277 / 1,095
テンペスト騎士団編
魔導電話
しおりを挟む
――レノ達が順調に準備を整える中、闘人都市の郊外では彼等に関わりのある2人組が都市を刊行していた。
「ねえねえこっちだよホノカちゃん!!」
「分かった分かった……そう引っ張らないでくれ」
1人はアマラ砂漠に存在する交易都市を収める盗賊王「ホノカ」であり、もう1人は聖導教会の巫女姫である「ヨウカ」であり、2人はお忍びという形で共に街中を探索していた。
実は彼女は王国主催のパーティーを終えた後も自分の国にはすぐには戻らず、色々と寄り道をがてらに王国各所を観光をしていた。何せ、彼女が居る国は砂漠で覆われており、あまり名産品や娯楽が少ないため、このような他国の都市には興味が注がれる。
また、この都市に訪れた理由はヨウカがこの都市で死亡したミキの墓参りに訪れたいという理由もあり、わざわざ彼女を遠方の交易都市から呼び寄せて共に墓参りに向かっている最中だった。現在は教会に向かう途中で様々な物を拝見しながら移動している。
「……いいかヨウカ?私達はこの都市に居る間はただの一般人。決して、自分が巫女姫だとばらしてはいけないぞ?」
「もう、分かってるよ~」
歩いている最中に何度も同じ言葉を告げるホノカに対し、ヨウカは苦笑いを浮かべながらも急ぎ足で教会に向かう。そんな彼女に連れられながら、
(……おかしいな)
ホノカは周囲から感じる不穏な気配に気が付き、先ほどから感じている視線に疑問を抱く。どういう事か自分たちを狙っている賊の類かと思ったが、何故か相手側は仕掛けてこない。相当な数の人間が2人の周囲に取り囲むように付けているはずだが、何時まで経っても接触してこようとはしない。
(私達が狙いじゃないのか?)
自分たちを付けているのは確実だが、あちらから動く気は無いのか、黙って様子を観察するだけだった。
(そろそろ頃合かな)
いい加減に無粋な視線に苛立ちを覚えてきたので、ホノカはヨウカと手を繋ぎながらもさり気なく掌を掲げ、
「マドウデンワ~」
「え?」
まるでどこぞのアニメのロボットのような声を上げ、空中に転移魔方陣を形成し、現実世界の「携帯電話」を思わせる機器を取りだす。これは最近、学園都市の間で開発された異世界人とこの世界の人間の協力によって生み出された代物であり、機器に搭載されている雷属性の魔石を発動させれば遠方にいる人間とも連絡が取れる。
この世界には「念話」と呼ばれる心の中で会話をする魔法も存在するが、せいぜい範囲は200メートル程が限界であり、学園都市には一応は普通の電話も存在するが、交易都市には存在しない。だが、この最新式の魔導電話を使用すれば本物の携帯電話のように遠方にいる相手とも通話が出来る。
「さて……ぴ・ぽ・ぱと……」
「えっと……何してるの?」
「電話だよ……よし、繋がった」
魔導電話の数字のボタンを打ち込み、耳に当てると数回のコールの後に相手と繋がり、彼女の配下に繋がる。
「私だ……うん、うん……そう。今は闘人都市にいる。最近雇った、あの囚人服の男の仲間達に囲まれていると思う」
この都市に訪れる少し前、ホノカはある街で「囚人服」を纏った男が唐突に現れ、彼は無数の部下を引き連れてホノカに対して武器の輸入を交渉してきた。相手が誰であれ、商売であるならばホノカは金銭さえ受け取れれば仕事は引き受ける。
だが、男の要求は随分と一方的な内容であり、従わなければ殺すと脅してきたため、彼女が「転移」の魔法で無数の武器を放出させて撃退しようとしたが、
「あれと正面から戦うのは危険だな……私でも分が悪い」
幸いにも部下の半数を失った時点で囚人服の男は姿を消したが、あのまま戦い続けたらホノカでさえも危なかった。それほどまでに男の「能力」は危険であり、彼女の切り札である「クサナギ」でさえも真面に通用しなかった。
「そろそろ都市に戻るつもりだったが……思ったよりも厄介ごとに巻き込まれたかもしれないな」
「厄介ごと……?」
「いや、何でもないよ……こっちの話だ、気にしないでくれ。それよりもあの少年についての情報は集まったのかい?」
ホノカの頭に王国のパーティー会場で出会ったハーフエルフの少年の顔が頭に浮かぶ。顔は彼女の好みだったが、どうにも彼と会った時に彼女の身体に刻まれている転移の聖痕が反応したのは忘れられない。
間違いなく、直感でホノカは以前に一度会った「ダークエルフ」と関係する者だと判断した。彼女の場合はクサナギで吹き飛ばした後の詳細は掴めないが、今回の少年は王国側が保護する歴史上で初のカ聖剣の所持者であるため、すぐに部下達に調査を行わせた。
調査の結果は彼の経歴が学園都市に唐突に現れて一年ほど滞在し、センチュリオンの一団と思われるサキュバスに誘拐され、何故か「放浪島」の地下迷宮内で発見されたという突拍子もない内容にホノカは余計に興味を抱いた。
「それに君とも無関係じゃないようだしね……」
「?」
「何でもないよ」
自分に視線が向けられたことにヨウカは首を傾げるが、ホノカはまずは自分たちを付け回す者たちを排除するため、
(今回は観察するだけだったけど……私も動くとするか。つい最近、オークションで購入した「あれ」も使ってみたいし)
ホノカは首を反らし、右手の聖痕の反応を示す場所に視線を向ける。その方角は「黒猫酒場」が存在し、
「彼には色々と聞きたいことがあるし……近々話し合う必要があるかな」
「ねえねえこっちだよホノカちゃん!!」
