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第27話 付与魔法

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「……それがお前の魔法かい?」
「そう、みたいです」


レノが指先で摘まんでいたミスリルの刃が光り輝き、魔法書に記されていた通りに魔力を物体に宿す「付与魔法」の効果が発揮されていた。ミスリルの短剣にレノの魔力が宿り、それを見たアルは光の色合いを見てあることに気が付く。


「こいつは聖属性の魔力が宿ってるね」
「え?そうなんですか?」
「聖属性の魔光は白だからな、ちなみに風属性の場合は緑だ。ちゃんと覚えとくんだよ」
「はあ……」


白く輝くミスリルの刃を見てアルは聖属性の魔力が宿ったことを確信し、彼女の話を聞いてレノは短剣を間近で観察する。だが、唐突に光が消えてしまう。


「あれ!?消えちゃった……」
「魔法の効果が切れただけだろ。今の所は10秒が限界のようだね」
「た、たった10秒!?」
「もっと練習すれば時間も伸ばせるようになるさ」


付与魔法の効果は今の所は10秒が限界らしく、アルの見立てでは魔法の練習を行えば持続時間も伸ばせるかもしれない。それに今の時点では付与魔法にどんな効果があるのか分からず、魔法を発動させても刃が光っていたようにしか見えない。

アルの話を聞いてレノは聖属性の魔力を物体に宿せるようになり、今の時点では効果時間は10秒程度で剣を光らせるだけの効果しか確認できていない。今後も色々と実験する必要があり、しばらくの間は魔法の練習に専念することにした――




――魔法を覚えてから数日後、レノは様々な物体を利用して実験した結果、付与魔法の効果が色々と判明した。


「付与魔法は生物には使えないのか」
「ケロケロッ……」


川原で捕まえたカエルに試しにレノは付与魔法を施そうとしたが、結果から言えば失敗に終わった。付与魔法を発動させようとしてもカエルには魔力を送り込むことができず、可哀想なのでカエルは逃がしてやることにした。


「液体にも付与魔法は使えない」


川の中に手を突っ込んで魔法を発動しようとしても上手くいかず、水などの形が安定しない流動物にも付与魔法は通じない。但し、水を固めた氷などの物体には付与魔法は通じた。


「水は駄目だけど氷には付与魔法は使える……ということは固形物だけ付与魔法は効果を発揮するのか」


付与魔法が効果を発揮するのは形ある物だけだと判明し、生物以外の固形物ならば効果が発揮することが判明した。(ちなみに植物の類も付与魔法は効果を発揮しない)。


「魔力を付与させる物体が大きいほど魔力の消費量も増えるみたいだな」


大きさの違う石を並べて試しに付与魔法を施した結果、形は関係なく面積が大きい石の方が魔力の消費量が大きい。そのため岩などの大きな物体に付与魔法を施すと相当な魔力を消費してしまう。

これまでの実験で分かったことは「生物には付与魔法は通じない」「固形物にしか効果を発揮しない」「物体の大きさによって魔力の消費量が変化する」の三つで有り、ここから先は付与魔法がどのような効果を生み出すのか確かめる。


「今の所は光輝かせるだけだからな。こんなの暗い場所で灯りが欲しい時にしか役立たないし……」


アルから許可を得てレノはミスリルの短剣を貸して貰い、試しに付与魔法を施して刃を輝かせた。こちらも実験で分かった事だが、魔法金属製の武器は付与魔法の効果を早く発揮することが判明した。


(やっぱり、魔法金属は魔法の伝達力が高いな……他の物だとこんなに早く輝くことはないのに)


普通の石に付与魔法を施した場合、光り輝くまである程度の間が存在した。しかし、魔法金属のミスリルで構成された短剣の場合は付与魔法を施すと一瞬で効果を発揮した。これによってレノは魔法金属は魔法の伝達力が高いと判断する。


(もしかしたら魔法の効果と相性が良いから魔法金属なんて呼ばれているのかも)


魔法金属の名前の由来が分かったような気がしたレノはミスリルの短剣を構え、試しに岩の上に乗せた石に目掛けて振り下ろす。


「はあっ!!」


石にミスリルの刃が衝突した瞬間、レノの両手に衝撃が伝わって両腕が痺れてしまう。痺れに耐えながらレノは石に視線を向けてみるとほんのわずかな傷が入っているだけだった。


「いてててっ……駄目だ、別に強くなってるわけじゃい」


付与魔法を施したところでミスリルの刃の切れ味が鋭くなるわけでもなく、もしも普通の鉄製の短剣でやっていたら刃が欠けるか下手をしたら折れていた。現状では付与魔法を施しても白く光り輝くだけの効果しか確認されず、そのことにレノは深々と溜息を吐き出す。

ようやく魔法を覚えられたというのに判明している効果は魔力を宿した物体が光り輝くだけであり、アルにも協力してもらって苦労して覚えたというのにただ物を光らせるだけの魔法などあんまりだった。


(師匠の話だと聖属性の魔力は身体能力の強化や浄化の効果があるらしいけど……)


レノが普段から使用している強化術も聖属性の魔力を利用しており、聖属性以外の属性魔力は身体能力を強化できない。浄化の魔法に関してはレノは遭遇したことはないが、死霊《アンデッド》系の魔物を倒す際に利用される魔法らしい。


「師匠の話だと俺の魔法は死霊の敵には効果があるかもしれないけど、そもそも死霊なんて滅多に出くわさないしな……」


聖属性の魔力を宿した武器ならば死霊系の魔物には効果を発揮する可能性もあるが、この森には死霊系の魔物は存在しない。だから実際に戦って効果を確かめることもできないのでレノはため息を吐き出す。


「はあっ……今の所は戦闘で役に立ちそうにないな」


に関しては戦闘での使い道は思いつかず、今後は発動するのも控えることにした。だから改めてレノは新しい魔法の実験に取り掛かる。


「ならやっぱり頼れそうなのはこいつだな」


レノが川に赴いたのは魔法の実験を行うだけではなく、アルから魚を取ってくるように命じられたからである。いつもならば魚釣りの準備をしてから行くのだが、今日は弓矢と魚を治めるための壺しか持ち合わせていなかった。

少し前までのレノならば手掴みで魚を確保していたが、今回は弓矢を使って魚を捕まえることにした。普通の人間ならばいくら弓の腕前が上達したからといって川の中を泳ぐ魚を射ることはできないが、レノの場合はそれを可能にする新しい力が芽生えていた。


(師匠から受け取った新しい力……試してみるか)


先の魔法の儀式の際にレノはアルから魔力を託され、新しい力を手にしていた。エルフであるアルは人間と違って生まれた時から風属性の魔力を操る力を持ち、そんな彼女から送り込まれた魔力を受け入れた結果、レノは風属性の魔力を生み出せるようになった。



「――付与《エンチャント》」



弓に矢を番えた状態でレノは川に視線を向けると、右手で掴んだ矢に付与魔法を発動させる。この時に右手に再生術で完全に治ったはずの魔法陣の紋様が浮きあがって緑色の光が宿る。

儀式の際に刻まれた「魔術痕」は火傷を治療しても消えることはなく、魔法を発動する度に自動的に紋様が浮きあがる。しかも扱う魔力によって紋様の輝きが異なり、聖属性の場合は白く光り輝くが風属性の場合は緑色の光を帯びた――
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