種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

空の戦闘

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――フライングシャーク号に乗船していた「センリ」と「ジャンヌ」は、飛行船の周囲を覆い尽すグリフォンに歯噛みし、このままでは墜落は時間の問題だった。


「きょ、教皇様‼ジャンヌ団長‼もう砲弾が尽きてしまいます‼」
「燃料も持ちません‼ どうか指示を‼」
「くっ……どうしてこんな事に……‼」
「泣き言を言っている暇はありません‼ 今はなんとしても大迷宮の砦まで移動してください‼」
「は、はい‼」


センリの指示に乗組員たちは忙しなく動き、砲門から砲撃を放ってグリフォン達を迎撃するが、撃ち倒しても次々と出現してくる。


『グェエエエエッ‼』
「ひいっ⁉」
「お、落ち着け‼ いくらグリフォンでもこの水晶壁は破壊できないはずだ‼」
「で、ですが……‼」


飛行船の水晶壁に向けてグリフォン達が殺到し、センリは杖を構えると、ジャンヌもレーヴァティンを握りしめる。彼女の戦斧は剣乱武闘でエンによって溶解させられてしまい、現在は聖剣しか所持していない。


「この水晶壁は魔法を通しますか⁉」
「は、はい‼魔術師が外部の魔物の攻撃する事も考えて、飛行船の全ての水晶壁は魔法を通す素材で出来ています‼」


この世界の水晶壁は現実世界の硝子と酷似しているが、その頑丈性は凄まじく、鉄筋コンクリートにも匹敵する。そして種類によっては魔法を通過させる素材も存在し、内部から魔法攻撃も考えてホノカは飛行船の全ての水晶壁を魔法通過性が高い素材の水晶壁を取り付けていた。


「鉄球(ショット)‼」


センリが杖を掲げた瞬間、彼女の周囲に無数の光球が誕生し、水晶壁に向けて魔弾を連射する。


チュドドドドッ!!


『『グギャァアアアッ⁉』』


グリフォンの頭部や羽根に向けて正確に光球が撃ち込まれ、そのままグリフォン達は混乱を引き起こす。センリは光球を利用して多彩な方法で戦える事から「千の魔術師」の異名を持つが、彼女の光球は攻撃性自体は低く、討ち取るまでには至れない。



「くっ……あの人ならこの程度のグリフォンなど物ともしないのでしょうが……」



センリの脳裏に剣乱武闘で姿を現したミキを思い出す。凡才の自分と違い、間違いなく彼女は天才であり、あらゆる状況に対応できるように五つの魔法属性を極めたのだ。だからこそ、センリは彼女の反発するように一つの属性だけを極め、今の精霊魔法を組み合わせた「千の携帯魔法」を生み出したのだが、大型の魔物が相手だと火力が欠ける。


「センリ様⁉ こちらからも‼」
「分かっています‼」


チュドドドドッ‼


反対方向の水晶壁に彼女は杖を向け、即座に光球を発現させてマシンガンのように放出させる。この発現速度はミキを上回り、彼女は自分の持ち味を生かして戦い続けた。


「ジャンヌさん‼まだですか⁉」
「あと、少しです‼」


ジャンヌはレーヴァティンを握りしめ、既にその刀身は真紅の炎が纏われ、彼女の魔力を蓄積していることが分かる。しかし、これほどの数のグリフォンを一掃するには相当な時間を必要とし、それまでの間は何としても持ちこたえなければならないのだが、



ドォオオオンッ……‼



「きゃあっ⁉」
「な、何事ですか⁉」
「ほ、砲門が爆発しました‼原因は不明……ですが、このままだと墜落してしまいます‼」


フライングシャーク号の後部の砲門が爆発し、飛行船は大きくバランスを崩して落下を始める。グリフォンの攻撃を受けた事で爆破したのかは不明だが、このままでは全員が死んでしまう。


「何とかできないのですか⁉」
「緊急着陸しかありません‼ ですが、このグリフォン達が邪魔で……‼」
「くっ……」


センリは砦が存在する方向に視線を向け、レノ達が気付いていれば救援に向かってくると信じているが、ここは高度数百メートルであり、どちらにしろ援軍は期待できない。

それでも彼女が砦に向けて移動していたのは墜落する前に何とか地面に着地し、レノ達の援軍を得てからグリフォンを追い払うためだったが、この船が砦に到着する前に墜落してしまったら意味はない。砦までまだ距離が開いており、このままでは間に合わない。


「ここまでですか……‼」
「……いえ、まだ諦めません‼」


ジャンヌはレーヴァティンを握りしめ、そのまま横薙ぎに払い、真紅の炎が水晶壁から放たれる。



ドォオオオオンッ‼



『『グァアアアアアアアッ⁉』』



飛行船の前面部を覆っていたグリフォン達が一斉に焼き払われ、地上に落下する。そのままフライングシャーク号は高度が下がるが、邪魔だったグリフォン達が彼女の一撃によって脅威を感じ取り、十分に距離を取る。


