種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

会議室

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――王城の裏庭から移動し、レフィーアは場内に存在する第一会議室に案内された。室内には彼女とヒナ、さらにアルトとカイザンだけが入り、他の側近達は外で待機するように命じる。リノン達も彼等と同様に会議室の前に待機し、会議室には微妙な雰囲気が流れていた。

会議室の机にはレフィーアと向い合う形でヒナが座り込み、お互いにアルトとカイザンが傍に仕える。レフィーアの側近であるカイザンはともかく、アルトも同席する必要は無いとヒナは告げたが、彼は頑なに同席を希望した。


「……さて、何から話すべきか」
「話……?」
「まずはお前の母親と、私の関係からだな……彼女は――」


レフィーアは自分がどのようにヒナの母親の「レイア」と出会い、彼女と過ごしてきたのかを語り始め、隣にいるカイザンも時折相槌を行い、部外者であるアルトだけはヒナの様子を確認していた。

彼がこの場に参加した理由は2つあり、1つは純粋にハーフエルフであるヒナの身を案じて護衛役を勤める為、もう1つは彼女が森人族に引き抜きかれないように監視するためでもある。

今現在、各種族は未知の存在である「ロスト・ナンバーズ」に対抗するために戦力増強を計っており、森人族が誇りを捨てて「カラドボルグ」の所持者(彼等はカラドボルグがアイリィに返却された事は知らない)であるヒナを勧誘する可能性もあるため、アルトは何としてもヒナの引き抜きを阻止するために参加した。


「へえ……そうなんですか、母と……」
「ああ……まさか、お前、いや君のような子供がいるとは思わなかったが」
「……レフィーア様」


カイザンがレフィーアの耳元に口を近づけ、何事か囁く。ハーフエルフであるヒナの優れた聴覚ならば聞き取れる内容であり、確かに彼が「例の件を」と口にしたのを耳にする。


「……お前は反対してたんじゃないのか?」
「あ、あれはレイアさんの子供だと確信が持てなかったからでして……」
「まあいい、お前からも外にいる老害どもを説得しろ」
「はっ!!」


2人のやり取りにヒナはアルトと顔を見合わせると、彼は何かを察したのか、彼女の肩に手を置いて耳元に口を近づけようとするが、それをヒナは制止する。森人族の優れた聴覚ならば聞き取られるだろう。


「ヒナ……」
「大丈夫だって」
「おい、不用意にその子に近づくな人間!!」


カイザンがアルトを睨み付けると、彼も正面から向き直り、気迫に負けない様に視線を反らさない。一方でレフィーアはヒナに視線を向け、


「……単刀直入に告げよう。確か……レノといったな?」
「あ、はい」


剣乱武闘では「レノ」の姿で参加したため、レフィーアは現在の彼女の名前を知らない。そのため否定するのも面倒なので頷くと、


「レノ、君は私達の元へ戻るべきだ」
「やだ」
「返事が早いぞ!?」


即座に拒否をするヒナにカイザンが驚きの声を上げるが、レフィーアに関しては返事を予想していたように溜息を吐き、


「……確かに、深淵の森のエルフ達の件で我々の事を信用できないのだろうが、それでも全てのエルフが君の事を忌み嫌っているわけではない」
「あんまり信用できないなぁ……私の家族はフレイとムミョウとウルとバルとカリナとその他諸々だけです」
「け、結構多いんだね……」


ヒナに対して普通に接してくれるのは叔母である「フレイ」と長老である「ムミョウ」だけであり、他のエルフ達に関しては出会うたびに命を狙われ続け、レフィーアの提案は受け入れられない(実際にアルファに従っていた幼いエルフの姉弟からも命を狙われた)。

また、深淵の森以外にも先の剣乱武闘の際に複数の部族がヒナを標的にしているのは確かであり、仮にレフィーアの保護の元に森人族に移動したとしても、今まで以上に孤立してしまう。


「悪いけど、私は友達がいるこの場所が気に入っているから、貴方には従いません」
「そうか……いや、そう考えるのが当たり前だろうな」
「しかし……レノ、でいいか?レノ君、君はまだ若いだろうから理解していないだけだろうが……時が経てば君の姿はゆっくりと変わらなくなり始めるぞ」
「それは……」


