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外伝〈転移石を求めて〉

穴の中は

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「この穴の中、どうやら大きな空洞に繋がっているみたい。あ、大きな建物が見えた!!なんか古代ローマの遺跡みたいなデザインだけど……」
「遺跡?もしかして、コトネが前に第三階層で見かけた遺跡と同じなのかな?」
「分からない、他に気になる点はある?」
「えっとね……うん、特に魔物は見当たらないね。あ、でも建物の前にリーリスさんの薬瓶が落ちてる!!」
「何!?という事はやはりこの中に……」


ナオの言葉に全員が斜めに広がっている穴底に視線を向け、予想通りというべきかリーリスがこの中に入り込んだ事を確信する。


「この中にリーリスは入ったとしたら……なんでこんな所にハッケン君を落としたんだろう」
「……簡単な話、ちょっと覗きこもうとして間違って中に転げ落ちて行った」
「結構奥まで続いてそうだねこれ……お~い!!リーリス!!聞こえたら返事して!!」


ルノが穴の中に声を掛けるが、やはり返事はなく、ナオは穴の底に繋がる遺跡の様子を調べてリーリスの姿を探す。


「う~ん……この遺跡の中、思っていたよりも広いな。リーリスさんを見つけるのに時間が掛かりそう」
「それならいっその事、空間魔法で移動すればいいんじゃないのか?僕達も中に入って呼びかければリーリスの奴も出てくるじゃないか?」
「なるほど、確かにそれは一理あるね」
「……もしかしたら大迷宮の休憩地点かもしれない」
「例の魔物が近寄ってこない安全地帯の事?」


コトネの予想では穴の底に存在する遺跡は大迷宮内に存在する「休憩地点」と呼ばれる場所の可能性が高く、この休憩地点には何故か魔物が寄りつかず、迷宮に挑んだ人間達が安全に休む事が出来るという安全地帯である。この第五階層と思われる階層にも存在するのかは不明だが、コトネの経験談によると第一から第四階層には数か所の休憩地点が存在したという。


「好奇心旺盛のリーリスの事だから、もしかして遺跡の中に入り込んで調査している内に俺たちの事を忘れてた案策に没頭しているのかもしれない。すぐに追いかけようよ」
「そうだね、なら俺の空間魔法で……あ、あれ!?」
「ん?どうしたナオ?」


ナオは千里眼の能力と空間魔法を利用して黒渦を生み出そうとしたが、何故かナオは魔法を発動させようとしても上手く行かず、彼は困った風に何度も掌を広げるが黒渦が発生しない。その様子を見た他の者達が不思議に思うと、ナオは信じられない表情を浮かべて説明する。


「お、おかしいな……魔法が上手く発動しない。遺跡の中に黒渦を作り出そうとしたんだけど、何故か作り出せないよ!!こんな事、今までなかったのに……!!」
「え?どういう事?」
「……まさか、魔法が扱えなくなったとか?」
「そんなはずは……あ、待って!!建物から少し離れた場所には繋がった!!けど、建物の中には何故か空間魔法が使えない……」


何度も試した結果、どうやらナオの空間魔法は遺跡のような建物の内部では発動しないらしく、代わりに建物の目の前の空間ならば黒渦を発生させる事が発覚した。どうやら理由は不明だが、建物の内部では魔法が発動しない仕組みになっているのかもしれない。


「……そういえば噂だけど、大迷宮のいくつかの箇所には魔法が発言しない場所があると冒険者から聞いた事がある。けど、この塔の大迷宮にもそんな場所があるなんて知らなかった」
「え!?じゃあ、建物の中では魔法は使えないの!?」
「でも、千里眼のスキルは通じるけど……」
「スキルと魔法はあくまでも別物……もしもその場所が休憩地点じゃないとしたら非常に厄介。魔物が存在したら魔法の力に頼らずに戦わないといけない」
「それって不味いじゃん!!」


魔法が扱えない場所でリーリスが一人で探索を行っていた場合、もしも彼女が魔物と遭遇したら魔法の力が頼れず、負傷しても回復魔法で治療する事は出来ない。すぐに追いかける必要が出来たが、魔法が扱えない場所となれば魔術師であるルノにとっても危険な場所である。


「すぐに追いかけないと……ナオ君、この黒渦を通れば中に入れるんだよね!?」
「う、うん……あ、でも灯りが無いと真っ暗だから何も見えないよ?」
「大丈夫、暗視のスキルなら俺も覚えてるから!!」
「待ってルノ……ここから先は魔法には頼れないかもしれない。その場合、戦う事になったどうする?」
「それは……あ、この刀で戦うよ!!それにデブリも一緒だからきっと大丈夫だって!!」
「任せてください師匠!!このデブリ、魔法がなくともこの筋肉でどんな魔物も打ち倒しましょう!!」
「お、おおっ……こういう時は凄く頼りがいがあるねデブリ王子」
「……確かに」


魔法が使えない場所だといてもリーリスを見捨てるわけにはいかず、ルノ達はナオの空間魔法を利用して穴の中に入り込む。黒渦を潜り抜けるとルノ達の視界が暗闇に覆われてしまうが、暗視のスキルを習得している者達はすぐに夜目が聞き、周囲の光景を確認出来た。
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