「なんと凄い……これが聖剣の力ですか」
「くっ……やはり、私ではこれが限界です」


聖剣を握りしめながらジャンヌは片膝を着き、蓄積させる度に強大な力を発揮するレーヴァティンではあるが、魔力容量が他の聖剣所有者と比べれば一番低いジャンヌでは扱いきれず、そのまま彼女は滝のような汗を拭きだす。


「大丈夫ですか⁉」
「すぐに回復薬を‼」
「へ、平気です……‼ もう、大丈夫ですから……」
「何を言って……」


慌ててセンリが駆けつけ、乗組員が魔力を回復させる薬を用意しようとするがジャンヌは拒み、聖剣を握りしめて笑みを浮かべる。そんな彼女の態度に不審に思ったセンリは首を傾げるが、


ボウッ……‼


彼女が握りしめているレーヴァティンの聖光石が光り輝き、既にジャンヌの魔力が尽きかけているにも関わらずに聖剣を纏う炎が発生し、ジャンヌはこの聖剣の反応に覚えがある。近場に「聖剣」が存在する時にのみ生じる聖剣の「共鳴反応」だった。

この砦にいる人物であり、王国に帰還したアルトを除いて聖剣を所有しているのは彼女の想い人だけであり、ジャンヌは水晶壁越しに地上を見下ろす。既に地上まで100メートルを切っており、ここからならば肉体強化で視力を引き上げて確認することが出来る。


「……希望が、見えました」
「え?」



ジャンヌの言葉にセンリは水晶壁を見下ろし、一体彼女が何を見ているのかと視線を向けると、



――ウオォオオオオオオンッ‼



狼の鳴き声が地上から響き渡り、飛行船を囲んでいたグリフォン達がその声を聞いて混乱を起こしたように旋回し、飛行船の全員が地上を見下ろすとそこには地面を掛ける白狼の姿が見えた――







――地上でウルを召喚し、彼の背中に乗って飛行船に疾走していたレノは、墜落するフライングシャーク号を確認すると、背中に抱き付いてくるミアに声をかける。


「見えた‼準備はいいな‼」
「ほ、本当に出来ると思ってるんですか⁉ あんな巨体を……」
「うるさい‼今は言う通りにしろぉっ‼」
「は、はい‼」



レノに一括され、ミアは上空を確認し、一瞬だけ躊躇したが自分の袋から結界石を取り出す。これは大迷宮の出入口を封印するために用意された代物だが、今は飛行船を救うのが最優先であり、彼女は覚悟を決める。



「ウル‼ 止まれ‼」
「ウォンッ‼」



主人の命令に従い、ウルは土埃を巻き上げながら急停止して彼女を下ろす。ミアは結界石を握りしめながら、発動させる時期を誤れば途轍もない大惨事になる。レノは彼女に事前に「転紙」を渡しており、いざという時は避難させる準備を行わせている。


「結界の発動までに何秒かかる?」
「い、一分です……」
「分かった」



ドォンッ‼



ミアを残してレノ達は移動を行い、飛行船の墜落地点に辿り着くと、両の掌を合わせ、最大限の嵐属性の魔力を集中させる。


「後は頼む……これを使ったら俺も倒れる。その後の事は任せた」
「ウォンッ‼」


ウルが彼の傍で頷き、レノは後から来る仲間達を信じ、恐らく使用すれば間違いなく気絶するであろうほどの魔力を集める。



――ゴォオオオオオッ……‼



彼の周囲に竜巻が発生し、砂煙が舞い上がる。その光景を見てミアは圧倒的な魔力量に愕然とし、自分がどんな存在を敵に回そうとしていたのかと思うだけで冷汗が止まらず、急いで結界石を発動させる準備を整える。



「昇風‼」



ビュオォオオオオオオオオオオッ……‼



レノの掌から巨大な竜巻が発生し、フライングシャーク号を飲み込む。決して破壊しないように力加減を行い、同時に飛行船の墜落速度を和らげるために放出し、やがてフライングシャーク号の落下速度が落ちる。


「ウォオオオオンッ……‼」
「まだか‼」
「で、出来ました‼」



――カッ‼



ミアの叫び声と同時に周囲にドーム状の巨大な結界が誕生し、フライングシャーク号の落下を抑えた竜巻が消散し、飛行船はそのまま結界の上に墜落する。



ボフゥッ……‼



結界に堕ちた途端にまるで飛行船はまるでクッションのように衝撃が緩和され、そのまま飛行船は結界に沈み込み、無事に地面に着陸した途端に結界が解除される。森人族の結界はレノが扱う「防御型の魔鎧」と性質が似ており、上手く調整すれば巨大な緩衝材にも造り替えられる。

レノが竜巻で飛行船の落下速度を減少させ、ミアが発動させた結界で受け止める結界を思いついたのは飛行船がグリフォンに襲われている光景を見た瞬間に思いつき、すぐにレノは行動に移したのだ。



『グェエエエエエエエエッ‼』



だが、飛行船を比較的に無事に着陸させても終わりを迎えるはずがなく、竜巻が消散した事でグリフォン達が一斉に地上に向けて殺到した。
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