力も魔法も半人前、なら二つ合わせれば一人前ですよね?

カタナヅキ

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一人旅編

巨人殺しの剣聖

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(このガキ、正面から来やがった!?)


距離があるにも関わらずにレノが自分の元に向けて駆け出してきた事にダイゴは驚くが、すぐに彼は大剣を横に構える。レノが自分の剣の間合いに入り込んだ瞬間、彼は大剣を振り払う。


(これで終わりだっ――!?)


大剣を横薙ぎに振り払ったダイゴは確実にレノの身体に衝突するかと思った瞬間、移動の際中にレノは足の裏に風の魔力を集中させて一気に速度を上昇させる。途中までは普通に駆け出していたが、瞬脚を利用して加速したレノはダイゴの振り払った大剣が触れる前に彼の懐に潜り込む。

ダイゴの振り抜いた大剣は止まらず、レノの頭上を素通りすると、大振りの攻撃のせいでダイゴは大きな隙を生んでしまう。好機を逃さずにレノは剣先を石畳の床に差し込むと、刀身の先端部に風の魔力を集中させた。


「地裂!!」
「うおおおおっ!?」


刀身の先端から風の魔力を一気に放出し、石畳を削りながら振り抜かれた刀は凄まじい勢いでダイゴの顎に目掛けて接近し、衝突の直前で停止する。その結果、試合場に強烈な突風が発生してダイゴはしりもちを着き、そんな彼の喉元にレノは剣先を構える。


「ふうっ……まだやりますか?」
「うぐっ……お、俺の負けだ」
「う、嘘だろ……あのダイゴさんが、負けた!?」
「何だ、今の剣は!?」
「まさか……魔法剣か!?」
「……こいつは参ったね」


寸止めでダイゴを降参に追い詰めたレノを見て周囲の者達は騒ぎ出し、一方でテンの方はレノの剣を見て身体が震え、彼女はある人物の事を思い出す。テンは片目の眼帯に手を伸ばし、まだ自分が冒険者になる前、傭兵として生きていた頃に出会った人物を思い出す。



――テンの脳裏に思い浮かんだのは敵軍に囲まれた自分の部隊を助けるため、単騎で飛び込んできた男性の姿が思い出される。その男性は多くの敵を蹴散らし、彼女が見た事もない剣技で周囲を包囲網を破り、たった一人でテンを含めた部隊を救い出した。



その男とはテンはそこでしか出会っていないが、後に彼が「巨人殺し」の異名を誇る剣聖だと知った。その後のテンは片目を負傷した事で傭兵稼業を引退し、冒険者になったので出会う機会はなかったが、間違いなくレノが繰り出した剣技は「巨人殺し」と呼ばれた傭兵の剣技だった。


(そういう事だったのかい……あの坊主、あの傭兵の関係者だったんだね。それにしてもまさか魔法剣士があの男の技を繰り出すなんて思いもしなかったよ)


ダイゴに対して手を伸ばして彼を断たせようとするが、体格差があり過ぎて逆にレノが引っ張られて転んでしまう光景を目にしながらテンは無意識に笑い、自分が知る最強の傭兵の剣技を扱うレノに尋ねる。


「おい、あんた!!ロイの奴は元気にしてるかい?」
「えっ……爺ちゃんの事を知ってるんですか?」
「爺ちゃん……なるほど、あんたあいつの孫だったのかい?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど……弟子、みたいな物です」
「なるほどね、納得したよ。それにしてもまさかうちのダイゴを破るとはね……」
「ううっ……すいません、ギルドマスター」
「そ、そうだ!!テンよ、約束は守ってもらうぞ!!これで文句はあるまいな?」


話を思い出したようにネカは自慢げな表情を浮かべてテンに胸を張ると、彼女はここで賭けをしていた事を思い出す。この試合にダイゴが負ければレノはテンが叶えられる願いを引き受けてもらうという約束をしていた。


「ああ、約束は忘れていないよ。だけどね、あんたの願いを叶えるつもりはないよ。あたしが約束したのはレノルビだからね」
「え?じゃあ、本当にお願いしてもいいんですか?」
「おう、何でも好きな物を言って見な。あたしが用意できる物なら用意してやるよ」
「といわれても……う~ん」


試合に夢中で賭けの事を忘れていたレノはテンの言葉に思い悩み、やがてある願いを思いつく。それは今後の旅に備えて馬のような乗り物が欲しい事を告げる。


「それじゃあ、馬を貰えませんか?旅をするのに必要になるので……」
「なるほど、馬か……それならうちで貸し出している馬の1頭を与えてやってもいいけど、本当に馬でいいのかい?今なら馬よりも足の速い乗り物を用意できるよ?」
「ギルドマスター!?まさかあの魔獣の事を言ってるんですか!?」


テンは何かを思いついたように笑みを浮かべると、彼女の言葉を聞いてアキが慌てふためく。その二人の反応にレノは不思議に思うが、この数時間後にその意味を思い知らされる――





――数時間後、レノは草原にて馬ほどの背丈の大きな狼に乗り込んでいた。全身が白い毛皮に覆われ、馬よりも圧倒的に早い速度で駆け抜ける。その背中にレノは必死にしがみつき、振り落とされないように抱き着く。


「うわっ!?ちょ、ちょっと……早すぎるよウル君!?ダリルさんたちがまた見えなくなっちゃったよ!!」
「ウォオオンッ!!」


白狼種と呼ばれる特殊な魔獣をテンから与えられたレノは乗りこなすのに必死になり、ウルと名付けられた魔獣種の狼を入手したレノはオークの住処に到着するまでの間にウルを乗りこなせるように練習を行う。

テンによるとウルは元々は他の地方に生息するはずの魔獣種なのだが、ある奴隷商人がウルを捕獲し、この地方に運び込んだという。恐らくは珍しい白狼種を密売して稼ごうとしたのだろうが、その奴隷商人は捕まってしまい、彼が管理していた魔獣たちは冒険者ギルドが預かる事になった。

捕獲された殆どの魔獣は解放されたが、この白狼種のウルだけは元々は別地方の魔物だったが故に放逐すれば生態系を乱す危険性がある。それならばとテンはウルをレノに与え、旅の供として同行させる。


「ウォンッ!!ウォオンッ!!」
「き、君……そんなに外に出れたのが嬉しいの?」
「オンッ♪」


ウルは自由に外を駆けまわれる事に嬉しそうな鳴き声を上げ、その様子を見てレノは苦笑いを浮かべながらも振り落とされないようにしっかりとしがみつく。乗りこなすのには時間が掛かりそうだが、心強い旅の供を手に入れた。


「これからよろしくね、ウル」
「ウォンッ!!」


新しい主人の言葉にウルは元気よく返事を行うと、草原を駆け抜ける。これからは彼と共に旅をする事にレノは笑顔を浮かべた――
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