文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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プロローグ

大臣の凶行

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「それにしてもステータスが変更しても特に何も感じないな……筋肉がムキムキになるかと思ったのに」


能力値が変動してもレアの肉体に大きな変化は見られず、試しに彼は自分の持ち物の中から鉛筆を取り出す。普段から学生服の胸ポケットに挟んでいた物であり、他の荷物は転移する際に元の世界に置いてきたらしく、自分が身に着けていた物しか持ち込むことが出来なかった。


「能力値が750ぐらいだとどんな感じかな……ていっ」


試しに鉛筆を両手で挟み、力を込めた瞬間、鉛筆が容易く折れてしまう。それほど力を入れたわけでもないにも関わらず、まるでシャープペンの芯のように簡単に折れてしまい、レアは自分の力の向上に驚きを隠せない。


「おおっ……これが腕力750の力なのか。ならもっと上昇させると凄い事になるんじゃないかな?」


ステータス画面を開き、レアは文字変換の能力で今度はレベル以外の項目の数値に視線を向け、能力を発動させて上昇させる。


――霧崎レア――

職業:剣士

性別:男性

レベル:10

SP:10

――――――――

能力値

体力:1000

魔力:1000

腕力:1500

脚力:1500

魔法威力:1000

魔法耐性:1000

幸運値:1000


――――――――


「こんな感じかな……数値の上限が分からないけど、もしかして存在しないのかな?」


数値の変換を終えると、レアは拳を握りしめ、ボクサーのように突き出す。しかし、特に彼の目から見た限りでは特別に変わった様子は見られず、自分の身体能力が飛躍的に上昇したという感覚はない。


「本当に上昇したのかな……まあ、別にいいか」


自分の能力の秘密を明かせば他の勇者の足手まといにはならず、むしろ能力値を伸ばせる事が出来る能力だと知れば城の人間の対応も変わるだろう。先ほどは自分の事を馬鹿にした大臣の顔が思い出し、レアは自分の能力を彼が知ったらどのような反応を示すのか楽しみだった。


「そろそろ戻らないとな」


自分の能力の確認を終えたレアが訓練場に引き返すと、未だに他の人間達が訓練に励んでいる事に気付き、声を掛ける前にそれぞれの訓練の様子を窺う。現在は大地と龍太が木刀を握りしめながら向かい合い、美香と桃は先端に宝石のように光り輝く水晶を取り付けた杖を握りしめながらバルトに指導を受けていた。


「では、ここからは実戦に入るぞ!!ダイチ殿とリュウタ殿は組手、ミカ殿とモモ殿も一応は接近戦の対処法を教えよう!!」
「え~……戦うの?」
「荒っぽい事は苦手なんですけど……」
「そんな事を言っていたら魔物や悪党と戦えませんぞっ!!某がまずは見本を見せるから真似して欲しい」
「マジかよ……魔物なんて本当にいるのか」
「本当にゲームの世界に入り込んだみたいだな」


会話の内容から戦闘の指導が本格的に行われるらしく、レアは彼等に話しかけようとした時、背後に人の気配を感じとる。


「今だっ……!!」
「えっ……むぐぅっ!?」
「よし、運び出せっ!!」


後方から何者かがレアは身体を抑えつけ、口元を布で塞ぐ。彼は必死に抵抗しようとしたが複数人に抑えつけられたられているらしく、更に別の布で目隠しされる。最後に両腕を背中側に回した状態で掴まれ、身動きが出来ない。


「大臣、こいつをどうしますか?」
「ここで始末するのですか?」
「滅多なことを言うなっ!!異世界人を害した人間は呪われると伝えられているからな……儂の研究所に運び込め」
「むぐぐっ……!?」


目と口元を塞がれたレアは聞き覚えのある声に反応し、間違いなく自分を捕まえた人間の中に「ダマラン大臣」が含まれている事を知る。どうして彼が自分を捕まえようとするのか理解できず、レアは必死に他の人間に助けを求めようとするが、身体を縄で縛られたのか上手く動けない。


「ふんっ……無能には用は無い。貴様は儂の実験台になってもらうぞ」
「ふぐぅっ!?」
「おっと、下手に殴ったら死にかねないな。ちっ!!これだからステータスの低い人間は……」


服の裾を掴まれて強制的に立ち上げられたレアの顔に生暖かい息が吹きかけられ、視界は塞がれているが自分の目の前にダマランの顔がある事に彼は気付き、咄嗟に頭を動かして頭突きを食らわせる。


