夢の続き

ぽてち

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高見沢東吾の場合

10、お茶の時間

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 颯田に呼びかける隙を与えずに、ずんずんと歩いていく美咲にアシュリンは呆気にとられた。

「あ、あの?」
「すみません、困っているのではと思いました。余計なお世話だったでしょうか?」
「いえ……、助かりました。ありがとうございます」

 そのまま二人とも無言で大通りまで歩いていく。
 大通りに出たところで、麗奈たちに遭遇した。
「あれ? 先に行ったんじゃなかったの?」
「あ…うん」
「あのイケメン君は?」
「アシュリンさんに絡んでたから、振り切ってきた」
「ええ~、アシュリンさん超羨ましい。いいなぁ、SNSのID交換してましたよね。優香も知りたぁい」
「? 本人にお聞きになられたら良いのではありませんか?」
「……チッ」

 体をくねらせて強請っていた優香がど正論を述べるアシュリンにムッとしたようで舌打ちをしていた。
 アシュリンは不思議そうな顔をしている。
 その対比に麗奈はぶふぉと些か女性らしくなく豪快に噴き出していた。

「何かあったら、嫌だから、彼女のうちまで送って行くわ」
「美咲って」
 額を抑えて溜息をつく麗奈に、自分でも分かっているのか美咲は苦笑いを返す。

「あの……、お茶でも飲んでいきますか?」
 そう発言したアシュリンに全員「え?」というように振り返る。
「ないわぁ、ふつー今カノが元カノを家に誘いますぅ」
「ちょっと!」
「……そうですね。ごめんなさい」
 しゅんと項垂れたアシュリンになんだか全員居た堪れなくなった。

 雨に打たれてしおれた花のような風情のアシュリンに優香でさえ、「ちょ、私が悪いみたいじゃない!」と小さく悪態をついたが、涙目になったアシュリンに流石に気まずいのか黙り込んだ。

「美味しいお茶だったらいいわよ」
「はい!」
 嬉しそうに花が咲くような笑顔を見せるアシュリンに少し口元を緩める。

「先輩、人良すぎぃ」
 まぜっかえす優香にじろりと睨んだだけで、美咲は反論しなかった。

 アシュリンが止めたタクシーに乗り込むといそいそと優香も乗り込む。
「あんた、ついて来るつもり?」
 流石に眉を顰める美咲にぺろりと舌を出して笑う。

「えへへぇ、きょーみありますもん」
「ちょっと! 降りなさいよ」
 腕を掴む麗奈に座席にしがみ付いて降りようとしない。
「あの、お客さん」
 困ったように言う運転手に謝って優香を降ろそうと肩を掴んだ美咲は慌てて押そうとしたが、優香は手子でも動かなかった。

「皆さんも来てください。運転手さん困ってます。私は構いませんから」
「やったー!」
 顔を見合わせた麗奈と香苗もさすがにほっとけないのか、丁度後ろに空車のタクシーが来たのでアシュリンから住所を聞いて付いて行くことにした。




 ついたところは五階建てのマンションだった。
 マンションだが、明らかにセレブ向けの高級マンションだった。
「え……何ここ」
 呆然として戸惑う美咲たちを気にする風もなく、アシュリンは慣れた様子でエントランスのドアを開錠すると中に入っていく。

 エントランスにはスーツ姿のコンシェルジュが笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、アシュリン様」
「ええ」
 にこやかに応えてそのまま奥のエレベーターまで歩いていく。
 カードキーを翳すと扉が開く。

「アシュリンさん、独り暮らしって言ってませんでしたか?」
「そうですよ? と言っても東吾も最近住み着いてますけど」
「あ、そう言うことを聞いてるんじゃなくて」
「ここはおじいさまの所有する物件なのです」
 それを聞いて少し納得した。中渡も東吾の家も裕福な方だが、流石にこんなマンションに女子大生を住まわせるほどではなかったからだ。

「分不相応なのは分かっているのですが、私が向こうにいる時ストーカーに襲われる事件があってから、おじいさまの心配症に拍車がかかってしまいまして。独り暮らしをするのならこのぐらいセキュリティーがしっかりしているところでないと認められないと言われてしまいました」
 エレベーターの扉が開くとそのまま玄関部分に繋がっていた。
「あれ? 共用部の廊下はないの?」
「ええ、ワンフロア全て我が家ですので」
「……」
「すごいわね」


 入ると広いエントランスに隣はシューズクロークだろうか。
「どうしたの?」
 さっきまでのハイテンションが鳴りを潜めて、どんよりとする優香に美咲は声を掛ける。
「この玄関とシューズクロークだけでうちのアパートぐらいある」
「あっはっは。そうだわねえ」
「……笑うことですか?」
 豪快に笑い飛ばす麗奈に恨みがましそうな視線を送る。

「お帰りなさいませ、アシュリンお嬢様」
 にこりと笑顔で出迎えたのは栗色の髪にヘイゼルの瞳の二十代後半くらいの女性だった。
 どう見ても白人なのだが、流暢な日本語だった。

「また来ていたの、レティシア」
 眉を顰めて、咎めるように言うアシュリンに胸を張る。
「当然でございます。私はお嬢様の侍女なのですから!」
「貴族じゃあるまいし、そんなものはいらないわ」
「そんなお言葉はちゃんとお料理が出来るようになってから仰ってくださいませ」
 むうと膨れるアシュリンだが、それ以上は反論せず手にしていたハンドバックを渡す。

「皆さんにお茶をお出しして」
「緑茶で宜しいでしょうか? コーヒー、紅茶、ハーブティーも色々な銘柄がございますが」
「私は緑茶で」
「あたしはコーヒーが良いかな、カフェ・オ・レにしてもらえると嬉しいな」
「私はコーヒーをブラックで」
「……ルイボスティーをアイスでお願いします」
「承知致しました。緑茶は玉露のみですが、コーヒーはグアテマラ、ブルーマウンテン、クリスタルマウンテン、ハワイコナがございます」
「じゃあブルマンで」
「私はハワイコナが良いな」
 バラバラな注文にもにこやかに応える侍女に「嫌味だったのに」と力なくぼやいたのは優香だった。

「すみません、着替えてきますので、リビングでくつろいでいて下さい」
 そう言い残して奥に向かった。
 
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