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戦姫編

オーク襲撃

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ワルキューレ騎士団が帝都を出動してから半日が経過し、休憩を挟んで移動を続けるが、深淵の森までの距離は半分ほど残っていた。あまりに急ぎ過ぎると馬に大きな負担を与えてしまう為、ワルキューレ騎士団は小川を発見すると馬に水を与えて休ませる。


「ふうっ……久しぶりだね、こんなに馬を走らせたのは……ほら、あんたもそんな顔をしてないで水でも飲みな」
「あ、ああ……すまない」
「ふうっ……」


テンは岩場の上に座り込み、暗い顔を浮かべるリノンに水筒を渡し、レナも黒馬に変身しているコトミンの頭を撫でやる。これまでの移動の最中に馬には聖属性の魔法や回復薬を与えており、運動能力の強化や体力の回復を行わせるが、バジリスクとの戦闘を考えてもこれ以上の魔力の消費や回復薬の使用は控えなければならない。


「坊主も疲れただろ。あんた1人で馬達に付与魔法を施してたんだろう?お蔭で移動速度も随分と上がったけど、あんまり無茶するんじゃないよ」
「平気だよ別に……聖水もあるし、これぐらいなら問題ない」
「え?そ、そうだったのか?気付かなかった……」


リノンは移動の最中にレナが馬達に付与魔法を施していた事に驚愕し、彼女は必死に移動に集中していた事で気付かず、テンは呆れた声を上げる。


「あんたねぇ……自分の馬にも魔法を施されて気付かなかったのかい。どれだけ王女様の事を考えて移動してたんだい」
「すまない……そう言えば定期的に私の馬に掌を向けていたが、あの時に魔法を施してくれたのか……」
「坊主のお蔭で随分と距離を稼げたからね……この調子なら予定よりも早く森に到着できそうだよ。だけど森に出発する前に全員を休ませる必要があるね」


既に時間帯は深夜を迎えており、帝都を出発したのが昼頃だったので当然の時間帯だが、バルは深淵の森に到着する前に団員達に仮眠を取らせる必要があると判断し、あと少し移動を行えば夜営を行う予定であり、今の内に食事も行わせる。


「ほら、あんた達も食べな!!少しでも腹に何か入れないと倒れちまうよ」
「いや、私は……」
「いいからさっさと食べな!!王女様を救う前にあんたが倒れたら元も子もないだろう?」
「むぐぐっ……!?」


リノンは無理矢理にテンにパンを口の中に押し込まれ、その一方でレナも食事を行い、コトミンに聖属性の付与魔法を施す。


「コト……ウマミンもお疲れ様」
『ひひんっ……』
「あいててっ!?あれ、気に入らなかった?」


名前が気に入らないのか黒馬に変身したコトミンがレナに噛みつき、彼女を宥めながらレナは自分の荷物の確認を行い、バジリスクとの戦闘に備える。念のために元の世界の硬貨も用意しており、最悪の場合はゴブリンロードとの戦闘の時の様に「反発衝撃」を発動させる覚悟を抱く。


「さてと……そろそろ出発しようか。随分と長居したね」
「んぐっ……ま、待ってくれ……まだパンが残って……」
「副団長!!敵影です!!」


岩の上に座り込んでいたテンが起き上がり、移動を再開するために指示を与えようとすると、先に団員が彼女に報告を行う。敵影という言葉にレナとリノンも驚愕するが、テンは背中の大剣を引き抜いて報告を行った団員を問い質す。


「敵の位置は?」
「既に我々を取り囲んでいます!!恐らく、オークだと思われます!!」
「へえ……面白い、出て来なっ!!」


周囲に広がる茂みにテンが大声を上げると、無数の人影が姿を現し、レナ達の周囲にオークの群れが出現する。以前にレナが草原で遭遇した時よりも数が多く、50体近くの群れが周囲を取り囲んでいた。


『プギィイイイッ……!!』
「はっ!!オークの癖に中々の隠密能力じゃないかい!!丁度いい……食料が欲しかったところだ!!1匹残さずに狩り尽くしなっ!!」
『了解!!』
「わ、私も……」
「あんたはそこでじっとしてな。こいつらはあたし等の獲物だよ!!」


テンは立ち上がろうとしたリノンに忠告を行い、自分も大剣を掲げて駆け抜ける。数の上では互角ではあるが、周囲を取り囲んでいるオーク達の方が状況は有利であり、団員達に一斉に襲い掛かる。


『プギィイイイッ!!』
「舐めるな豚がっ!!」
「お前達など敵ではない!!」
「抜刀!!」


一気に押し寄せて来たオークに対し、ワルキューレ騎士団は嬉々とした表情を浮かべて武器を引き抜き、テンを筆頭に全員が斬りかかり、圧倒的な力の差を見せつける。


「乱れ突き!!」
「ブヒィイイッ!?」


ある団員は槍を構えて無数の突きを繰り出し、オークの肉体に無数の風穴を生み出し、その一方で剣を構えた団員が別の個体に斬りかかる。


「旋風剣!!」
「「プギャッ!?」」


回転を加えた剣戟を同時に2体に繰り出し、的確に相手の急所を切り裂く。更に別の場所では戦斧を構えた団員がオークの頭上から刃を叩きつける。


「兜割り!!」
「ブゲェッ……!?」


真面な悲鳴を上げる暇もなく、オークの頭部から股間まで戦斧の刃が通過し、文字通りに一刀両断を行う。その光景にレナは唖然とするが、リノンは感心した風に頷く。


「これがワルキューレ騎士団……確かに噂通りの戦闘集団だな」
『ぷるぷる……私は無害な馬』
「いや、馬じゃないだろ……」
「ひゃっはぁっ!!1匹も逃がさないよ!!」
「がうっ!!」


目の前の光景にコトミンが怯えたようにレナに擦り寄り、その一方ではテンが大剣を振り回しながらオークの後を追い続け、彼女の傍には猟犬のようにオークを追いかけ回すポチ子の姿もあった。
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