編み物魔女は、狼に恋する。〜編み物好きOLがスパダリ狼さんに夢と現実で食べられる話。

兎希メグ/megu

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六章 貴方と現実で抱き合う日

五話 語るは過去と、酌み交わすは酒と

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(私、沢山話そうとすると、何かおかしな事言っちゃう気がする……)
 言ったことは本心だし、後悔はないが、それにしたってと、自分で自分が恥ずかしくなる。
 真っ赤になった顔を押さえていると、店員さんがエビの沢山乗ったパエリアを持ってきた。
 炊き立ての米の匂いが香ばしく、目にも鮮やかな赤いエビがいかにも美味しそうだ。

 白銀が、大皿から取り分けてくれる。
「あ、ありがとうございます。すごく美味しそう」
 気まずさを誤魔化すよう、伊都は早速パエリアを食べる。
 あつあつのそれに火傷しそうになるが、サフラン色の焦げ目のついたパエリアの美味さに、食べるのが遅く小食な伊都には珍しく、忙しなくスプーンを動かす。

「魚介の味が染みてて、すごく美味しい……」
「ええ、流石は鵜飼シェフだ。素材の味を活かし切っている」
 彼も気に入ったのだろう、健啖家の本領を発揮して、盛りつけた皿はあっという間に空になる。
 だというのに。
 のんびりペースの伊都を待って、彼女の皿が空いてからお代わりをよそうその気配りの良さは、流石の一言だ。

「伊都さんも、お代わりしますか」
「あ、はい。もう少しだけ……」
「じゃあ、残りは私が片づけておきましょう」
 彼の皿には沢山の、伊都の皿には彼女のお腹に丁度の量が。
 白銀は常日頃からデザイナーとしていろいろな物にアンテナを張り巡らしているとは言うが、伊都の腹具合まで覚えているというのなら、恐ろしいばかりの彼氏ちからである。

(ああ、もう。これだから白銀さんには勝てないんだわ……)
 よそってもらったパエリアを食べながら、伊都はしみじみと思った。

 少量のパエリアをゆっくり味わって食べきると、彼も既に食べきっていて。あの量を、このスマートな身体にどうやって収めているのだろう考えて伊都は不思議になる。
 追加で注文した自家製サングリアを飲みながら、白銀は伊都を優しい目で見ていた。
「そうして、伊都さんが美味しそうに食べているのを見ると、何となくほっとします」
「いつも、食べるの遅くて済みません」
「いえ。伊都さんはいつも綺麗に残さず食べるでしょう。礼儀には適っているのですし、気にしないで下さい……と、話が逸れましたが」

 彼はサングリアを一口飲んでから、続きを言った。

「出会った時は、余りに細くて白くて、消えてしまいそうだったから……そうですね、貴女が元気そうでいるだけで、何だか嬉しく感じるんですよ」
「あの頃は、頑張って食べようとは思っていたんですけれど、なかなか思うようにはいかなくて……」
 あの時期は、一応退院したものの、通常食に戻ってからまだそう経っていなくて。
 摂食障害の間に大きく減ってしまった体重を、元に戻すのに必死であったと記憶している。
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