最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

帝都防衛編

呪腕

「さあ、降参してください」
「ぐぅうっ……！？」
「そ、そんな……か、カイまでやられるなんて……」
「に、逃げようよお姉ちゃ……ひいっ！？」


その場から離れようとした双子に対し、ルノは無言で腕を突き出し、氷塊の魔法で氷壁を作り出す。規模は二人を取り囲むように巨大な氷の壁を作り出すと、一言だけ告げる。


「君達はそこにいて」
「は、ははっ……はい！！」
「ご、ごめんなさい！！」


ルノに睨みつけられた双子はその場でへたり込み、抵抗は無意味と判断する。ルノはその間に倒れたカイに視線を向け、地面に背中が埋もれた状態の彼に話を聞く。


「まだ意識は残ってる？なら、色々と聞きたいことがある」
「ぐっ……！！」
「魔王は……何処にいる？」


今までに抱いていた疑問をルノは問い質すと、カイは黙って口元に笑みを浮かべ、何事か囁く。声が小さいので聞き取れず、ルノは仕方なくカイの顔に耳元を近づける。


「何？よく聞こえない……」
「……腐れ」
「えっ？」


耳を顔に近づけた瞬間、カイは両腕を伸ばしてルノの首筋を掴む。その瞬間、ルノの肉体に異変が生じた。


「うあっ！？」
「ははははっ……油断したなっ！！」


唐突に首に痛みが走り、カイが掴んだ箇所の皮膚が黒色化し、徐々に身体に広がっていく。首に激痛が走ったルノは咄嗟にカイを引き剥がすが、痛みは徐々に広がり続け、耐えきれずに倒れこむ。


「どうだっ……これが黒影一族の呪腕だ」
「呪腕……！？」
「ちっ……まだ話せるか。魔法耐性が高すぎて効果が薄いのか……？」


カイは痛む身体を無理やりに起き上げ、ルノを見下ろす。話している間にも既に胸元までの皮膚が黒色化してしまい、あまりの激痛に立つ事さえままならない。それを見たカイは満足そうに頷き、両手を伸ばしてルノの頭を掴む。


「死ねぇっ！！」
「うぐぅっ！？」


顔面を掴まれた事で黒色化が更に広がり、振り払おうとしても上手く力が扱えず、カイの腕を引き剥がせない。このままでは殺される事は間違いなく、ルノは咄嗟にアイテムボックスのスキルを利用して異空間から吸魔石を取り出す。


「このっ！！」
「うがぁっ！？」


ルノが取り出したのは岩人形を倒すために用意しておいた「吸魔石」であり、リーリスに渡される前に自分で保管しておいた物を地面に叩きつける。吸魔石が壊れた直後に水属性の魔力が暴発し、カイの肉体を一瞬にして氷結化させる。無事だったのは魔力を埋め込んだ張本人であるルノだけであり、衣服の表面が凍り付いたが肉体に影響はない。


「き、貴様……！！」
「げほっ！！げほっ、くそっ……」


身体の半分が凍り付いたカイは倒れこみ、その間にルノはアイテムボックスのスキルでリーリスから受け取っていた回復薬を取り出す。効果があるのかは不明だが、ルノは回復薬を頭から浴びる。


「ぐううっ……！！」
「無駄だっ！！その程度の回復薬で治るものか！！」


リーリスが製作した回復薬は市販の回復薬よりも回復効果も高いはずだが、黒色化した皮膚に注ぎ込んでも痛みが和らぐ程度で黒色化が収まる様子はない。先ほどのカイの言葉から只の毒物ではないと判断したルノは必死に生き延びる方法を探す。


（呪腕……つまり、呪いの腕？それならこれは呪われているのか……だとしたらどうやって治せばいいんだ？）


自分の肉体の異変が呪われていると判断したルノは解決策を見つけ出すため、意識が残っているうちにステータス画面を開く。ルノは帝都で再会したガインの事を思い出し、彼は「毒耐性」と呼ばれるスキルを所有している。このスキルはあらゆる毒物に対して強い対抗力を肉体に得られる能力であり、ルノはＳＰを消費してスキルの中から「呪い」に関係するスキルが存在しないのか目を通す。


（呪い……呪い、駄目だ。見つからない……不味い、本当に死にそう……）


意識が朦朧としているので文字を読むことも難しく、スキルを習得して呪いに侵された肉体を治療する事も出来ない。しかし、ここでルノはある考えに至る。


（待てよ……そういえばリーリスが言っていたな）


まだルノとリーリスが旅を始めたばかりの頃、緑死病に侵されたガインの治療の最中、ルノは彼女にある質問を行う。それは回復魔法の類で毒物を除去出来なかったのか聞いたのだが、彼女はこう答えた。


『回復魔法の中には状態回復リフレッシュと呼ばれる魔法もあります。もちろん、私も覚えてますよ。だけど、この魔法の効果は熟練度ではなくてレベルの高さによって左右されるんです。簡単な風邪程度なら私も治せますが、重い病とかは無理です』


だからこそリーリスは緑死病に侵されたガインを魔法ではなく、薬品で治療した事を思い出し、ルノは一か八かの賭けになるが職業の変更を試みた。