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魔法学園編

第77話 氷弾

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――時は数秒前に遡り、ヤンの元にオークが迫ったのを見たミイナが咄嗟にマオに声をかけた。


「マオ、さっきの!!」
「えっ!?」
「早くして!!」


ミイナに言われてマオははっとした表情を浮かべ、ヤンの頭がオークに踏み潰される前に彼は小杖を構える。そしてオークに狙いを定めた上でもう一度魔法を発動させようとした。

最初にマオは数センチほどの氷塊を作り出し、そこに回転を加える。ここでどうして大きな氷塊を作り出さなかったのかと言うと、時間的に大きな氷塊を作り出す暇がなかった事、そしてという理由があった。

大きな氷塊よりも小さな氷塊の方が魔力消費量が少なく、単純に操作しやすい。そのためにマオは敢えて小型の氷塊を作り出し、そこから回転を加えて射線上に障害物がないのかを確認する。


(さっきの魔法だと、途中で軌道を曲げる事は多分できない……絶対に外せない!!)


先ほど撃ち込んだ氷塊は回転を加えたせいなのか今まで以上の速度と威力が上がり、オークの頭部を貫通するどころか後方に存在した樹まで貫いてしまった。だからこそ一度撃てばマオでも制御はできず、これまでのように軌道を変更させて攻撃を行う事はできない。


(間に合えっ!!)


魔法の準備をしている間にもオークはヤンの頭を踏み潰そうと足を振りかざしており、足が完全に振り下ろされる前にマオは魔法を放たなければならなかった。狙いを定めた彼は小杖を突き出して魔法を放とうとした。


「喰らえっ!!」
「うわっ!?」
「プギィッ――!?」


マオが撃ち込んだ氷塊は高速回転が加わり、オークの元に向かおうとしていたバルルを横切ってオークの頭部に向かう。マオの声に反応したオークは彼に振り向こうとした瞬間、眉間の部分に氷塊が衝突した。

高速回転した氷塊の弾丸はオークの眉間に的中し、そのまま頭を貫通して後ろに存在する樹にめり込む。やがて魔法の効果が切れたのか氷塊は消え去り、頭部を貫かれたオークは後ろ向きに倒れ込む。


「い、いったい何が……!?」
「はあっ、はあっ……」
「ふうっ……危なかった」


バルルは目の前で起きた出来事を見て驚き、一方でマオは汗を流しながらへたり込む。マオに指示を出したミイナも額に浮かんだ汗を拭い、一方で倒れたヤンの元に先ほど殴り飛ばされたトムが腹部を抑えながらも駆けつける。


「ヤン……無事か!?」
「う、ううっ……」
「良かった、生きている……」
「大丈夫かい?」


ヤンが生きている事を確認するとトムは安堵するが、そんな二人の元にバルルは近寄り、怪我の具合を確認する。ヤンは頭から血を流して気絶しているが怪我自体はそれほどひどくはなく、むしろ最初に攻撃を受けたトムの方が重傷だった。怪我の具合を確認したバルルは眉をしかめてトムに尋ねる。


「こいつは酷いね……あんた、回復薬《ポーション》は持ってるのかい?」
「あ、ああ……だが、1本しか持っていない」
「こんな時にけちけちするんじゃないよ。このままだと死んじまうよ」
「回復薬……?」


バルル達の会話を聞いていたマオは「回復薬」という単語に聞き覚えがあり、前にマオはバルルから「魔力回復薬《マナポーション》」と呼ばれる薬を貰った。しかし、今回バルルがトムから取り上げたのは緑色の液体が入った瓶だった。

魔力回復薬は青色の液体であり、これを飲めば急速的に魔力が回復する。一方で今回取り出されたのは緑色の液体であり、バルルはトムの服を引きちぎって怪我をした箇所に振りかける。


「痛いよ、我慢しな」
「ふぐぅっ……!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
「いいから見てな……ほら、もう治った」
「えっ!?」


傷口に回復薬を注いだ瞬間、血が洗い流されるのと同時に傷口が塞がり始め、やがて最初から怪我などしていなかったように元に戻る。最初の方は痛がっていた表情を浮かべていたトムも、傷口が完全に塞ぐと痛みも引いたのか表情が緩む。


「ふうっ……すまない、助かった」
「たくっ、油断し過ぎだよ。次はヤンだね」


バルルは残った回復薬を今度は倒れているヤンの傷口に注ぎ、その後に彼の口元にも回復薬を飲ませる。すると先ほどまで苦痛の表情を浮かべて気絶していたいたヤンも顔色が良くなり、意識を取り戻した。


「うぐっ……ぷはぁっ!?こ、ここは!?」
「ほら、やっと起きたね」
「ヤン、無事か?」
「あ、ああ……そうか、回復薬を使ったのか」


目を覚ましたヤンは自分がバルルに抱きかかえられている事に驚いたが、彼女が手にした回復薬の瓶を見て納得したように頷く。瞬く間に二人の怪我を治した回復薬を見てマオは戸惑いながらもバルルに尋ねる。


「師匠、それは……?」
「ん?ああ、こいつは回復薬さ。あんたは見るのは初めてだったかい?」
「えっと……噂だけは聞いた事があります」


回復薬の存在に関してはマオも実物を見るのは初めてだったが、村で暮らしていた時に大人から回復薬の存在を聞かされた事がある。回復薬は人間の自然治癒力を高める効果があり、それを使えば普通ならば死ぬような大怪我でもすぐに治す事ができると聞いた事があった。

しかし、回復薬を作り出すには特別な薬草と特殊な器材が必要のために高級品として取り扱われ、田舎には出回る事はない。魔力回復薬と同様に回復薬も高値で取り扱われており、銀級冒険者であるトム達でさえも回復薬を1本しか持ち歩いていないほどである。




※今回だけ1話多めに投稿します
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