上 下
31 / 261
王都編

第31話 学園長との対談

しおりを挟む
「あの……どうしてバルルさんもここに来たんですか?」
「なんだい、あたしが一緒だと迷惑なのかい?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「冗談だよ、実はここの学園長とは昔から顔見知りでね。ちょいと会いに来ただけさ」
「……そうなのですか?」


バルルは従業員に宿を任せて何故かマオ達と共に魔法学園に赴き、自分が通っていた頃と比べて殆ど変わっていない景色に懐かしく思う。


「ここは相変わらずだね……何も変わっていない、懐かしく思うよ」
「バルルさん……」
「まあ、あたしは碌な思い出がなかったけどね。さあ、とっとと行くよ」
「ええっ……」


感慨深そうな表情を浮かべていた割にはバルルはあっさりと気分を切り替え、学園長がいるはずの校舎へと向かう。途中でマオは学園の生徒と何人かすれ違い、生徒達は物珍しそうにマオ達を見つめる。


「何だあれ?誰だ?」
「あれって3年生のリンダさんだろ?」
「あっちの男の子は見た事ないな……新しく入る生徒か?」


生徒達はリンダの事を知っているため、彼女が連れてきたマオとバルルを見て不思議に思う。マオはともかく、バルルはどうみても魔法学園の関係者には見えないので疑問を抱く。


「あっちのおばさんは母親か?」
「誰がおばさんだい!!ぶっ殺すぞガキ共!!」
『ひいいっ!?』
「お、落ち着いて!!」
「生徒に手を出さないでください!!」


バルルは自分をおばさん扱いしてきた子供達に殴りつけようとしたが、慌ててマオとリンダが止める。生徒達はバルルの気迫に散り散りになって逃げだしてしまい、それを見たバルルは鼻を鳴らす――





――校舎に辿り着いたマオ達は学園長室までリンダに案内してもらい、彼女は扉の前に立つとノックを行おうとした。しかし、それを制してバルルが勝手に扉を開く。


「邪魔するよ!!あんたの所の生徒はどういう教育をしてんだい!!」
「ちょっ!?」
「勝手に入るのは失礼ですよ!!」


文句を口にしながらバルルは部屋の中の相手の了承も待たずに入り込むと、慌ててマオとリンダも続く。この時にマオは部屋に入った途端、驚愕の表情を浮かべた。

部屋の中は美術品が並べられており、壁際には多数の絵が並べられ、高価そうな壺の置物が置かれていた。一番目を引いたのは部屋の奥に飾られた人物画であり、リンダよりも年上で美しいエルフの女性の絵が描かれていた。


(この絵の人が学園長なのかな……?)


マオは絵の女性を見て魔法学園の学園長が描かれているのかと思ったが、その肝心の学園長の姿が部屋の中に見当たらない。最初はマオも留守かと思ったが、他の二人の様子がおかしい事に気付く。


「あれ、誰もいない……留守ですかね?」
「……いや」
「学園長はここにいます」
「えっ?」


バルルは目つきを鋭くさせ、リンダは目を閉じた状態で立ち尽くす。そんな二人の反応にマオは不思議に思って周囲を注意深く見渡すと、ある場所に違和感を抱く。


(あれ?何だろう……あそこだけ変な感じがする)


部屋の風景の一部分が妙に歪んでいる箇所があり、疑問を抱いたマオは注意深く歪みを観察すると、唐突に部屋の中に強風が発生する。


「うわっ!?」
「くぅっ!?」
「……学園長、御戯れはそこまでにしておいてください」
「うふふ……」


マオが視界に捉えた空間の歪みから風が発生し、先ほどまでは存在しなかったはずの女性が唐突に現れる。その女性は部屋の奥に飾られている人物画と瓜二つの容姿をしており、リンダの言葉からマオは女性の正体が学園長だと知った。

どうやらマリアは最初から部屋の中で姿を消して隠れていたらしく、彼女がどんな魔法を使ったのマオには見当もつかなかった。しかし、バルルとリンダは部屋の中に入った時から既にマリアの存在を勘付いていたらしく、バルルは腕を組んでマリアと向き合う。


「相変わらず派手好きだね、
「バルル、久しぶりね。こうして顔を合わせるのは何年ぶりかしら?」
「え?え?」


バルルがマリアの事を先生と呼んだことにマオは戸惑い、その様子を見てマリアは彼が例の噂の少年だと気付いて改めて自己紹介を行う。


「私とした事が自己紹介がまだだったわね。私の名前はマリア・フォン、この学園の学園長を務めているわ」
「は、初めまして……マオと申します」
「先生が学園長か……世も末だね」


優し気な笑顔を浮かべながらマリアはマオと握手を行い、マオはリンダ以上の美人な女性に頬を赤く染める。ここまでの美人は生まれて初めて見たかもしれず、手汗をかいていないかと緊張してしまう。

マリアはバルルと昔から知り合いらしく、二人の口ぶりからマリアが学園長を務める前、まだ教員時代の頃にバルルは学園に通っていたらしい。二人とも久しぶりに顔を合わせたらしく、マリアはバルルにも握手を求める。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ぼくの淫魔ちゃん

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

ホロボロイド

SF / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:0

政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1,904

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:107

道ならぬ恋を

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:205

紅雨 サイドストーリー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:17

転移は猟銃と共に〜狩りガールの異世界散歩

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,008

即オチしても恋はしない

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:598

処理中です...