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第46話 人を撃つ覚悟

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「俺はあの村に入ろうと思うけど……二人はどうする?」
「こ、ここまで来て引き返せるわけないだろ……」
「ど、どきどきしてきた……」
「クゥンッ……」


レノは廃村に入る覚悟を決めると他の二人も同行し、ウルの先行でレノ達は廃村に近付く。ゴブリンに見つからないことを祈りながらレノ達は村の出入口に辿り着く。


(よし、ここなら大丈夫だろ)


村の中に入る前にレノは魔力感知を発動させて廃村にいる生物の魔力を探る。その結果、レノは魔力をいくつか感知した。その中には先に入ったゴブリンの魔力も感知する。

レノ達が尾行していたゴブリンは村の中心に向かって移動しており、ゴブリンが向かう先には強い魔力を放つ存在がいくつかいた。並のゴブリンとは比べ物にならない強い魔力を放つ存在を三つほど感じ取り、その中で一つだけ不気味な色合いの光を放つ存在も感知した。


(なんだこの禍々しい魔力は……!?)


これまで様々な生物の魔力を感知したレノだったが、不気味な光を放つ魔力を感じ取ると冷や汗を流す。しかもこの魔力は魔物ではなく、人間だと思われた。


(こいつが魔物使いなのか!?)


不気味な魔力の正体が人間だと悟ったレノは目を見開き、全身から嫌な汗を噴き出す。ここまで気持ちが悪い魔力を感知したのは初めての出来事であり、レノは頭を抑えて膝をついた。


「はあっ、はあっ……」
「お、おい大丈夫か!?」
「ど、どうしたの?気分が悪いの?」
「クゥ~ンッ?」


急に膝を崩したレノに他の者達は心配するが、レノは頭を抑えながら廃村の中に人がいることを伝える。


「村の中に人がいる……多分、そいつが魔物使いだと思う」
「魔物使い!?まさか本当に居るのか!?」
「じゃ、じゃあ捕まえないと!!」
「待って!!」


魔物使いがいると聞いてダインとハルナは廃村に入ろうとするが、レノは二人を引き留めた。廃村にいると思われる魔物使いは今までレノが感じたことがないほどの不気味な魔力を持ち主であり、不用意に近づくべきではないと判断した。


(何だか分からないけど、嫌な予感がする……こういう時の予感は一度も外れたことがない)


狩人としてレノは日頃から狩猟の際は動物や魔物と命のやり取りをしてきた。そのせいか自分の身に危機が迫る度にレノの直感は冴えわたる。


(下手に踏み込めば大変なことになる。だけど、もしも魔物使いがこの中にいるとしたら見逃せない)


魔物を駆使して村を襲う魔物使いがいるとすれば放置はできない。もしも取り逃がせばこれからも村人が危険に晒される可能性があり、居場所が判明した今が捕まえる絶好の機会だとは理解している。

レノは魔物使いを捕まえるために立ち上がろうとするが、身体が思うように動かない。昔に両親が死んだ際に魔物《ゴブリン》に襲われた時の出来事を思い出し、魔物に追い詰められた際もレノは恐怖で身体が言うことを聞かなかった。あの時と同じように今のレノは恐怖を抱く。


(俺は怯えているのか……くそっ!!)


子供の頃と違う点は今のレノは恐怖に抗うだけの精神力を身に着けており、両頬を強く叩いて気合を入れ直す。震えが収まるとレノは二人に振り返った。


「行こう……俺達の手で魔物使いを捕まえよう」
「お、おう!!」
「う、うん……頑張ろう!!」
「ウォンッ!!」


全員が覚悟を固めるとレノ達は廃村の中へ踏み込み、ここから先はより慎重に進まなければならない。ウルが先を歩いてゴブリンの臭いを辿り、魔物使いがいる場所へ近づく。


(大丈夫だ。俺達の存在はまだ気づいていないはず……姿が見える距離まで近付けば先手を打てる)


レノの弓魔術ならば100メートル先の獲物も確実に仕留めることができる。敵が気付く前に自分の射程圏内に入ればレノは倒せる自信はあったが、どうしても嫌な予感が消えない。


