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魔法学園編

第79話 自分だけの力で……

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「いいかい、この森を一人で抜けれるぐらいの強さがなければ試験なんて合格できないと思え。でも、逆に言えばこの森を抜けられればあんたは試練を突破できる力を持っている事を証明される……多分」
「多分!?」
「と、ともかく……あんたは自分だけの力でこの森を抜け出しな!!あたし達は先に帰ってあんたを待っている。言っておくけどこっそり後を付けようとしても無駄だからね、ちゃんとここで待ってるんだよ!!」
「師匠……」


バルルは一方的に告げると本当に他の者たちを連れて立ち去り、そこからマオは自分の目の前で浮かぶ火球を見て困る。火球はしばらくの間は燃え続け、マオは魔物がいつ出るかも分からない状況で一人で待ち続けた――





――そしてしばらく時間が経過すると、マオの傍で燃え続けていた火球が徐々に小さくなってやがて完全に消えてしまう。火球が遂に燃え尽きた事を確認すると、マオは緊張しながらも立ち上がって周囲を見渡す。


「目印は……これか」


待っている間は魔物に見つからないように隠れていたマオだったが、遂に火球が消えた事でここから先は一人で行動しなければならず、とりあえずはバルルが残してくれた目印を探す。

目印は森中に生えている木に矢印が刻まれ、それを頼りに進んでいけば森の中で迷う事はない。但し、目印を見落とすと間違いなく迷子になってしまうため、注意深く観察しながらマオは森の中を歩く。


(絶対に見落とさないようにしないと……)


魔物が巣食う森の中がどれほど危険なのかはマオもよく知っており、今回はリオンのように自分を助けてくれる存在はいない。自分一人の力でマオは戦わなければならず、ここで彼は小杖を取り出す。


(準備だけはしておこう)


小杖を取り出したマオは無詠唱で魔法を発動させ、氷刃《ブレイド》を作り出す。いつでも魔物が現れた時に対処できるように彼は氷刃を自分の傍に浮揚させ、矢印を頼りに森の中を進む。

しばらく歩いているとマオは小川を発見し、そこで彼はバルルが最初に自分達が通った道とは別の方向で森の出口に向かっている事に気付く。最初にここへ来た時は小川など見かけず、しかも小川の傍には始めて見る魔物の姿が見かけられた。


「フゴッ、フゴッ……!!」
「っ……!?」


マオの視界に映し出されたのは馬鹿でかい巨大な猪であり、普通の猪よりも一回りは大きく、しかも牙の形が槍のように尖っていた。異様な形状の猪を見てマオは冷や汗を流し、口元を抑えながら近くに茂みに隠れた。


(何だあの馬鹿でかい猪……!?)


先ほど倒したオークよりも巨体の猪を見てマオは混乱し、どうするべきか考える。まだ猪の魔獣はマオには気づいておらず、小川の水を飲んでいる。攻撃を仕掛けるならば今が好機だが、不意打ちで倒せるとは限らない。

まだマオは見つかっていないので逃げるならば今だが、バルル達が残した矢印は小川の反対側に続いている。つまり、矢印を頼りに進むとなれば小川を通り抜けねばならず、その場合は小川で水を飲んでいる魔獣に見つかってしまう。


(戦うしかないのか……いや、落ち着け。別にここから無理に渡る必要はないんだ)


小川を通り抜けるのならば上流か下流から移動すればいいだけの話であり、わざわざ魔獣が水を飲んでいる場所を通り過ぎる必要などない。そう考えたマオはこっそりとその場を離れようとした時、不意に足元に落ちている小枝を踏んでしまう。


「フゴォッ!?」
「しまった!?」


小枝を踏んだ事で音を立ててしまい、その音に気付いた魔獣が振り返る。魔獣はマオを見た瞬間に鼻を鳴らし、何の躊躇もなくマオに目掛けて突っ込んできた。



――フゴォオオオッ!!



魔獣は一直線にマオに目掛けて突進すると、彼は慌てて自分の傍に浮かばせていた氷刃を放とうとした。しかし、迫りくる魔獣の迫力にマオは気圧され、咄嗟に横に飛んで避けてしまう。


「うわぁっ!?」
「フガァッ!!」


マオが避けると魔獣はそのまま勢いを止めずに彼の後方に存在した岩にぶつかると、この時に槍のように尖った牙が岩石にめり込み、その光景を見たマオは牙の鋭さと硬度に冷や汗を流す。

もしもマオが避けていなければ、彼の身体は魔獣の牙に貫かれて確実に死んでいた。その事を理解するとマオは汗を流し、一方で岩石に牙が食い込んだボアは必死にもがく。


「フゴォオオオッ!?」
「ぬ、抜けないのか?なら、今のうちに……!!」


自分から岩に突っ込んだせいで牙が岩石にめり込み、そのせいで抜け出せなくなった魔獣を見てマオは距離を取る。やがて魔獣は牙を抜く事を諦めたのか、逆に力を込めて岩石その物を破壊する。


「フガァッ!!」
「うわっ!?」


牙がめり込んだ状態で魔獣は力を込めて岩を押し込み、そのまま途轍もない怪力を発揮して岩を破壊する。その力はオークをも上回り、それを見たマオは逃げ切れないと判断して戦闘態勢に入った。
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