「ふんっ!!」
「ぐふぅっ!?」
「大臣!?」
「大丈夫ですかっ!?」


頭突きが見事に成長したらしく、先程の能力値の改竄で腕力が1500にまで上昇していたレアの一撃を受けた大臣が倒れこむ音が床に響き渡り、慌てて兵士達が抱き起す。


「くそ、こいつ大人しくしろ!!」
「意外と力が強いぞ!!気を付けろ!!」
「ぐぐぐっ……!!」


能力値を上昇させたといっても複数人の兵士を振り払う事は出来ず、レアは地面に抑えつけられてしまう。大臣は鼻血を噴き出しながらも怒りで青を紅潮させ、杖先でレアの背中を突き刺す。


「この餓鬼がっ!!」
「うぐぅっ!?」


杖の先端がレアの背中に減り込み、彼は苦痛の表情を浮かべるが、それでも満足できないのか大臣は何度も彼の背中を杖で叩きつけ、慌てて兵士達が彼を抑える。


「大臣!!落ち着いて下さい!!これ以上やるのは……」
「ふんっ!!この儂を傷つけようとするは……愚か者めっ!!」
「声を抑えて下さい!!他の勇者様に気付かれる恐れがありますから……」
「分かっておる。ちっ……異世界人とやらの身体を調べたかったが、こんな出来損ないでは興覚めだ。予定を早めてこいつを転移陣の間に運び出すぞ」
『はっ!!』


身体を拘束された状態でレアは無理矢理に歩かされ、目隠しと口封じされた状態で移動を行う。途中で階段を降りる時は流石に他の人間に運ばれ、助けを求めること出来ず、途中で何度か驚いた兵士や使用人の声が聞こえたが、ダマランがその度に怒鳴りつけて立ち去らせる。


「くっくっくっ……助けを求めんのか?別に構わんぞ、お前のような役立たずを助けてくれる人間がここにいればいいがな……」
「ぐぅうっ……」
「大臣……幾ら何でもそれは」
「やかましい!!貴様らは儂の言う事を聞いていれば良いっ!!」


あまりの大臣の言葉にレアを拘束する兵士さえも不快感を抱くが、彼等は大臣の言葉に黙り込む。どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと文句を告げる事も出来ず、レアは何とか抜け出す方法が無いのかを考える。


(身体は動かせないけど、薄目なら開く事が出来る……ステータス)


目隠しされた状態でもわずかに瞼は開く事は可能であり、視界が塞がれている事に変わりはないが「ステータス画面」を表示を行う。幸いにも視界に極小のステータス画面が開かれ、レアは画面の項目に存在する「SP」に視線を向けた。


(よしっ!!指は動かせないから文字変換は使えないけど……SPを使う事が出来れば……!!)


彼はバルトからステータス画面内の「SP」を消費すれば新しい能力スキルを覚えられる事を教わっており、SPを消費してスキルを覚える事を念じる。


「おい、立ち止まるなっ!!早く動けっ!!」
「ば、馬鹿者っ!!あまり無理に動かすと本当に死んでしまうかもしれん!!」
「も、申し訳ありません!!」


相手側がレアが貧弱なステータスだと思い込んでいるのが幸いし、力尽くで連行しようとした兵士をダマランが慌てて引き留める。こちらの世界では「異世界人」というのは特別な存在であり、レアが勇者でなかったとしても異世界人である事に間違いなく、下手に始末する事は出来ない理由があった。

本来のダマランの性格ならば役に立たない人間など追放、もしくは処刑するべきだと考えているが、異世界人を殺害してはならないという伝承が残っていた。実際に歴史上でも異世界人に害を与えた人間の殆どは非業の死を迎えており、実際に歴代の皇帝の中には召喚した勇者を疎ましく思い、無実の罪で処刑を試みようとしたが、処刑の前日に皇帝が心臓発作で死亡した記録も残っている。

この事から帝国の古文書には異世界人は丁重に扱うように記されており、どうしても排除しなければならない状況に陥った場合、直接的に殺害するのは非常に不味く、元の世界に送り返すように注意書きが施されていた。しかし、元の世界に帰す前にこちらの記憶を抹消する必要があり、帝国側としてはこちらの世界の情報を勇者達の世界に知られるのは色々と不都合があるため、送り返す場合は記憶を操作する魔法や薬を仕込む必要がある。


「いいか、傷つけるだけなら構わんが決してその男を死なせるなっ!!」
「わ、分かりました!!」
「ぐぅっ……!?」


兵士達はレアの両腕を掴んだ状態で引きずるように移動させ、彼は必死に抵抗を試みるが身体を拘束された状態では上手く反抗も出来ず、彼は必死にスキルの習得を願う。


(くそっ……頼む!!)


レアの願いが通じたのか、彼の視界に「未収得スキル一覧」という新しい画面が表示され、SPを消費する事で覚えられるスキルが表示された。
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