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獣人国

ガルルの怒り

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――水竜が死亡したという報告がガルルの元にすぐに届き、彼は自分の目の前に魔物使いを呼び寄せる。水竜を操作して侵入者の追跡を行わせていた魔物使いの兵士は顔を青白くさせ、ガルルの前で跪く。


「おい、貴様……この俺を誰だと思っている!!次期国王のガルル様だぞ!!」
「は、はい!!存じておりますガルル王子様!!」
「ならばもう一度報告しろ!!水竜はどうなったのだ!!」
「す、水竜は……恐らく、殺されたと思われます……」
「貴様っ!!この期に及んで俺を愚弄するか!!」
「落ち着いて下さい王子!!」


剣を抜いて兵士に斬りかかろうとしたガルルを周囲の人間が慌てて止めるが、ガルルは水竜が操作出来なくなった兵士の言葉が信じられず、彼が虚偽の報告を行っていると判断した。


「ええい、離せっ!!この愚か者を切り捨てろ!!水竜が殺されたなどと下らん事を言いおって……」
「ほ、本当の事でございます!!決して私は嘘を吐いておりません!!」
「黙れ!!竜種を殺せる存在がいるはずがないだろう!!」
「ですが、それ以外に考えられないのです!!魔物との契約が消えるのは契約紋を解除するか、あるいは契約紋を施した魔物が死亡するか、この二つだけなのです!!」


鬼気迫る表情で問い質すガルルに対し、怯えながらも魔物使いの兵士は水竜に施した契約紋が消えた事を説明して水竜が殺された事を伝える。しかし、他の人間達も竜種である水竜が死亡したという話は信じ切れず、小舟を出して水竜の探索を行っている。


「おい、本当に水竜の反応が消えたのか?何かの間違いじゃないのか?」
「それは有り得ません。現に水竜と契約紋を施す時に刻んだ私の契約紋が消えているのです」


魔物使いの兵士は右腕を差し出して水竜が死亡する前は確かに腕に刻まれていた紋様が消えている事を示す。魔物使いが魔獣と契約を行う際、契約紋と呼ばれる紋様を自分と魔物に刻む必要がある。この紋様を通して魔物使いは契約獣と化した魔獣を操るのだが、魔物使いの兵士の腕には確かに十数分前には刻まれていたはずの紋様が消えていた。


「王子、この者はどうやら嘘は吐いていないようです。状況的に考えても先ほどの謎の侵入者に水竜が殺されたのでしょう」
「馬鹿なっ!!ならば奴は水竜を殺せるほどの力を持つと言うのか?」
「いえ、それは考えにくいでしょう。海中で水竜を殺せる程の力をもつ者がいるとは思えません。恐らく、奴らは何らかの罠を仕掛け、我々の水竜を殺したのでしょう」
「おのれ……こちらの動きが読まれていたというのか!!」


貴重な水竜を殺されたガルルは近くに存在した木箱を蹴り上げ、中身の水竜の餌のために用意していた魔物の死骸が甲板にばら撒く。その臭いを嗅いだ獣人族の兵士達は眉を顰めるが、怒りを抑えきれないガルルは木箱を次々と蹴り上げる。


「くそっ!!あの水竜を手に入れるのにこちらがどれだけの年月と費用を掛けたと思っている!!わざわざ高い金を払って海底の人魚族と交渉して購入した卵を手に入れたというのに……」
「落ち着いて下さい王子!!問題なのは水竜が存在しなければケモノ島の出航は危険すぎます。あの海域の魔物は非常に獰猛で水竜を同行させなければ船が攻撃されてしまいます。それに先に出向いたガウ王子も水竜を同行させているはずです……この状態で我々がケモノ島に向かえば逆に命取りになりかねません」
「そうだ!!それが大問題ではないか!?」


ウォンの言葉にガルルは今更気付いたように自分達の立場の危うさを理解し、軍船の準備が間もなく完了しようとした時に警護用の水竜が死亡した事でケモノ島へ向かうまでの道中に遭遇する海中の魔物への対抗手段を失ってしまう。大陸から離れた海域には獰猛な水棲の魔物が非常に多く、このままでは軍船を出航させる事が出来ない。


「おい、すぐに新しい水竜を用意できないのか?」
「我が国で飼育している水竜の3体の内の1体はガウ王子が管理しています。今回は残りの2体の内の1体を連れてきたのですが……」
「おお、ならばあと1体は存在するのだな?すぐに連れ出せ!!」
「それは出来ません!!最後の水竜が配備されているのは巨人国との境目に存在する「大青河」に配備させています。大青河から水竜を呼び寄せるにしても時間が掛かり過ぎます!!」
「しかも巨人国が軍隊を派遣した時に対抗するための防衛戦力を失ってしまいますぞ!!」
「ぬぐぐっ……!!」


部下からの言葉にガルルは歯を喰いしばり、あと少し目の上のたん瘤だった弟を追い詰める事が出来ると考えていたガルルは悔しがる。しかし、幾ら彼が愚かと言えど国境の戦力を低下させる事は出来ず、もうしばらくの間は港に留まる事を余儀なくされた。



※ルノによって第一王子の戦力が大幅に低下しました。
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