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帝国の危機

日の国と獣人国

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「というか、国の内乱が収まらない内に他国に攻め込むなんて何を考えているんですかね?」
「だから言ったでしょ。第一王子は馬鹿だって……といっても、正直に言えば日の国はかなり危機的状況なんですけどね」
「何でですか?日の国にだって軍隊は居るでしょ?そもそも日影を使えばその第一王子を誘拐すればいいじゃないですか」
「え?そんなに凄い事が出来るの?」


リーリスの言葉を聞いて直央は驚くが、実際に日の国は過去に帝国や獣人国から攻め寄せられようとした際に両国の重要機密や王族といった人材を誘拐して戦争を回避している。戦争を仕掛ける事を宣言した人間を誘拐して人質にする事ほど効果的な事はなく、今回も同じ方法で戦争を回避出来ないのかと思うが、ソウシによると今回ばかりはその方法は頼れないという。


「生憎と獣人国も日影の恐ろしさを理解しているのか、馬鹿王子は行方をくらまして何処に隠れたのか判明していないんですよ。しかも日影の頭領はあんた等の国にいるから碌に連絡も取れないし、代わりに副頭領も獣人国で調査を行っているが今のところは連絡無し、正に八方塞がりというわけで……」
「流石に馬鹿でも忍者の恐ろしさは理解していたんですね。でも、そうなると日の国の軍勢で獣人国に対抗できるんですか?」
「……うちの国の兵士はせいぜい1万程度、対して獣人国から押し寄せてくる兵隊の数は想定で3万、はっきりいって分が悪いですよ」
「そんな……」
「まあ、大丈夫ですよ。ここだけの話、実は獣人国に潜入させていた忍者を使って第二王子と接触に成功しました。第二王子の協力すればどうにか出来るらしいです」


第一王子が派遣した軍隊との兵力差は3倍も存在し、仮に兵力差を覆して撃退に成功したとしても獣人国にはまだまだ兵隊は残っているだろう。最も日の国も傍観していたわけではなく、獣人国に送り込んだ日影を利用して第一王子と敵対する組織と取引を行っていた。敵の敵は味方という言葉もあり、第二王子も日の国の協力を得て多方面から第一王子に抗うつもりだった。


「第二王子との取引が成功すれば攻め寄せてくる獣人国の軍隊も引き返すのは間違いない。だからうちは籠城で持ち応える事に決めたんですよ」
「それで周辺の村の人間を都に避難させているんですね。確かに守備に徹すればどうにか出来るかも知れませんけど……」
「それにおたくらの国には既に早馬を走らせていますよ。というか、俺はリーの姉御がここに来たのは帝国からの使者かと思ったんですけど……違うんですかい?」


ソウシの言葉にリーリスと直央はお互いの顔を確認し、自分達がとんでもないタイミングで日の国に訪れた事を察する。しかし、獣人国に所属する冒険者を招くために訪れたはずが、まさかその獣人国の軍隊が日の国に攻め寄せているとは思いもよらず、出鼻を挫かれてしまう。


「参りましたね。まさか日の国と獣人国が戦争状態に入っていたとは……というか、これかなり不味い状況ですよね。帝国の主力がエルフ王国に向かっているときに……」
「ちょっと待って下さい。それ、どういう意味なんすか?エルフ王国?」
「日の国にはまだ情報が伝わっていないようですけど、帝国でも大変な事が起きているんですよ」


仕方がないのでリーリスは帝国の現状をソウシに伝えると、流石の彼も呆気に取られた表情を浮かべ、まさか一番頼りにしていた帝国の軍隊が既にエルフ王国へ向かっているという報告に驚きを隠せない。


「こいつは……流石に予想外だ。まさかあのエルフ王国が国家存亡の危機に陥っているとは……」
「というか、いくらなんでもおかしくないですか?帝国と王国で問題が起きているときに獣人国と日の国が戦争に突入仕掛けているなんて……」
「……偶然、なのかな?もしかしたら魔王軍が関わっているんじゃ……」


直央の言葉にリーリスは考え込み、確かに状況的に考えても魔王軍が獣人国を利用して日の国に攻め寄せようとしている事も考えられなくもない。実際に日の国は帝国と獣人国の堺に存在する国であり、仮に日の国が滅びれば帝国としても獣人国を警戒しなければならない。

しかも既に帝国の軍隊はエルフ王国へ向かっており、日の国の使者が帝都に到着する頃には討伐軍はエルフ王国の領地へ到着しているだろう。実質的に現在の帝国が日の国へ援軍を送る事は不可能に近く、状況的に魔王軍にとって最も最善な方向へ向かっている。


「くそっ……このままだとエルフ王国だけじゃなく、日の国まで……魔王軍めっ!!」
「まあ、落ち着いて下さいよ。別にうちとしては獣人国の兵隊なんて恐れる程の相手じゃありませんからね。それより、おたくらはどうするんですか?もう間もなく獣人国の軍勢が押し寄せてきますよ?」
「そうですね……」


獣人国の冒険者の協力を求められる状況ではなくなり、残念だが直央とリーリスは引き返すしかないだろう。だが、ここまで訪れたにも関わらずに何の収穫も無しに引き返す事に二人も落胆は隠せなかった。
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