し、この草原に戻っているのならば間違いなくここに立ち寄っているはずだが、


「……見つけた!!」


遂に目的地へ辿り着き、草むらを掻き分け、既に枯れ果てた井戸を見つけるが、どうも様子がおかしい。井戸はここ数年で余計に寂れており、中を覗くとどういう訳か奇妙な臭いが漂っている。まるで生物の死体から感じられる死臭のような臭いがだ。


「……まさか」


最悪の想像が頭に浮かび、井戸を飛び下りる。嵐の魔力を利用すればゆっくりと落下の速度を緩められ、すぐにも薄暗い地面に降り立つと、


「うっ……」


より一層に死臭が強まり、鼻を覆いながら目の前の光景にレノは顔をしかめる。予想と反し、洞窟の中には奇病な光景が広がっていた。


「……魔獣?」


そこには黒い体毛で覆われた狼のような巨体が倒れこんでおり、間違いなく、放浪島で出会った「狼男」と同じ種類の魔獣だ。こんな場所で再び再会するとは思わなかったが、どうやら腹部に巨大な刃物か何かで貫かれており、一撃で絶命したと思われる。

身体は腐っているところ、随分と前に殺害されているらしい。洞窟内から気配が感じられず、第一に人がいたとしたらこんな死体を放置するはずがないレノはすぐに井戸から出ることにした。


「……ここに戻ってきてはいないのか」


少し落胆しながらも井戸から外に出ると、すぐに他の心当たりを思い浮かべる。この草原以外にも幾つか隠れ家はあるが、どれも乗り物が無い限りは移動に時間が掛かり過ぎる。いっその事、「転送」でも連続使用して距離を縮めるかと考え始めたとき、


――ザザッ……!


周辺の芝生が揺れ動き、レノはすぐに目つきを鋭くさせる。放浪島の北部山岳で2年近くも過ごして得た「野生の直感」は、複数の敵意を敏感に感じ取る。短剣に手を伸ばし、左手に「嵐」を形成させ、


「――今だ!!囲みな!!」


女の掛け声が上がり、周囲の芝生から無数の女たちが現れる。全員が赤いバンダナを頭に巻いた年若い少女達であり、彼女たちはナイフを見せつけてレノを囲み込む。全員がレノを見て笑みを浮かべており、完全にいい標的だと思われているらしい。どうやら、ゴンゾウが言っていたという盗賊の可能性が高いが、


「やれ!!」


再び芝生の方から女の声が聞こえ、盗賊の女子たちが同時に襲い掛かる。通常、厄介な魔法を使える魔術師と戦う際は、狙いを分断させるために四方を囲んでから襲い掛かるのが定石ではある。だが、生憎とレノは普通の魔術師ではない。


「貰った!!」


一番近くにまで迫ってきたおさげの女子に対し、レノは「肉体強化」を発動させ、両腕だけを強化させ、


「おっと」
「きゃあっ!?」


相手の袖を引いて軽くバランスを崩し、即座に右手で掴み上げるとそのまま後方から近づいてくる仲間に向けて放り投げる。


「ほらパス!!」
「えっ……わあっ!?」
「きゃんっ!?」


後ろから迫ってきた女に叩き込み、今度は左右同時に襲い掛かる盗賊に対して、レノは一歩だけ後ろに下がり、軽く相手のナイフを避けると肉体強化した両腕で左右の2人の袖を掴み、


「ほいっと」
「「ふげぇっ!?」」


ゴツンッ!


そのまま2人をお互いに頭突きさせ、ふらふらと頭を抑える両者の肩を軽く押し飛ばす。二人は体勢を崩してあっさりと地面に倒れ込んだ。4人の盗賊たちがそれぞれ地面にへたり込み、レノは後ろを振り返って聞き慣れた「女」の声がした方向を見やる。


「……出て来いよ」


レノが声を掛けるが、相手の反応は無く、仕方なくレノは左手の「紋様」を無意識に発動させ、「嵐」を当たり周辺に放つ。


「ほらよ!!」



――ゴォオオオオオオオッ!!



「「きゃあぁあああああああっ!?」」


4人の女盗賊が悲鳴を上げ、吹き飛ばされない様に地面に伏せる中、芝生に隠れて居た者も流石に耐え切れずに姿を現した。


「うわぁっ!?」


空中に黒い獣耳に、尻尾の女性が浮き上がり、レノはその人物を見て笑みを浮かべる。3年ぶりに再会した「バル」がそこに居たのだ。
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