カイザンの言葉にヒナは眉を顰め、確かに彼の言いたいことは分かる。森人族の外見は一定の年齢まで他の種族同様に成長するが、だいたい「15~18歳」辺りで変化が遅行化し、それ以降は約5年単位で少しずつ成長していく。

ヒナは「ハーフエルフ」ではあるが、その寿命は森人族と同じであり、だいたい20歳までは普通に成長するが、それ以降は森人族同様にゆっくりと外見が変化する。

以前にムミョウにも言われていたが、このままヒナがバルトロス王国に滞在するのは難しい。アルトとの仲は解消されたといっても、今後の寿命を迎えるまでの数百年の時をずっとバルトロス王国に仕えるのかと質問されたら答えにくい。

今現在はヒナも他のメンバーと共に成長しているが、いずれは彼女以外の殆どの人間が年齢を重ね、ゆっくりと朽ち果てていくだろう。それが自然の摂理であり、当然の事ではあるが、仮に老い果てた友達を見送らねばならない時を迎える事を考えると、何とも言えない気持ちになる。




「それでも……私はここに居たい」



例え、必ず悲しい別れを迎える時が来たとしても、ここまで一緒に過ごしてきたフレイ、ムミョウ、リノン、ポチ子、ゴンゾウ、アルト、ヨウカ、ホノカ、センリ、コトミ、テン、ジャンヌ、レミア、バル、カリナ、他にも女部下(いい加減に自分でも名前を覚えた方がいいと思っている)等の大勢の人間から離れる事など出来ない。



――何よりもあの「ホムラ」と自分の決着は終っていない以上、長生きすることなど考えていない。それにアイリィとの約束を果たさない限りは「急成長」の影響で「1年」も持たない命のため、今は敢えて深く考えずにロスト・ナンバーズとの因縁に終止符を打つことも考えなければならない。



「……そうか、まあ、別に焦る必要は無い。気が向いたら、私に連絡を送ってくれ。何時でも私達は君を迎え入れよう」
「レフィーア様……しかし」
「落ち着けカイザン、それに問題はこちら側にもある。私達が受け入れたとしても他の者達が黙っていないだろう」


レフィーアは会議室の扉を確認し、恐らくは壁越しでも話の内容を聞き取ろうとしている老人エルフ達を想像してため息を吐く。幾ら彼女の最愛の親友であるレイアの子供だろうと、森人族の禁忌を犯した彼女(ヒナ)を許すはずが無い。

そう考えれば今はバルトロス王国に滞在することがヒナにとっては安全であり、それに彼女がここに訪れた一番の目的はバルトロス国王との会談のためであり、何としても「六種族同盟」などという非現実な条約を回避するためだが、ヒナがここに残る以上は少しだけ考えを改める必要がある。

森人族と人間は決して相容れない存在だというのが彼女の考え方であり、生きている限りはその考えは曲がらないと信じている。だが、それでも最愛の親友の忘れ形見である「ヒナ」がバルトロス王国に仕えている以上、ほんの少しだけ歩み寄る事を決意した。


「……同盟か」
「「……?」」


レフィーアは少し考え込むように顔を伏せ、すぐにアルトに視線を向けると、


「……国王は今どうしている?」
「え、あっ……バルトロス国王は今現在、聖導教会総本部で入院している獣王様との交渉のために出向いていますが……今日の夕方頃には戻ってくる予定です」
「そうか……なら、今すぐに呼び戻せ」
「は?」
「森人族の代表、レフィーアがお前たちの王に話があると言っている……先日の同盟に関わる事だと伝えれば、すぐに戻ってくるだろう」


彼女は話は終わりだとばかりに机から立ち上がり、カイザンを引き連れて扉に移動する。慌ててアルトは引き留めようとしたが、不意にレフィーアが振り返り、


「レノ、君の父親については何か知っているか?」
「え?」
「いや……何となくだが、君がどうしても人間の血を継いでいるように思えないからな……すまない、変な事を言ってしまった。気にしないでくれ」


最後にそう告げると、彼女はそのまま会議室を後にした。
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