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王都からの雷

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「どういう状況なのか分かっているのか!!!!!!」
「ひぃぃぃ!!!」
「うひぃぃぃ!!!」

ダンッ!!!
と目の前にある重厚な長テーブルが拳によって叩かれた。反動で瞬間的に数センチ浮かんだ。絶対に。
なんなら、叩いた本人も大分手のひらが痛いのではないだろうか。ちょっと摩ってる。
隣合って腰掛けている義妹と思わず互いに支え合ってしまったのも致し方ないと思う。

「貴様!!スズに気安く触るな!!」
「えぇー…。」

目の前に怒り心頭ですがなにか?とばかりに、顬に血管を浮かばせていた。最早毛先も逆立ている…ように見える。
我々義兄妹が今の所一番恐れている人物…この国の第一王子様であった。
あいもわかわらず、麗しの金髪と翡翠の瞳が輝いており眩しくて仕方がない。

「それで、此度の戦闘は事実なのだな?」
「まぁ…はい。」
「なんだその気抜けた返事は。」
「数日経ったとはいえ、まだ身体全体が怠いんです!」
「むむ…そうだったか。」

スズに関してはチョロいのも変わらない様だ。




本日の朝早くにヨハン班長様に叩き起されたと思えば、全身を勢いよく洗われて普段使用している制服とは違い真新しい制服を着せられた。
涼も同様だったらしく、普段よりも二割増で可愛く綺麗になっていた。その様は涼の介助係を見ればよく分かる。見惚れている…言葉の通りに。ヨハンも然り。
元の国でも彼女の年代は特に煌びやかに見えるのだ、どの世界でもそれが通用するのだろう。瑞々しい肌に、艶やかな髪質。そして化粧をしなくとも栄える容貌。どれをとっても贔屓目なしに逸品だと思う。
あれだけの荒々しい戦闘後とはいえ、陰るかと思っていたが、流石若さだ。二日間の爆睡を経ればそういった部分も回復していたらしい。

その後は皆気をしっかりと持ち、まさかのグリーンヴァルド魔法協会に連行されたのだった。
そして今に至る。

「本当に本当なんだな?」
「そうです。エルフの女性と戦闘し、勝ちました。」
「勝ちました……な。その話が既に王都に届いてるのは分かっているんだな?」
「「うぐっ。」」
「はぁ…。全く…私としては大人しくして欲しかったのだが…ここまでの功績を出されてしまうとなるともう何も庇うことが出来ない。…つまりは、分かるな?」

元いたアンティーク調の椅子に腰かけ直し、俺達の方を向いていた。完全なる悲壮感を漂わせている。言葉を発せずとも何を言いたいのかはさすがの俺でもわかる。
もう、無理なのだろうな。

「再来週の頭よりレッドウォールへ向かうように。」
「…ですよね。」
「分かってました…あぁ…やってしまったぁぁ。」

そうだよな。
涼も頭を抱えて唸っている。
貴族様達も涼と俺の使い道が鮮明になったんだ、そりゃそうもなるよ。驚くことは無い。

「それとだ。例のエルフに関してだが…。此度の件について二人のお咎めは無しだ。」
「…殺しちゃったのに、ですか?」
「あぁ。そもそも処罰に当たるのはあちら側だ。この国にて健やかに生きて行く上での契約があるからな。」
「契約…。」
「そうだ。異世界人である二人は知らないだろうが、元よりこの国ではそういった契約が幾つかある。今回のは他種族への不当なる生命を脅かす攻撃だ。戦争等の国同士種族同士の対立に関しては、互いの同意にて行っているものとするので該当はしないがな。」
「なるほど…。それでフェリシアさんは俺の同意無く生命を奪おうとした…から。」
「あぁ。事前に死なない程度の魔力譲渡の話は付けていたのだろう?だが実際は血液を不当な量摂取し、お前の生死を無下にした。これは完全に処罰対象となる。」
「…もしも俺達が手を下さなかったとして、この話がダニエル様たちに話が言った場合、フェリシアさんはどうなっていたんですか?」
「……今と結果は変わらないだろうな。エルフ族の方もこれに関しては特に声は上げてきていない。つまりは向こう側も理解しているのだろう。」

お咎めがないという事は有難いが…やはり見た目が人に近い他種族を殺めたことに変わりはないし、それに対して罪悪感もあるのだ。
この世界における契約とやらも初めて聞いたし、元いた世界との価値観のズレに戸惑うばかりである。
そもそもの話、自分達で対処出来ないことを異世界人を拉致って代わりに対処してもらうという考え自体からズレている…。ズレを埋めるつもりは無いが、理解はしておくべきでは…あるのだろうな。この世界で生きていく上で、案外その部分が重要な気がする。

「それで、お前達を前線に向かわせることになったが…。カナタ、お前との約束を果たそうと思う。求めている条件があるのだろう?」
「はい、覚えていて下さって有難うございます。」
「ふんっ、当然だ。一応はお前も聖女様だからな。」



「それで、まぁ俺達同行出来るようになったのは良かったけどよぉ…。」
「こぉんな貴重品多数王宮から貰えるだなんて聞いてないよ…。」
「今言ったから。因みに貴族様達もこれは知らないみたいだ。ダニエル様がガンガン持ってけってさ。」
「何気にダニエル王子って気前がいいよね!」
「それは…涼がいるからだろうよ。」「?」
「ありゃりゃ…まだ自覚無しなんだね、ドンマイ王子様。」
「あはは…。」

ダニエル王子の突撃から数日後、王子本人が両手で無数のアイテムと書類を幾つか持ってきてくれた。

「これが誓約書だ。後ろ二人のな。」
「ヨハン、アルフレッド…本当にいいんだね?」
「あぁ。前も言ったろ、着いてくって。最低限の道案内程度ならやってやれる。」
「同意だね。奏多もいるんだし、何時もより多目に運搬はできるよ。」

一つ目のダニエル様との条件はレッドウォールへ同行者を二人つけることだった。これに関しては事前に二人から申し出もあったので、何回も何回も意思確認した上での同行して貰えることとなった。
そしてそれを当然ダイナー局長も知っている。二人を付けられると知った途端に、今まで滞っていたレッドウォールへの配達を任されてしまった…。

そして二つ目の条件。
それは、これからはちょっとした旅となる。俺達は当然この国の事は不慣れだし、旅なんてしたことが無い。通り越してサバイバルだと思うし。俺としては戦闘以外で苦労を極力したくないと判断した訳だ。
旅において便利アイテムを幾つか見繕って欲しい。そう伝えたら山盛り沢山のアイテムを王子は持ってきたのだった。

「まぁ、何が入ってるかは道中確認するとして…そろそろ出発しようか。」
「そうだね、お兄ちゃん。」

一旦の条件はこの二つだ。
後々何かして欲しいことがあれば伝えてくれとダニエル様は言っていた。本心としては涼に言って欲しいのだろうが…彼女は彼からの矢印を認識できていない。今後の二人に幸あれ。

「涼…アレンくんの手紙は持ったか?」
「うん、勿論!!!」

手紙やら荷物やらは基本的にはヨハン達に任せて、俺達は前線まで極力魔力を温存する方向とした。
自分達が一つずつ肩から下げているメッセンジャーバッグ。涼の中には、指定大都市アクアにて出会った少年…アレンくんからアレンパパへの手紙。これだけは何がなんでも届けなければ。

そう胸に改めて決心し、俺達は空へと飛び出して行ったのだった。
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