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帝都防衛編

未来視

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『旦那!!俺の事を覚えているか?3年ぐらい前にあんたの宿に泊っただろ?』
『む?お主は……おお、妻の誕生日に贈る包丁を作ってくれたガジ殿か!!』
『包丁をプレゼントしたんですの……?変わった方ですね』


ガジの言葉にガインは二人の存在に気付き、双子を拘束した状態で話しかける。会話の最中に隙を見せる事もなく、相手が少女であろうと街を襲撃した事は事実であり、ガインは油断せずに少女達を見張る。


『さて……お主達が何者なのか答えて貰おうか。魔王の崇拝者か?』
『ひいっ!?』
『ちょっと!!妹に刃を近づけないでよ!!この爺っ!!』
『反省が足りぬようだな……ふんっ!!』
『あうっ!?』


ガインは刀を離すと足払いを行い、双子を押し倒す。傍目から見たら大の大人が二人の少女を背中から押し倒しているので事情を知らない人間が見たら誤解しそうな光景だが、どんな理由があろうと双子が街を襲撃した事実は変わらず、ガインは二人を抑えつけて事情を問い質す。


『さあ、答えろ。お主等は何者だ?正直に言わねばこのまま帝国兵に突き出すぞ!!』
『くっ……馬鹿にしないでよ!!そんな脅しに屈するわけないでしょう!!』
『大人に対して口の利き方がなっていない女子だな』
『ううっ……痛いよう』
『旦那……そいつはちょっとやりすぎじゃねえのか?』


エルミナは怒鳴り散らす中、妹のアリシアは頭を地面に抑えつけられて涙を流し、流石にガジが同情して彼の行動を止めようとする。しかし、双子は杖を手放さず、エルミナはガインの足元に視線を向けて魔法を発動させる。


『何時までも調子に乗ってんじゃないわよ……転移!!』
『何っ!?』
『あっ!?』


双子を抑えつけていたガインの足元に魔法陣が出現し、落とし穴に落ちたようにガインの身体を飲み込む。更にエルミナは杖を上空に構え、新しい魔法陣を遥か上空に作り出す。


『落っこちて死んじゃえっ!!』
『うおおっ!?』
『旦那!?』


空中に出現した魔法陣からガインが姿を現し、地上へ向けて落下する。幾ら高レベルの戦闘職の人間であろうと受身を失敗すれば取り返しのつかない損傷を負う可能性が高く、咄嗟にドリスが杖を突き出して彼の肉体に威力を弱めた風属性の砲撃魔法を放つ。


『ウィンドランス!!』
『ぬおっ!?』
『ちっ……邪魔しないでよ!!』
『だ、駄目だよお姉ちゃん!!これ以上は……』


風の砲撃魔法によって降下中のガインの肉体が一瞬だけ浮き上がり、無事に地面に着地する。それを見たエルミナはドリスを睨みつけるが、アリシアが慌てて彼女の腹部を抑え、逃げるように促す。


『もう無理だよ!!この人達、本当に強い!!』
『何を言ってるのよ!!こんな奴等、私とあんたが力を合わせれば……』
『駄目ったら駄目!!ここに残ると私達は捕まっちゃう未来が見えたの!!』
『……それ、本当?』


妹の言葉にエルミナは驚いた表情を浮かべ、アリシアは何度も頷く。その場にいたドリスはアリシアの「未来が見えた」という言葉に疑問を抱き、ある推測に至る。


『まさか……そこの貴女!!もしかして未来視の固有スキルを所持しているのでは!?』
『えっ!?』
『ど、どうしてあんたがそれを……あっ!?』
『やはり……!!』


ドリスの言葉に双子は明らかに動揺し、二人の反応から妹のアリシアが「未来視」と呼ばれる特殊なスキルを習得している事が判明する。



――未来視とは文字通りに自身に関わる未来を見る事が出来る能力であり、この能力は任意では発動出来ず、本人の意思に関係なく発動する。未来視で見えた光景は本人が大きな行動を取らなければ必ず訪れる未来であり、もしも都合の悪い未来が見えたのならば本人の行動次第によっては未来を変える事が出来る。また、未来視で見えるのは数秒~数分後の未来に限定されるため、時間が離れすぎた未来は見えない。



アリシアは未来視の能力で自分達が捕まる光景が頭の中に浮かんだらしく、だからこそ姉に逃げるように促す。もしも未来の光景に繋がるような行動を取り続ければ確実に捕まってしまうため、彼女は必死に姉を説得する。


『お姉ちゃん!!もう今日は帰ろうよ!!魔王様に怒られちゃうよ!!』
『くっ……分かったわよ!!』
『待て!!このまま逃がすと思って……』
『うるさい!!さよならっ!!』


エルミナは杖を振り翳した瞬間、双子の足元に魔法陣が出現し、先程のゲインのように飲み込まれて姿を消す。その光景を見たドリスは咄嗟に杖を構えるが、既に二人を飲み込んだ魔法陣は消え去り、取り逃がしてしまう。


『おい!!何の騒ぎだ!!』
『こっちです!!ここで魔王軍を名乗る子供たちが現れたんです!!』
『あれ!?あの人達って……』


二人が消えた直後に一般人が呼び出したのか帝都の冒険者と帝国の兵士達が押し寄せる。もしも双子が残り続けていたら彼等に囲まれていた事は間違いなく、3人はアリシアが本当に自分達が捕まる未来を見た事を確信した。
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