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ゴブリンキング編

真偽眼

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「何だお前は……そ、その恰好は!?」
「きょ、教会の方でしたか!!これは失礼しました!!」
「そういうのいいから、その人は嘘を吐いてないよ。こっちの女の人は嘘しか言ってないけど……」
「な、何だいあんた!!いきなり現れて失礼な……」


謎の少女の登場に警備兵は動揺し、一方で女性の方は嘘だと告げられて冷や汗を流す。何故か初対面であるはずの自分を庇う少女にレナは疑問を抱くが、彼女は少し怒ったように頬を膨らませて獣人族の女性を指差す。


「私は真偽眼のスキルを持ってるもん。この人、さっき嘘を吐いていたよ」
「ほ、本当ですか?」
「おい、どうなんだっ!!」
「ち、ちがっ……」
「その女の人は俺の知り合いからお金を盗みました。その人が持っている小袋は俺の知り合いの物です」
「く、くそっ!!」
「あっ、待てっ!?」


女性が言い訳を行う前にレナが警備兵に彼女の罪を伝えると、獣人族は言い逃れは出来ないと判断したのかその場から逃げ出す。警備兵が慌てて彼女の後を追いかけるが、肝心の小袋は地面に落としたままであり、レナは走り去る3人の後姿を見送りながら無事に小袋を回収する。


「あ、ありがとうございました」
「ううん、気にしないでいいよ~」


レナが少女に頭を下げると彼女は人懐っこい笑みを浮かべ、今更ながらに彼は少女が「美少女」と呼べるほどに可愛い容姿だと気付く。ローブの上からでも分かる程に膨らんだ胸元と安産型のお尻が目立ち、コトミンにも劣らぬプロポーションを誇っていた。少女の手元には紙袋が握りしめられており、十字架と太陽が合わさったような紋様が刻まれていた。


「あの……さっき言っていた真偽眼って……」
「え?真偽眼を知らないの?えっとね、私は相手の顔を見たら嘘を見抜く事が出来る能力だよ」
「嘘を見抜く……」


レナの声を聴き分けて相手の善意や悪意を見抜く能力とは異なる能力のようだが、嘘を見抜くという点ではどちらも共通しており、少女の場合はこちらの世界に存在するスキルとして習得している。レナは危うく警備兵に捕まる所を助けてもらい、何か礼が出来ないかと考えていると後方からアイリィ達の声が聞こえて来た。


「あ、レノさん!!やっと見つけましたよ!!」
「泥棒は!?」
「……その子、誰?」
「わわっ!?巨人族さんだ~」


2人の元にアイリィ達が駆け寄り、レナは獣人族の女性から取り返した小袋をゴンゾウに返す。彼等に犯人を捕まえようとした時に警備兵が現れ、危うく誤解で捕まりそうになった所を少女に救われた事を説明すると、ゴンゾウが深々と2人に頭を下げる。



「俺のせいで二人に迷惑を掛けた……すまない」
「いいよ別に……お金を取り戻せて良かったね」
「気にしないでいいよ。困った人を救うのが陽光教会の役目だからね!!」
「え、教会の方なんですか?」
「……いけない、ホネミンが浄化される」
「えっ?」
「いや、だから私は悪霊じゃないですって」


コトミンが咄嗟にアイリィ(スケルトン)を庇うが、そんな彼女の行動に少女は首を傾げ、一方でレナは少女が持っている紙袋が気にかかり、中身は大量の瓶が入っているのか紙袋の上からでも確認できる。


「あの、それは?」
「あっ……これは何でもないよ。お薬が入っているだけだから……」
「お買い物ですか?」
「う、うん……そんな感じかな」


アイリィの質問にレナは彼女の声が「嘘」を吐いている事に気付き、慌てて少女は紙袋を背中に隠し、そんな彼女の行動に全員が不思議な表情を抱く。


「あ、ご、ごめんね。用事を思い出したから私はそろそろ……」
「あの……本当にありがとう」
「ううん……気にしないでいいから~!!」
「あ、ちょっと……早い!?」


少女は漫画のように土煙を舞い上げながら走り去り、その速度は先ほど逃げ出した獣人族の女性や聖属性の付与魔法で強化したレナを上回り、オリンピックの陸上選手とは比べ物にならない速度で立ち去る。その光景に誰もが呆然と見送り、アイリィは何かを思い出したように呟く。


「そう言えば陽光教会の修道女は肉体派で有名でしたね……聖属性の魔法を日頃から頻繁に扱うせいで肉体が普通の人間よりも強化されていると聞いたことがありますけど……」
「ちょっと待って、回復魔法を扱い続けたらあんな風になるの!?」
「いや、流石にそれはないですよ。もしかしたらレベルが物凄く高いだけかもしれませんけど……あれ?」
「どうしたの……これは?」


不意にアイリィが地面に視線を向け、レナも顔を向けると地面に小瓶が落ちている事に気付き、拾い上げると先ほどの紙袋にも描かれいた紋様が刻まれた硝子瓶であり、中身は魔力回復薬なのか青色の液体が入っていた。


「それは教会が生産している魔力回復剤ですね。さっきの人の落とし物でしょうか?」
「じゃあ、返さないと……と言っても、何処に行ったんだろう」
「治療院に向かえばいいんじゃないですか?この帝都には一つしかありませんし……」
「道は分かるの?」
「あのでかい建物ですよ」


レナが治療院の場所を尋ねるとアイリィは少女が走り去った方角を指差し、視線を向けると病院のような大きな建物が数百メートル先に存在し、レナ達は彼女に薬を返すために治療院と呼ばれる建物に向う事にした。
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