「分かった分かった……そう引っ張らないでくれ」
1人はアマラ砂漠に存在する交易都市を収める盗賊王「ホノカ」であり、もう1人は聖導教会の巫女姫である「ヨウカ」であり、2人はお忍びという形で共に街中を探索していた。
実は彼女は王国主催のパーティーを終えた後も自分の国にはすぐには戻らず、色々と寄り道をがてらに王国各所を観光をしていた。何せ、彼女が居る国は砂漠で覆われており、あまり名産品や娯楽が少ないため、このような他国の都市には興味が注がれる。
また、この都市に訪れた理由はヨウカがこの都市で死亡したミキの墓参りに訪れたいという理由もあり、わざわざ彼女を遠方の交易都市から呼び寄せて共に墓参りに向かっている最中だった。現在は教会に向かう途中で様々な物を拝見しながら移動している。
「……いいかヨウカ?私達はこの都市に居る間はただの一般人。決して、自分が巫女姫だとばらしてはいけないぞ?」
「もう、分かってるよ~」
歩いている最中に何度も同じ言葉を告げるホノカに対し、ヨウカは苦笑いを浮かべながらも急ぎ足で教会に向かう。そんな彼女に連れられながら、
(……おかしいな)
ホノカは周囲から感じる不穏な気配に気が付き、先ほどから感じている視線に疑問を抱く。どういう事か自分たちを狙っている賊の類かと思ったが、何故か相手側は仕掛けてこない。相当な数の人間が2人の周囲に取り囲むように付けているはずだが、何時まで経っても接触してこようとはしない。
(私達が狙いじゃないのか?)
自分たちを付けているのは確実だが、あちらから動く気は無いのか、黙って様子を観察するだけだった。
(そろそろ頃合かな)
いい加減に無粋な視線に苛立ちを覚えてきたので、ホノカはヨウカと手を繋ぎながらもさり気なく掌を掲げ、
「マドウデンワ~」
「え?」
まるでどこぞのアニメのロボットのような声を上げ、空中に転移魔方陣を形成し、現実世界の「携帯電話」を思わせる機器を取りだす。これは最近、学園都市の間で開発された異世界人とこの世界の人間の協力によって生み出された代物であり、機器に搭載されている雷属性の魔石を発動させれば遠方にいる人間とも連絡が取れる。
この世界には「念話」と呼ばれる心の中で会話をする魔法も存在するが、せいぜい範囲は200メートル程が限界であり、学園都市には一応は普通の電話も存在するが、交易都市には存在しない。だが、この最新式の魔導電話を使用すれば本物の携帯電話のように遠方にいる相手とも通話が出来る。
「さて……ぴ・ぽ・ぱと……」
「えっと……何してるの?」
「電話だよ……よし、繋がった」
魔導電話の数字のボタンを打ち込み、耳に当てると数回のコールの後に相手と繋がり、彼女の配下に繋がる。
「私だ……うん、うん……そう。今は闘人都市にいる。最近雇った、あの囚人服の男の仲間達に囲まれていると思う」
この都市に訪れる少し前、ホノカはある街で「囚人服」を纏った男が唐突に現れ、彼は無数の部下を引き連れてホノカに対して武器の輸入を交渉してきた。相手が誰であれ、商売であるならばホノカは金銭さえ受け取れれば仕事は引き受ける。
だが、男の要求は随分と一方的な内容であり、従わなければ殺すと脅してきたため、彼女が「転移」の魔法で無数の武器を放出させて撃退しようとしたが、
「あれと正面から戦うのは危険だな……私でも分が悪い」
幸いにも部下の半数を失った時点で囚人服の男は姿を消したが、あのまま戦い続けたらホノカでさえも危なかった。それほどまでに男の「能力」は危険であり、彼女の切り札である「クサナギ」でさえも真面に通用しなかった。
「そろそろ都市に戻るつもりだったが……思ったよりも厄介ごとに巻き込まれたかもしれないな」
「厄介ごと……?」
「いや、何でもないよ……こっちの話だ、気にしないでくれ。それよりもあの少年についての情報は集まったのかい?」
ホノカの頭に王国のパーティー会場で出会ったハーフエルフの少年の顔が頭に浮かぶ。顔は彼女の好みだったが、どうにも彼と会った時に彼女の身体に刻まれている転移の聖痕が反応したのは忘れられない。
間違いなく、直感でホノカは以前に一度会った「ダークエルフ」と関係する者だと判断した。彼女の場合はクサナギで吹き飛ばした後の詳細は掴めないが、今回の少年は王国側が保護する歴史上で初のカ聖剣の所持者であるため、すぐに部下達に調査を行わせた。
調査の結果は彼の経歴が学園都市に唐突に現れて一年ほど滞在し、センチュリオンの一団と思われるサキュバスに誘拐され、何故か「放浪島」の地下迷宮内で発見されたという突拍子もない内容にホノカは余計に興味を抱いた。
「それに君とも無関係じゃないようだしね……」
「?」
「何でもないよ」
自分に視線が向けられたことにヨウカは首を傾げるが、ホノカはまずは自分たちを付け回す者たちを排除するため、
(今回は観察するだけだったけど……私も動くとするか。つい最近、オークションで購入した「あれ」も使ってみたいし)
ホノカは首を反らし、右手の聖痕の反応を示す場所に視線を向ける。その方角は「黒猫酒場」が存在し、
「彼には色々と聞きたいことがあるし……近々話し合う必要があるかな」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
480
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる