文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ

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廃墟編

架空の存在

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「火球!!」
『ガアッ……!?』


魔法名を口にした瞬間、レアの周囲の複数の火球が誕生する。そのまま彼はワイバーンに向けて次々と火球を放ち、小規模の爆発を引き起こす。単発では怯ませる程度の効果しか与えられないが、連続して撃ち込む事で反撃の暇も与えず、ワイバーンは苦痛の声を上げる。それを確認しながらレアは日本刀に視線を向け、解析の能力を発動させた。


『日本刀――名刀 状態:頑丈』
「頼む……!!成功しろっ!!」


日本刀をレアは詳細画面に指を向け、一か八かの賭けに出る。彼の能力はこちらの世界や地球の道具や武器を作り出す事は証明されているが、現実には存在しない架空の武器を作り出せるのかを試す。


『フォトンカノン――竜殺しの英雄の主人公が扱う対竜兵器 状態:使用可能』
「頼む!!上手く行ってくれっ!!」


文字を撃ち込んだ瞬間、日本刀が光り輝き、やがてレアの手元に本来は存在しないはずの「架空の兵器」が誕生する。漫画の主人公が唯一使用できる「兵器」であり、あくまでも漫画の設定では「龍」と呼ばれる生物を殺すために作り出された銃型の兵器が誕生した。


「おっしゃあ!!」


自分の手元に誕生した銃というよりは大砲を想像させる形状の武器を握りしめ、レアはワイバーンに向けて構える。


「くたばれっ!!この化物!!」
『シャアッ!?』


レアは作り出した「フォトンカノン」の銃口を構え、引き金に指を掛ける。しかし、指を引いても銃口から弾丸が発射する様子はなく、何も反応は示さない。


「あ、あれ!?どうして……あっ!?」


フォトンカノンが反応しない事にレアは戸惑うが、即座に彼は「竜殺しの英雄」の知識を思い出し、このフォトンカノンは漫画の「主人公だけ」が扱える武器だと思い出す。レアの知識通りに作り出されたフォトンカノンは彼では扱う事が出来ず、このままではただの金属の塊でしかなかった。


「くそっ!!それなら……」
『ガアアッ!!』


解析の能力を発動させてレアはフォトンカノンの詳細画面を改竄しようとしたが、牙竜は尻尾を振りかざし、レアの身体を振り払う。


「ぐあぁっ!?」


咄嗟にフォトンカノンを盾代わりに受けたが、それでも巨体から繰り出される攻撃にレアは堪えきれずに吹き飛ばされる。ボールのリバウンドのように地面に身体を何度も叩きつけられ、やがて派手な砂煙を上げなから停止する。


「ぐぅうっ……い、生きてる……?」


だが、予想に反してレアの肉体は軽い擦り傷程度の怪我しかなく、能力値が高かったお陰かそれほどの損傷は受けなかった。だが、盾として防いだフォトンカノンは無事では済まず、銃口が歪んでしまう。


「くそっ、折角作ったのに……」
『シャアアアッッ!!』


レアが生きてると知った牙竜が駆け出し、確実に止めを刺すつもりなのか牙を剥き出しにしながら接近する。その姿を見たレアはフォトンカノンに視線を向け、使えない武器ならば差し出す事にした。


「これでも食ってろ!!」
『アガァッ!?』


ワイバーンの大口にレアはフォトンカノンを突き刺した瞬間、ワイバーンは苦しみ悶えながら倒れこむ。その際に巨体に巻き込まれてレアの身体も吹き飛ばされるが、直撃は免れたので身体の衝撃は小さい。


「くそっ……目が……!?」


しかし、倒れた際に頭を切ったのか右目に血液が流れ込み、残された左目も視力が定まらない。視界にワイバーンを捉える事が出来れば解析の能力で相手のレベルを下げて弱体化もできるのだが、この状態ではそれすらも難しく、レアは残された武器に視線を向ける。


「もう、これしか……!!」


腰のホルスターからレアは拳銃を取り出し、弾倉から弾丸を零れ落ちる。先の衝撃で拳銃の銃口も曲がっており、このままでは使い物にならない。それでも地面に落ちた弾丸を拾い上げ、レアは薄らぐ意識の中で解析の能力を発動させた。


『アガガッ……!?』


ワイバーンは口元に捻じ込まれたフォトンカノンを必死に引き抜こうと暴れており、レアの行動に気付いていない。その好機を逃さずに彼は弾丸の詳細画面を表示させ、震える指を構える。


「……助けて」


詳細画面に全ての文字を打ち込んだ途端、レアは地面に倒れ込み、弾丸が彼の目の前に転がり込む。文字変換の能力が成功した事を祈り、彼はそのまま瞼を閉じた――






――レアが意識を失った直後、ワイバーンは自分の口元に挟まったフォトンカノンを引き抜き、やっと自由になった口元から咆哮を放つ。


『シャギャアアアアッ!!』


怒りの咆哮が草原一体に広がり、ワイバーンは自分を追い詰めた人間を踏みつぶすために振り返った瞬間、先ほどまで虚空に指を伸ばしていた人間の姿が消えている事に気付く。


『アガァッ……!?』


慌てて周囲を見渡すが、先程まで自分の傍に居たはずの人間の姿が見えず、ワイバーンは混乱する。しかし、後方から物音が聞こえ、直後に自分の尻尾に激痛が走る。


『ギャアアアアッ!?』


ワイバーンは首だけを振り返ると自分の尻尾が空中に吹き飛ぶ光景が視界に移り、刃物で切り裂かれたというよりは高熱で溶かされたような尻尾の断面図を見てワイバーンは悲鳴を上げる。何時の間にか自分が攻撃されていた事も驚きだが、誰が自分を攻撃したのか理解できなかった。


