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ダニエル様から頂いた、バイク乗りが愛用していそうなゴーグルのレンズに砂粒が溜まってきたのが視認出来るようになってきた。
自分達の間を通り抜ける風が、進む事に強くなっていくのを感じる。

「むむむっ…お兄ちゃん…もう口の中ジャリジャリだよぉ。」
「幾ら口元に布当てても無理だなこれ…。ヨハーーン!!」
「やっぱり無理だよな。よし、一旦下りるぞ!!!」

後ろから制服を引っ張られ、義妹を見てみれば、ゴーグル越しにでもハッキリと眉間の皺が見受けられた。
きっとこの子だけでは無い。全員が同じ表情をしているのだろうな。ヨハンの判断が異様に早かった。



「はぁ…本当にここ一帯乾燥しているなぁ。」
「本当にね。あぁー水を飲んでも飲んでも喉が乾くよ。」
「ほら、アルフレッド。多目に水を街で買ってきたから良かったな」
『僕もここまでとおくにきたことがなかったから、わからなかった。レッドウォールの外れはかこくなんだな。』
「私も前一度来たことあったけど…前よりも乾燥してる気がする。」

レッドウォール前線基地までは街からは、徒歩であれば四日近くかかると聞いている。だが俺達のように問答無用に飛んでいけば一日半と言った所らしい。
中央街の人達からは事前に街外れが乾燥しており、風が時折強くなると聞いてはいたのだが。ここまでとは。
自分達が降り立った場所も辺り一面砂漠状態であり、砂を含んだ風が吹き荒れていた場所であった。だが運良く廃墟が立ち並ぶかつての街跡地を発見し、そこに身を隠している。レッドウォールならではなのか、コンクリート製である。これならば直ぐに壊れることも無いだろう。
硝子の無くなった窓枠の外ではいまでも轟々と凄まじい風鳴りがしている。

「風がすごいなぁ。もう少し収まってから出発した方が良いんじゃないかな。」
「それも、そうなんだがな。いつ止むかがわかんねぇんだよな。」

確かに。
この地域に長くいた事は無いので、この嵐のような風がどれ程吹き続けるのか全く分からない。連日か、数時間か…。
あと少しだと言うのに。本来風というのは自分達郵便局員の味方だと言うのに、これ程までの驚異になるとは。

「…お兄ちゃん。」
「ん?」
「もしかしたら、私何とか出来るかも。でも、お兄ちゃんの力が必要なんだけど。」
「…マジか。言ってごらん。」
「う、うん!!」

自分が考えたことが不安なのか、俺の腕に彼女の腕が絡んでいて離れることを知らない。

『僕にもわかるようにせつめいしろよ。』
「わかってるよ!!」
「あはは。」

反対の腕にはアトラが絡まっていた。
お陰様で両腕がポカポカしている。

「それで、涼の計画って何?」
「うん。間違いなく今一番困ってるのってこの風でしょ。それを防ぐ為にみんなを包み込める程の結界を張ろうと思うの。」
「…大分でかいぞ。」
「一応王宮で習った光魔法の中に結界魔法はあったし、荷物を守る為に使ったりしてるし。それを応用して範囲を広げればなんとかなると思うんだ。ただ…範囲が広がればそれだけ魔力も消費するから。そこをお兄ちゃんに補ってもらえれば何とかなると思う。」
「…となると、目的地である前線基地まで保たなければいけない事なるよな。」
「そうなんだよね。進度によって多分消費量がけっこう変わると思う。」

そういう事か。
それならば、俺としては問題ないような気がするが。それはあくまでも現時点における状況の判断だ。前線基地に到着した時点で俺がどうなっているのか。フェリシアさんの時とは事態が違うからどういう風に転がるか分からない。
だが。

「俺は、涼の提案に賛成。ダニエル様が言うには俺達はあくまでも後方支援っぽかったし。そうでなかっとしても、ダニエル様から頂いた回復ポーションがあるからそれで何とかなると思う。それも無理ならば、事前に基地の皆さんに見つからないように休みを取ればいいだけだ。」
「……僕は奏多の考えで良いと思うけど。流石に疲労困憊の聖女様を戦に出すとは思わないし。」
『もし無理にたたかわせるのならば僕がでる。』
「…奏多、本当に大丈夫なんだな?」
「うん。問題ない。」

ここ最近の班長お馴染みである頭が痛いポーズを繰り広げていた。非常に申し訳ない気持ちがあるが、毎度の事ながら……致し方ないのである。



「それでぇ?!?!!?いけそうかぁぁぁぁ!!!???」
「なぁぁんとか!!!」
「んぐぐぐぐぐ…っ!!!…すんごい消費されてる感じがする。」

ボードに乗ったのは良かったが、ポジションは変更となった。運転手が涼となり、彼女の後ろでボードに腰掛けて涼の腰にしがみついている状態の俺。
思いのほか結界魔法というのは、魔力を持っていかれることを痛感した。攻撃魔法よりも消費が激しいのだな。ずっとマラソンしている気分である。
廃墟から発ち、数分だが立っていることが叶わず、上体を起こしているのもやっとだ。
その甲斐あってか廃墟に逃げ込むまで纏わりついていた砂埃は、結界により一切無くなり視界も良好である。進むスピードも俄然早い。

『あれが、前線基地とやらなのか?にんげんがおおくみえる。』
「そうだね、間違いないよ。ファンゴ班長、証明証、必要だよ。」
「涼!!少しスピード落として俺達の後ろにいろ。アトラもだ!!」
「わかった!!」
『りょうかいした。』
「うぃー…。」

目下には既に前線基地に配属された王宮お抱えの騎士団員が。俺達を視認しているようであった。メンバーがメンバーだけあって明らかに不審がっている。
だが、ここまで来たし。第一王子の命であるのだから引き返す訳にも行かない。
先に降り立つヨハンの後に続いて地上へと向かう。
きっとこれでいいのだ。
間違いないはずである。

「お兄ちゃん、腰折れちゃう。」
「あ、ごめん。」
「んー…もすこし、弱めてくれるなら全然いいよ。」
「涼???」
「幾らでも触ってくれて構わないので!!」
「涼さん??????」
『僕でもいいぞ???』

ちょっと義妹とドラゴンがこんな時にも何言ってるのか分からいけど、とりあえず差し出された両手を繋いでおくことにした。
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