(魔物使いの他に強い魔力を持つ奴等がいた。きっとあいつらは……)


魔物使いだと思われる禍々しい魔力の傍には他にも強力な魔力を持つ存在を三つ感知した。レノはこの三つの魔力の正体を察しており、恐らくはゴブリンの上位種のホブゴブリンではないかと考えていた。

ホブゴブリンとは過去に対決しており、前に戦った時は何度も殺されかけたが今のレノにとってはそれほどの脅威ではない。弓魔術を扱えれば確実に急所を撃ち抜いて仕留める自信はある。


(大丈夫だ。三匹だろうと今の俺なら倒せるはず……)


不安を打ち消すために自分に言い聞かせながらレノは弓を手にすると、先頭を歩いていたウルが立ち止まる。どうやら村の中心部にまで辿り着いたらしく、そこには異様な光景が広がっていた。


「二人とも隠れて……見えたよ」
「う、嘘だろおい……!?」
「ひ、ひええっ……」
「クゥンッ……」


レノ達は敵に見つからないように近くの建物の陰に身を隠すと、村の中心部に視線を向けた。そこにはゴブリンの倍以上の背丈と体格を誇るホブゴブリンが三体存在し、その中心には黒マントで全身を覆い隠した何者かが立っていた。そしてレノ達が追跡してきたゴブリンは黒マントの人物の前に跪く。


(やっぱりあいつが魔物使いか!!)


人間に従うゴブリンの姿を見てレノは黒マントの人物が魔物使いだと確信した。マントで全身を覆い隠しているので容姿は分からないが、位置さえ分かれば狙い撃てる。

弓を取り出したレノは打つ前に黒マントの人物の傍にいる三体のホブゴブリンに視線を向けた。どの個体も2メートルを超える身長と筋骨隆々の体型であり、森で対峙したホブゴブリンよりも迫力があった。


(俺が倒したホブゴブリンよりも強そうだな……けど、今の俺なら倒せるはずだ)


ホブゴブリンを見てもレノは怖気ず、むしろ今の自分ならば倒せるという自信はあった。昔よりも弓の腕前は格段に上達しており、なによりも弓魔術を覚えたレノの敵ではない。これだけの距離が離れていれば黒マントの人物を撃った後にホブゴブリン達が襲い掛かってきたとしても3匹とも仕留めることも不可能ではない。


(よし、やるぞ……!!)


レノは弓を構えると最初に黒マントの人物に狙いを定めた。マントのせいで容姿は見えないが、とりあえずは頭があると思われる位置に狙いを定める。しかし、ここで予想外の出来事が起きた。

弓を構えた状態でレノは身体が硬直し、何故か弓を撃つ準備はできたのに矢を握りしめる指が動かない。全身から嫌な汗が止まらず、レノは人を撃つことにためらう。


(何してるんだよ!?早く手を離さないと……)


既に魔法の準備も整い、後は矢を放つだけで黒マントの人物を確実に狙い撃てる。それなのにレノの身体は言うことを聞いてくれず、人を撃つことにレノは躊躇してしまう。

これまでにレノは動物や魔物を射たことはあるが、人を射たことは一度ない。自分の手で人を撃つことに躊躇してしまい、もしも当たりどころが悪ければ殺してしまう。いくら相手が犯罪者だとしても人の命を奪うことに躊躇するのは当たり前だった。


「お、おい……どうしたんだよ?撃たないのか?」
「だ、大丈夫?顔色が悪いよ?」
「はあっ、はあっ……」


弓を構えながらいつまでも撃とうとしないレノにダインとハルナは心配して声をかけるが、当のレノ本人は二人の声も聞こえていない様子だった。いくら離れているとはいえ、何もしなければいずれ敵に気付かれる恐れがあった。


(くそっ、指が動かない……ここまで来て躊躇するな!!)


敵を狙い撃つ絶好の機会なのにレノは矢を放つことができず、身体が震えて動けない。その間にも黒マントの人物は戻ってきたゴブリンに何やら話しかけていた。ここからだと距離が離れているので声は聞き取れないが、ゴブリンは黒マントの人物に手振り身振りで何か訴えている様子だった。
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