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第45話 自分の夢

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「ウォンッ!!」
「うわっ!?何だよ急に……そんなに大きな声を出したら気付かれるだろ?」
「スンスンッ……」


レノの前に立ち塞がったウルは彼に鼻先を押し付け、こんな状況で自分に甘えているのかとレノは戸惑うが、ハルナはいち早くウルの行動の意図に気が付く。


「あれ、もしかしてだけど……ウルちゃん、臭いでゴブリンの後を追いかけられると言ってるんじゃないのかな?」
「え!?そんなことができるのか?」
「ウォンッ」


ハルナの言葉を聞いてレノはウルに確かめると、彼は地面を嗅ぎながらゴブリンの方へ振り返る。どうやら本当に臭いだけで後を付けられるらしく、それを聞いてレノは考え込む。


(このまま魔力感知に頼ってるとこっちが気を失いそうだ。それならウルに後を辿って貰った方が……)


ウルの嗅覚を信じてレノは彼に尾行を任せることにした。魔力感知をしなければ身体の負担も軽くなり、ここはウルを頼りにレノ達は後を追いかける――





――ゴブリンの追跡を開始してからしばらくすると、レノ達は廃村を発見した。少し前にレノが訪れた廃村とは違う場所であり、アルから貰った地図には載っていなかった。


「あそこは……」
「あ、あの村はまさか!?」
「知ってるのダイン君?」
「知ってるも何も最初に魔物に襲われた村だよ!!」


ダインによるとゴブリンが入り込んだ場所は最近に魔物に襲われて廃村になった場所らしく、魔物使いの噂が広がり始めたのもこの村を魔物が襲ったのが切っ掛けだという。

現在はこの村には人間は住んでおらず、生き残った村人も他所に移っているはずだった。そんな廃村にゴブリンが入ったのを確認すると、レノはここから先はより慎重に進むように注意する。


「二人とも物音には気を付けてね。ここから先は会話も控えよう」
「う、うん……」
「ハルナ……お前、鎧脱げよ。そんな格好でもしも転んだりしたらやばいだろ」
「だ、駄目だよ~この鎧は脱げないよ」


ハルナは重たそうな鎧を着こんでいるのでなにかにぶつかったり転んでもすれば大きな音を立ててしまう。だからダインはハルナに鎧を脱ぐように告げるが彼女はそれを嫌がる。


「もしも音を立てたりしたら僕達も危ない目に遭うかもしれないんだぞ!?」
「で、でも……鎧を脱いだら騎士を名乗れないよ~」
「騎士?」
「はあ……こいつ、女騎士に憧れてるんだよ」
「女……騎士?」


ハルナが頑なに鎧を装着しているのは理由があるらしく、彼女は「女騎士」に憧れていた。レノは女騎士と聞いて子供の頃に読んだ絵本を思い出す。


「女騎士……もしかして白銀の女騎士のこと?」
「そうそう、大昔に存在した女騎士だよ」
「レノ君も知ってるの!?私、あの絵本の騎士様に憧れて冒険者になったんだ~」


白銀の女騎士とはレノが読んだ絵本の題名であり、名前の通りに白銀の鎧をまとった女騎士の物語が描かれている。今から100年以上前に実在した史上初の女性の騎士であり、彼女の武勇は今でも語り継がれている。

大昔にレノ達が暮らす国はとある国と戦争していた。その際に一人の女性の兵士が活躍し、彼女は数々の武功を上げて騎士の位まで上り詰める。これまでの歴史で女性が騎士になったことはなかったため、彼女は史上初の女騎士ということになる。

女騎士は白銀の鎧を身に着けていたので戦場で最も注目を浴び、数多くの敵に狙われたがそれを返り討ちにしてきた。やがて戦争が終盤を迎えた際に女騎士は敵軍の総大将と同士討ちに遭い、結果的には女騎士は自分の命を犠牲にして戦争を勝利に導いた。

