種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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三国会談編

雷帝始動

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――三国会談の前日、魔導王は知識の塔の地下に存在する研究室に移動する。そこには魔導大国の最新技術によって開発された11体目の魔導機兵が存在し、その全長は巨人族でさえも搭乗出来る設計であり、既に起動は可能の状態だった。

この雷帝を動かすためには莫大な雷属性の魔水晶を必要とするため、彼は魔導大国の保管している大量の雷属性の魔石を魔水晶に加工する技術を生み出し、そして雷帝の起動に必要な三つの巨大な魔水晶を胴体部分に取り入れる。


「素晴らしい……これほど美しい存在は見た事がない……」


彼の目の前には玉座を想像させる拘束具に乗り込んだ特殊型魔導機兵の雷帝が存在し、この鎧を武装すれば雷光の英雄であろうと上回る最強の兵器が動き出す。この雷帝は他の魔導機兵とは根本的に製造方法が異なり、もう二度と同じ物は生み出せない。

魔導王は目の前に存在する黒色と黄色が混ざり合った甲冑を確認し、デザインは先代の魔人王が装備していた甲冑であり、実は魔導大国は魔人王であるゼロと交流が存在した。ロスト・ナンバーズと発覚する前はゼロはこの魔導大国に度々訪れ、魔導王と親交を深めていた。

だが、彼が魔王を名乗る輩に従い、種族の立場を放棄した事で学園都市で討たれた事は知っており、魔導王としてはレノ達の行為を咎める事は出来ないが、それでも友人であり、誰よりも強いと確信していたゼロが敗れたという情報が信じられず、気付けば彼は雷帝の外見(デザイン)を彼に似せて造り出していた。



――魔導機兵を開発する切っ掛けは、半年前に訪れたあるヴァンパイアの少女であり、彼女は魔導機兵が存在したという遺跡から設計図を回収した事を伝えると、魔導王に直接手渡す。本来ならば魔導機兵が保管されていた遺跡は何者の侵入を禁ずる聖地として扱われていたのだが、何故か魔導王は少女の意見に従ってしまう。



気付けば魔導王は度々訪れる少女に夢中になり、彼女の命令ならばどんな難題も実行した。侵入を禁じていた遺跡から魔導機兵の回収を行い、少女が手渡した魔導機兵の設計図を参考に魔導機兵の量産化を行い、そして三国会談の時期を早めて王国と和国に使者を送り込む。

結果として魔導機兵は完成したが、開発費用を考えてもこれ以上の量産は不可能だが、それでも魔導機兵の戦闘力を考えれば魔導大国の防備は万全であり、後はこの雷帝を起動させて三国会談の場で英雄と手合わせを行い、全世界にミラークリスタルで雷帝の戦闘力を見せつければ、世界中から魔導機兵の技術の提供を求められ、魔導大国の立場は好転するだろう。

いずれは人間の代表の座をバルトロス王国から奪い取り、魔導大国こそが全世界で至高の存在である事を知らしめさせるため、雷帝の起動前に最後の実戦訓練を行うために訪れたのだが、魔導王は異変に気付く。


「……なんだこれは?どうして開いていない?」


雷帝は全身が甲冑で覆われた武装式の魔導機兵であり、他の機体と違って装着者が外部に露出する部分は存在しない。そのため、常に保管されている間は開閉口は開かれているはずだが、どういう事なのか保管されている機体の開閉口は閉じられていた。


「開閉(オープン)」


魔導機兵を装着する場合に必要な合言葉を唱えるが、普段ならば自動的に開くはずなのだが、何故か雷帝は反応を示さず、既に充電は完了しているはずだが、開閉口が開く様子はない。


「くそっ……また不具合か?」


開発したばかりなので新たな不具合が生じて開閉口が閉鎖されてしまったのかと魔導王は近付いた瞬間、不意に雷帝の目元の部分が金色に光り輝き、彼は驚いたように後退る。


「な、何だ!?」
『……ゴァアアアッ……!!』
「なにっ!?」


雷帝が小刻みに震え出し、それどころか全身に電流を放出させながら両手両足を拘束している鎖を引き千切り、本物の「ゴーレム」のような音を発しながら動き出す。


「ば、馬鹿な!?何が起きている!?」
「あらら……これはやばそうな雰囲気ですね」
「貴女は……!?」


魔導王の後方から聞き覚えのある声が聞こえ、彼は振り返るとそこには全身を黒色のフードで覆いつくした人物が立っており、すぐに声音から「彼女」である事を悟るが、目の前の雷帝の唐突な行動に心当たりがあるのか彼女は頬を掻く仕草を行う。


「ど、どういう事なのですか!?どうして雷帝が起動を……!?私以外に誰かが搭乗したのですか?」
「落ち着いて下さいと言っても無理ですかね……一応は言っておきますが、あの中に人はいません。中には誰もいませんよ~」
「そ、それならばどうして!?」
『ゴォオオオオッ!!』


ガキィンッ!!


遂には背中に挿し込まれた充電用のケーブルを断ち切り、雷帝は咆哮を上げながらゆっくりと動き出す。その動きは鈍重ではあるが、背中に収納された大剣を想像させる武器を取り出し、左腕に搭載された大盾を握りしめる。

雷帝の想像はゼロではあるが、その戦闘方式は重騎士であり、雷属性の魔石が埋め込まれた「サンダーブレード」と強い魔法耐性を誇る金属で形成された「ミラーシールド」であり、どちらも雷光の英雄対策に開発した代物であり、雷帝は出入口に向けて移動を行う。


「な、何が起きて……」
「参りましたね……ゴーレムの要領で目覚めさせましたけど、あれは流石に洒落にならないかも知れません」


フードで全身を覆いつくした少女は左腕の手の甲を確認すると、そこには「紅色の三日月」を想像させる紋様が浮かび上がり、この能力は無機物に生命力を分け与える事で一時的にゴーレムのような生物を造り出す事が出来るのだが、雷帝の場合は内蔵されている魔石や魔水晶の影響を受けたのか、完全に制御不能な状態に陥っている。

現在の雷帝は暴走状態であり、少女は事前に仕込んだ他の魔導機兵達も動き出している事を予測し、この場所に長居すれば自分も危険に巻き込まれると判断すると、魔導王に掌を向け、


「後は頼みますね。それじゃっ」
「ちょっ……!?」



――ドゴォオオオオンッ!!



何事もなかったように軽く返事を行うと少女は立ち去り、残された魔導王は扉を破壊して地上に繋がる螺旋階段を昇ろうとする雷帝に視線を向け、このままでは途轍も無い事態が起きてしまう。


「と、止めなければ……!!」


すぐに自分が魔導大国を収める王である事を自覚すると、彼の首元に刻まれた「紅色の三日月」の紋様が薄れ、完全に消失してしまう。魔導王は長い夢から覚めたように頭が冷静になり、自分の今までの行動に背筋が震える。


「す、すぐに避難勧告を!!」


彼は研究室に内蔵されている「ゲート」に急ぎ、先ほど雷帝は階段から地上に向かおうとしたが、この研究室にも各階に繋がる転移陣が用意されており、魔導王は即座に危険を知らせるために転移を発動させた。
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