種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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テンペスト騎士団編

盗賊と忍者

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「姉御~!!今帰ったっす!!」
「お~お帰り」
「……ただいま」
「お土産も買ってきたよ」
「気が利くね……って、これキャットフードじゃないかい」


酒場に戻って早々に大量のキャットフードとドックフードの缶を持ちできたレノ達に対し、バルは呆れた声を上げる。


「ポチ子の好物と、あんたもこういうの食べるかなと思って……」
「あたしは獣人だよ!!まあ、別に食べられなくもないけど……」
「喰えるんかいっ」


レノからキャットフードの缶が入った袋を受け取り、バルは呆れた表情を浮かべながら、彼等が酒場の上の階に移動するのを確認しながら溜息を吐く。


「しっかし……今まで一番手のかかる奴だね……子供の頃は可愛げがあったけど」
「子供、でござるか?もしかしてバル殿はレノ殿の母親だったでござるか?」
「うわっ!?」


ポツリと答えたバルの言葉に対し、何時からいたのか天井に張り付いていたカゲマルが返事を返し、彼女はどういう原理なのか足の裏を天井に張り付けた状態であり、上下が逆さになった体勢で話しかけてくる。


「レノ殿の母親がバル殿とは……ん?子供なのにレノ殿には猫耳は生えてないでござるな。父親の血を色濃く受け継いでいるのでござるか?」
「私はあいつの母親じゃないよ!!第一、あれだけでかい子供を産める歳でも無い!!」
「そ、そうでござるか。それは失礼を……」


ちなみにバルの年齢は28才であり、10年ほど前は各地の戦場で傭兵として渡り歩いていた。盗賊になったのは今のレノよりも少し上の年齢からであり、色々な理由があって盗賊の道に入ったがはずだが、今では自分がどうして盗賊を志したのかはよく覚えていない。

バルはカゲマルがどのように天井に張り付いているのか気になり、獣人として視力は人間よりも優れているため、すぐに彼女が足の裏だけを肉体強化を施し、足の指の力だけで天井に張り付いている事に気付く。


「忍者ってのは何でもありかい……?」
「……少し前から思っていたでござるが、バル殿は拙者たちの事を知っているのでござるか?忍びとは、闇に生きる者……知っているものなど裏稼業の人間ぐらいでござるが?」
「いや、あんたら結構有名だよ。あたいの国では絵本に乗ってるくらいだからね」
「何とっ!?」


彼女の言う通り、この世界に置いて「忍者」という存在は一部の種族には有名な存在であり、人間の国ではそれほ知名度は薄いが、獣人や人魚族の間では「闇に隠れて悪を討つ」というヒーロー的な存在として語り継がれている。ちなみに森人族には「影の一族」と呼ばれる忍者と酷似した存在もいるという噂があるという。


「ま、まさかそのような事実が……言われてみれば騎士団の獣人たちが時折、拙者の事を光り輝いた目で見てくるような……」
「鈍感だね……それでも忍者かい?」
「……それはそれとして、バル殿には聞きたいことがござる」
「何だい?……というか、いい加減にそこから下りてきな。天井だって汚れるんだからね」
「す、すまないでござる」


慌ててカゲマルはその場から音も無く下りると、バルと向かい合い、


「……この店の名前は黒猫酒場、間違いないでござるな?」
「……何が言いたい?」
「数年前にこの近辺で名を轟かせた「黒猫(ブラックキャット)」という盗賊団があったでござる……何か関係があるのではないのか?」
「はっ!!」


小馬鹿にしたようにバルは鼻で笑うと、カゲマルは腰に装備した小太刀に手をやり、


「……例え、第四部隊の部隊長であるレノ殿の関係者であろうと……悪党は見逃せないでござる」
「おいおい……まさかここでやり合うって言うのかい?あたしと?」


バルは拳を鳴らし、臨戦態勢に入る。その反応に先ほどの質問の肯定と判断し、カゲマルは小太刀を抜き取ろうとするが、


「それにあんた達も人の事が言える立場じゃないはずだよ?王国とやらのために、一体何人の人間を暗殺してきたんだい?」
「それを言われると辛いでござるが……まあ、今だけは見逃してやるでござる」


カゲマルがバルの言葉に小太刀から手を離し、そのまま何処かへと立ち去ろうとするが、今度はバルが慌てた様子で引き留める。


「ちょっと、何だい!!先に喧嘩を売って置いて、そのまま帰る気なのかい?」
「……今回、拙者がここに着たのはリノン殿の護衛だけが目的ではないござる。国王から直々に勅令を賜っているからでござる」
「勅令……?」
「それでは……御免」


ボフンッ!!


突然、カゲマルの姿が白い煙で覆われ、バルが咳をしながら煙を振り払う頃には既にカゲマルの姿は消え去っていた。地面を確認するとどうやら魔法の類ではなく、煙玉らしき半分に割れた球体が落ちている。バルは舌打ちをしながら、


「誰が掃除すると思ってんだい!!」


カゲマルが自分の所属しているテンペスト騎士団にまで内密にした「勅令」というのは分からないが、彼女は仲間に秘密を持っている。


「……油断はできないね」


今回の件でバルは完全にレノ達の問題に巻き込まれた形である。だが、その事について彼らを責めるつもりはない、他の面子はともかく、レノは今でもバルにとっては仲間(子供)であり、守るべき存在なのだ。


「姉御~!!お茶が入りましたよ!!」
「あいよ……ちゃんと私の分は冷ましてあるんだろうね!!」
「もちろんっすよ!!」


バーテンダーから女部下に声を掛けられ、彼女は酒場の奥に移動する。
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