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冒険者編

槍使いの勘十郎

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「それで?誰から相手をする?3人全員で掛かってきてもいいぜ」
「随分と余裕ですね。この二人の強さはさっき見たでしょう?まあ、ヒカゲさんは姿を消してましたけど……」
「いや、見えていたさ。俺の目にはっきりとな」
「……ハッタリは格好悪い」
「試してみるか?」


勘十郎の言葉にヒカゲは不満そうに苦無を構え、自分の擬態の能力を見破ったという勘十郎の言葉に苛立ちを抱く。彼女は勘十郎の存在に気付いてはいたが、勘十郎の方は自分に気付いていたとは思えない。それほどまでに彼女は自分の能力に自信を持っている。


「ほら、さっさと能力を使いな。邪魔しないからよ」
「な、なにを言ってるんですか勘十郎さん!!」
「遊んでないで倒してくださいよ!!」
「分かってる分かってる。ちゃんと真面目に戦うよ」
「……後悔しても遅い」


ヒカゲは苦無を構えたまま両目を瞑り、能力を発動するために意識を集中させる。しかし、その隙を逃さずに勘十郎は手元の槍を動かして足元の小石を弾く。


「石礫!!」
「うっ……!?」
「なっ!?」


瞼を閉じたヒカゲに対して勘十郎は地面の小石を叩きつけ、彼女の身体に放つ。石礫に対してヒカゲは両腕を交差して防ぐが、その隙を逃さずに勘十郎は槍を突き出す。


「そらっ!!」
「くっ……」
「危ないっ!!」


卑怯な手段で槍を突き出してきた勘十郎に対し、ルノは前に飛び出して二人の間に入り、突き出された槍を掴み取る。それを見た勘十郎は驚愕の表情を浮かべ、まさか自分の槍を止められるとは思わなかった。


「俺の槍を受け止めただと……てめえ、何者だ!!」
「それはこっちの台詞だ!!こんな卑怯な真似をするなんて……」
「ルノ、ありがとう。だけど今のは油断した私が悪い」


ヒカゲは自分を庇ってくれたルのに礼を告げるが、その表情は不満を表しており、こんな幼稚な挑発に乗った自分を恥じる。その一方で槍の柄を掴まれたままの勘十郎は眉を顰め、先ほどから引きはがそうとしているのに予想以上の握力に槍が引き寄せられない。


「くっ……!!何て馬鹿力だ!?」
「もう降参してください。でないと……」
「はっ、甘く見るなよ!!」
「ルノさん!!その槍から離れて!!」


武器を掴まれたにもかかわらずに勘十郎は不敵な笑みを浮かべ、それを見たリーリスは危険を感じ取り、ルノを注意する。しかし、勘十郎が先に槍を掴まれたままの状態で戦技を繰り出す。


「刺突!!」
「うわっ!?」


直前まで引き寄せられていた槍が今度は逆に突き出され、予想外の力にルノは危うく刃を腹部に貫かれそうになる。咄嗟に槍を手放して身体を横に反らす事で回避には成功するが、胸元の服が大きく切り裂かれる。


「ちっ!!上手く避けたか……だが、これならどうだ!!乱れ突き!!」
「うわわっ!?」


今度は槍を高速に突き動かし、残像を生み出す速度で幾度も槍を放つ。それを確認したルノは身体を反らして全ての槍を回避するが、更に勘十郎は槍を手元で回転させながら接近してきた。


「中々面白いダンスをやるじゃねえかっ!!だが、今度は逃がさねえっ!!回転!!」
「おっとと……!!」


言葉通りに槍を回転させながら勘十郎はルノに攻撃を仕掛けるが、それを見ていたヒカゲが勘十郎の背後に移動し、背後から苦無を構えたまま接近する。


「辻斬り」
「うおっ!?」


苦無を構えたヒカゲが不意打ちを仕掛けるが、咄嗟に勘十郎は頭を下げて彼女の攻撃を回避する。位置的に彼はヒカゲの姿は見えなかったはずだが、直観で危険を察して避けた。


「このっ!!」
「は、何だその構え……うおおっ!?」


素人丸出しの動作でルノは拳を突き出し、それを目撃した勘十郎は余裕の態度で回避しようとするが、予想外の拳の速度に驚愕し、危うく後方に跳んでいなければ顔面が撃ち抜かれる所だった。戦闘の技術は未熟だが、ルノの身体能力はこの場の誰よりも高く、ただの攻撃が必殺の一撃へと変化する。


「な、何だ今のは……」
「このぉっ!!」
「うひぃっ!?」
「あ、惜しい」


ルノが今度は反対の拳を突き出すと勘十郎は咄嗟に上体を反らして回避に成功するが、彼の突き出した拳から衝撃波のような物が走り、真面に喰らっていたら無事では済まないだろう。その様子を確認しながらリーリスは井戸の裏に隠れ、安全な場所でルノに指示を出す。


「ルノさん!!普通に攻撃しても当たりません!!顔面ではなく、お腹を責めてください!!ボディですよボディ!!」
「なるほど……このっ!!」
「くそ、何なんだ一体!?」


攻撃箇所が小さい分に避けられやすい頭部にではなく、攻撃を当てやすい胴体にルノは攻撃を集中し、素人同然の攻撃を繰り出す。しかし、レベル90台の身体能力から繰り出される拳や蹴りは真面に喰らえばミノタウロスでも昏倒するのは間違いなく、勘十郎は命懸けで避け続ける。
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