国のために自分の命を犠牲にしてまで勝利を得た女騎士は大勢の人間に崇められ、今尚も彼女に憧れを抱く女性は多い。ハルナも子供の頃に読んだ絵本の騎士のように格好いい女性になりたいということから鎧を着こんでいるらしい。


「私もいつか絵本の騎士様のように立派な女騎士になりたいんだ~」
「へえ……あれ?でも騎士になりたいのにどうして冒険者になったの?普通は兵士とか入隊するんじゃないの?」
「この国では女は騎士になれないんだよ。白銀の女騎士がいた時代は戦争のせいで人材不足だったから女子供も戦争に駆り出されたけど、平和な時代に女騎士なんていらないんだろ」


ダインの話を聞いてレノは納得し、今の時代では女性は騎士になることは有り得ない。それでも夢をあきらめきれないハルナは冒険者になって有名になれば女騎士のようになれるかもしれないと思って冒険者になったという。


「私も冒険者として活躍すれば有名になるでしょ?その時に騎士の格好をしていたらもしかしたら私も絵本の人のように「女騎士」と呼ばれるようになるかもしれないと思ってるんだ~」
「う、う~ん……そうだといいね」
「はあっ……こいつのことは放っておけよ。いくら無駄だと言っても諦めないんだから」
「諦めたりなんかしないよ!!夢を叶えるまで私は頑張るから!!」


絵本のような女騎士を志すハルナは興奮気味に自分の夢を語り、その話を聞いてレノは何だか羨ましく思った。彼女は自分の夢を叶えるために本気であり、強い決意を感じさせた。それに比べて自分には彼女のような夢はないことに気付く。


(夢か……そういえば俺の小さい頃の夢は何だったんだろう)


これまではレノは漠然と自分は狩人として生きていくのだと考えていた。アルから狩猟に必要な知識や技術は仕込まれており、それらの技術を生かせるのは狩人だけだと思い込んでいた。だが、ハルナの話を聞いてレノは本当に自分が狩人になりたいと思っているのか疑問を抱く。

別に狩人という職業が嫌なわけではなく、アルのような一流の狩人が常に傍に居たからこそレノは自分も狩人になると思い込んでいた。しかし、夢のためにひたすら頑張るハルナを見てレノは子供の頃になりたかった夢を考える。


(俺の夢はなんだっけ……父さんのような商人になること?それとも考古学者か?)


レノの父親は元考古学者であり、結婚してからは商人となった。もしかしたら両親が生きていればレノは家の後を継いで商人になっていたかもしれない。だが、魔物が両親を殺してから彼の運命は大きく変わった。


(俺がなりたいのはなんだろう)


いくら考えても自分の子供の頃になりたかった職業は思いつかず、もしかしたらハルナのように夢を抱いたこともなかったかもしれない。レノは自分が本当になりたい職業はなんなのか考えていると、ウルが鳴き声をあげる。


「ウォンッ!!」
「うわっ!?びっくりした……どうした?」
「クゥ~ンッ……」


ウルが廃村がある方向を示すと何時の間にかゴブリンの姿が消えており、どうやら廃村の中にゴブリンが入り込んだらしい。ウルの嗅覚ならば逃げたゴブリンの後を辿ることはできるが、村の中にはゴブリンを操る魔物使いが潜んでいる可能性も高い。

ここまでの道中はウルのお陰で安全に追跡が行えた。彼の鋭い嗅覚のお陰でゴブリンに気付かれずに後を追いかけてここまで辿り着いたが、レノは頭を抑えて魔力感知を試そうとした。だが、まだ完全には回復していないので頭痛に襲われる。


(まだちょっと頭が痛い……それに距離も遠すぎる。ここからだと魔力感知はできないか)


遠い距離にいる相手を探るほど精神に大きな負荷が掛かり、レノは今の状態では廃村に入らなければ魔力感知を試しても敵の位置は捉えられないと判断した。
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