「……データ照合無し、新種の下位の龍と断定」
『ッ……!?』


ワイバーンの後方から聞きなれぬ人間の少女の声が響き渡り、ゆっくりと首を動かすと空中に浮揚する銀髪の髪の毛が特徴的な少女が存在した。その姿を目撃したワイバーンは言いようのない恐怖を抱き、この目の前の生物は自分を全く恐れていないことを感じ取る。



――少女の容姿は銀髪の髪の毛を腰元にまで伸ばし、人形のように整った顔立ち、全体的に凹凸が激しい肉体をしており、全身はウエットスーツを想像させる服を身に着けていた。背中の部分には機械で構成された翼を身に着けており、腰元にはスカートを想像させる装甲を装着しており、胸元の部分には「十字架」を想像させる装飾品を取り付け、両腕には剣の紋様が刻まれていた。



「これより、殲滅を開始します」
『シャアッ……!?』


人間の言葉はワイバーンは理解できないが、少女の動作から攻撃態勢に入ったと判断し、ワイバーンは咄嗟に逃げ出そうとした。しかし、少女はその行動を読んでいたかのように両腕を振り上げ、次の瞬間に腕の紋様が光り輝き、少女の両腕に「光の刃」が誕生する。



「フォトンブレイド」



少女が腕を振り上げ、ワイバーンの首筋まで移動すると、両腕を振り翳して光の刃を解き放つ。その直後、光の刃を貫通したワイバーンの首筋に赤色の筋が浮かび上がり、徐々に首が切り離された


『アァアアアッ……!?』


自分の首と胴体が分かれる感覚にワイバーンは断末魔の悲鳴を上げ、ゆっくりと地面に倒れこむ。しかし、その姿を見ても少女は攻撃を辞めず、腕の光刃を消失させると両腕を構える。


「対象の生体反応が低下……しかし、再生の恐れがあり、焼却作業を開始します。ブルーバーナー」


言葉を呟きながらも少女は掌を構えると、腕に刻まれていた剣の紋様が変化し、やがて「炎」の形状へと変化を果たす。次の瞬間、少女の掌から青色の炎が迸り、まるで火炎放射のようにワイバーンの肉体を焼き尽くす。その火力はレアの「火球」の比ではなく、炎に対して耐性を持つワイバーンの肉体を飲み込む


「生体反応の消失を確認。対象の殲滅に成功、これより通常モードに移行します」


完全にワイバーンが動かなくなったことを確認すると、少女は攻撃を中止して地上に着地する。そして倒れているレアに視線を向ける。彼女はゆっくりと歩み寄り、彼の身体を抱き上げ、様子を伺う。


「良かった。まだ生きてる……だけど、怪我酷い」


先程までと雰囲気が一変し、少女は心配そうな表情を浮かべてレアを抱き上げ、そして離れた場所に気絶しているイリスにも視線を向ける。


「一応は彼女も連れて行きましょう。この御方の友人かも知れません……その前にこの新種の「龍」の処分を行わなければ」


少女はレアの身体を抱えながらワイバーンに接近し、肉体に突き刺さっていた手裏剣型の装飾品を回収する。手裏剣に付着したワイバーンに血液を確認すると、少女は疑問を抱いたように眉を顰める。


「魔素反応……ゼロ?この生物は……龍ではない!?そんな馬鹿な……!!」


不思議そうな表情を浮かべて少女はワイバーンの死骸に手を差し伸べ、自分が知っている「龍」とは異なる生物だと判明し、彼女は戸惑う。


「龍であるならば必ず魔素を体内に秘めているはず、これでは只の大きな蜥蜴ではないですか。一体どういう事ですか?」
「うっ……」
「……そんな事よりもこの方達の治療が先ですね。ですが、ここは一体……私は確かに王都に居たはずですが……?」


レアとイリスを抱えあげ、少女は草原を見渡して首を傾げる。彼女はどうして自分がここにいるのかが分からず、気付いた時には彼女はここで「龍」と酷似した生物に襲われるレアの姿を発見し、彼を救い出すために戦闘モードに移行した。


「この方達なら何か事情を知っているかも知れません。それにしても……この御方は何者でしょうか?どういう事か、他人には思えません」


少女は自分の抱えているレアに視線を向け、何故か彼女は彼に対して強い親近感を覚えた。傍に居るだけで不思議な安心感が彼女を見たし、無意識に笑顔を浮かべながら少女はレアを見つめる。




――この少女の正体は「龍殺しの英雄」の登場人物の1人であり、神人と呼ばれる特殊な人類であり、本来は物語の主人公と最初に出会うキャラクターである事を知る人間は、この世界ではレアしか存在しない。




※一先ずはここで連続投稿は終わります。ここから先は旧作にはない新展開になるため、次回からは申し訳ありませんが不定期投稿となり、1話の文字数も2000文字程度になります。
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