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城下町編

第18話 街の探索

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レアは窓の外を確認すると、丁度街道に兵士達が巡回を行う姿を確認する。この様子だと街中に兵士が派遣されているらしく、しかも手配書まで用意している辺り、完全にレアは犯罪者として扱っていた。先ほどは正体は気付かれなかったが、念のために今日は部屋に引きこもり、文字変換の能力が回復するまで待機するべきかレアは悩む。


(……ここで大人しくしていても時間を無駄にするだけだな。この姿なら正体が気付かれる事は無いだろうし、街を探索してみるか)


考えた末にレアは机の上に置かれた銀貨を掴み取り、まずはこの世界の通貨の価値を再確認する。店主に金貨を支払った際に受け取った釣り銭から考えるにこの世界の通貨は四種類存在する事をレアは知った。種類は銅貨、銀貨、金貨、それと一番価値が低い鉄製の硬貨も存在する。

鉄貨と呼ばれている硬貨が最も価値が低く、恐らく日本円に換算すると「100円」程度の価値だと思われた。銅貨の場合は鉄貨よりも価値が高いらしく、日本円に換算した場合は「1000円」銀貨は「1万円」金貨に至っては「10万円」の価値が存在するとレアは認識した。

銅製の硬貨よりも鉄製の硬貨の方が価値が低い事に意外性を感じられるが、この世界では金属の価値は地球とは異なるのかもしれない。ちなみにこの宿の宿泊料は1日辺り1万円程度であり、三食の食事付きを考慮しても少し高めの宿屋である。但し、部屋の方に関しては一人部屋でもかなり広く、毎日掃除が行われているのか清潔感も保たれ、家具も揃っている。また、従業員に頼めば食事も食堂ではなく部屋の中に運んでくれるのでサービスは悪くない。


「お金の方は文字変換の能力を利用すれば生活に困る事は無いか……でもこれ、偽造じゃないのかな」


文字変換を利用すればいくらでも通貨は製造できるだろうが、あくまでも誕生するのはオリジナルと全く同じ性能を持つ複製品のため、レナの能力で作り出した硬貨は偽造に等しい。それでも生きていくためにはどうしても金銭が必要のため、背に腹は代えられない。


「まずは身の回りの品物を用意しないとな……とりあえず、当面は下着と衣服だな」


レアは自分の胸元に手を伸ばし、随分と膨らんでしまった乳房を掴んで頬を赤くする。まさか女性に変化するとここまで胸が大きくなるとは思わず、しかもシャツしか身に着けていないのでくっきりと胸の形が露わになってしまう。この状態では流石に外を出歩くと目立ってしまい、早急に何とかしなければならない。


(やっぱり、外を出歩くには女物の下着も用意しないといけないよな……まさか、ブラジャーやショーツを履く日が来るとは思わなかったよ)


男の姿のレアの手配書が街中に出回った以上、不用意に男の姿に戻る事は出来ず、残念ながらしばらくの間は女性の姿で過ごさなければならない。ちなみに性別だけではなく年齢も変化させたのは外見をより変化させるためである。モデルをやっていた母親の遺伝子はちゃんと受け継いでいたらしく、想像以上の美人になってしまったのはレアも予想外だった。

身支度を整えて外へ行こうと扉に近付いた時、先に外側からノックが響き、先ほどの兵士が戻って来たのかとレアは焦った。だが、訪れたのはこの宿屋の従業員らしく、食事の準備が出来た事を告げる。


『レイナ様、食事の準備が整いました。部屋の中へ運んでもよろしいでしょうか?』
「レイナ……?あ、ああっ……はい、お願いします」


宿屋に宿泊する際に本名は不味いと思い、適当な名前を名乗ったことを思い出したレアは慌てて従業員を招き入れて食事を運ばせた――




――同時刻、帝城の方でも騒動が起きており、雛が意識を取り戻した。すぐに茂も瞬も彼女の元へ赴き、無事だった事を祝う。


「卯月、無事だったのか!!」
「怪我は平気なのか!?」
「わわっ!?ど、どうしたの二人とも?」


医療室に駆け込んできた茂と瞬に対してベッドから起き上がった雛は驚愕の声を上げ、彼女の傍にいた治癒魔導士の老婆が二人を落ち着かせる。


「落ち着いてください勇者様!!雛様はもう大丈夫ですから!!」
「ほ、本当か!?」
「血塗れで倒れていたと聞いていたんですが……」
「それが……身体を調べさせてもらいましたが、特に何処も怪我をされていません。服が切り裂かれていた状態で気絶していただけのようです」
「そ、そうなのか?」


ウサンから雛が意識不明の重体だと聞かされていた茂と瞬は治癒魔導士の言葉に驚き、雛の方を見ると彼女は特に何事もないのか呑気に欠伸を行い、身体を伸ばす。


「う~ん……よく寝たぁっ」
「う、卯月さん……本当に大丈夫なのか?」
「あ、うん。全然平気だよ?身体も痛くないし、どこもおかしくないよ」
「何だよ、驚かせやがって……ていうか、本当に霧崎の奴に襲われたのか?」


瞬と茂はウサンからレアが雛を襲ったという話を聞いていたが、当の雛本人は不思議そうに首を傾げる。


「え?霧崎君?霧崎君がどうかしたの?」
「いや、俺達はお前が霧崎に襲われて倒れたと聞いてきたんだが……」
「え~!?そうなの?でも、私を襲った人は霧崎君じゃなかったと思うけど……」
「犯人の顔を見たのか!?」
「ううん、フードで姿を隠していたから顔は分からなかったけど、声は女の人だったと思うよ?その人に突き飛ばされて、壁に頭をぶつけてから気絶しちゃったと思うけど……霧崎君がどうかしたの?」
「女……!?それは本当ですか?」


雛の言葉を聞いて治癒魔導士は動揺した表情を浮かべ、茂と瞬も雛を襲った犯人がレアではない事を知って驚愕する。ウサンの話では雛を襲ったのはレアだと聞いていたが、襲われた雛本人が否定するので混乱してしまう。


「おい、どう言う事だよ?霧崎が犯人だから城から抜け出したんじゃないのか?」
「分からない……本当に霧崎君は卯月さんを襲っていないのか?」
「だから違うってば!!あ、でも……霧崎君が話しかけてきたような気がする。よく覚えてはいないけど、霧崎君が私を助けてくれたような気がするけど……」


自分の胸元に手を押し当てながら雛は侵入者に襲われた直後、レアが訪れて自分に何かをして助けてくれたという事を思い出した雛は笑顔を浮かべ、そんな彼女の反応に茂と瞬は戸惑う。だが、一番混乱していたのは治癒魔導士の「センリ」だった。


(ヒナ様を襲ったのはキリサキ様ではない?では、どうして大臣はキリサキ様を処刑しようと……まさか、今回の件を利用してキリサキ様の命を狙った?)


センリはウサンからレアが雛を襲ったと話しを聞いていたが、実際に襲われた雛の話を聞いてそれが謝りであると気付き、それならばどうしてウサンはレアが雛を襲ったと断言したのか気にかかる。


(もしもウサン大臣がキリサキ様の存在を疎み、今回の件を利用して処刑しようと考えていたのならば……これは大事になります。すぐに皇帝陛下にも連絡しなければなりません)


ウサンが雛の話を聞いてレアが犯人ではないと知れば恐らくは証言を撤回し、彼を殺そうとした事実を隠蔽するだろう。だが、センリはウサンが手を打つ前に皇帝に報告を行うために手紙を記し、内密に会談へ向かった皇帝の元に手紙を送る事にした――
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