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高見沢東吾の場合
14、結婚前奏曲 後編
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「どちらにしろアシュリンの意見は聞いてないですよね」
ぼそっと東吾が呟くと
「東吾、なんや言いたいことがあるんか?」
「アシュリンだって、見本が合ったほうが選びやすいでしょう」
曽祖母と祖母にタッグを組まれると東吾も反論できない。
「着物は良く分からないので、お祖母様達に選んでもらう方が」
「そうやろう? 将正、正幸も東吾以外はいらんから、好きに観光でもしてきなはれ」
「正人さんもお父さんたちとどうぞ。悪妻は着物を選んでいますわ」
「春馬も好きなもの食べていらっしゃいな。私も可愛い妹と生意気な弟の婚礼衣装選びがあるから」
「……悪かったよ。でも夕食は春馬君が静江や茅夜が食べたいと言っていた鉄板焼きの店を予約してあるから」
「しょうがないわね、それで許してあげる」
静江は申し訳なさそうな顔で機嫌をとってくる夫に苦笑して応じる。
ぶすっとした表情になる東吾にアシュリンは不思議そうに腕に触れる。
「東吾、どうした?」
「……いえ、別に」
「安心しなはれ、東吾。二時間ぐらいで開放して差し上げますよって。アシュリンはんと過ごすためにええ宿予約しはったんやろ」
「……なんで分かるんですか?」
「ふふふ、旦那様もあてを喜ばせるためにそうしてくださいましたんや。……ほんに、優しい旦那様やった」
ほんの少し悲し気に笑う曽祖母に何も言えなくなり、結局曽祖母たちが納得するまで付き合う羽目になった。
「アシュリン、疲れたでしょう」
「……お前の機嫌の悪さに冷や冷やさせられたからな。それと言動を一致させてくれないか?」
武家屋敷を思わせる造りの高級旅館で露天風呂付きのスイートを予約していた。
部屋に案内され、窓からの景色を嬉しそうに眺めるアシュリンの背後に東吾が立ったと思うとあっという間に服を脱がされ、露天風呂の中で東吾の膝の上に乗せられている。
溜息をつきながらも、それほど嫌がっている訳ではない。
東吾の裸の胸に凭れ掛かりながら、ゆっくりと目をつぶった。
「マタニティ・トリートメントも予約してありますから、ゆっくりと過ごしましょう」
「うん、ありがとう」
噛み殺し損ねた欠伸を一つして、優しく触れてくる東吾の手に幸せな気持ちで微睡んでいく。
気がつくとベッドの上で体中に愛撫を施されていた。
一瞬蹴り飛ばそうかと思ったが、これでもかなり我慢しているだろう東吾の好きにさせていた。
「愛しています、アシュリン」
切なそうに見下ろしてくる東吾にため息を吐く。
東吾はあまり、いやほとんど愛の言葉を言わない。情欲に濡れた瞳を見返して困ったように笑いかける。
「東吾、ここにお前との子供たちがいるんだ」
東吾の手を取って、だいぶ目立ってきた下腹部に重ねた手を置く。
叱られた犬のようにしょんぼりと項垂れた東吾の首に白い腕を回す。
「……だから、優しくして」
「もちろんです!」
嬉々として枕の下からコンドームを取り出し、「こっちの方が負担が少ないですから」とアシュリンを抱えあげて、対面で太腿の上に座らせる。
アシュリンは無言のまま東吾の眉間を指で思い切り弾いた。
「痛っ!」
「……なんか腹が立った」
弾かれた場所を抑えて情けなさそうに見上げて来る東吾に渋い顔をして睨み付けようとしたが、ふふっと笑ってしまった。
笑いだすと止まらなくなったのか、肩を震わせて笑い続けるアシュリンに少しだけムッとした顔で東吾が見つめてくる。
「酷い奥さんだ。これでも我慢しているんですよ」
それでも笑い続けるアシュリンに片眉を上げると胸の谷間に口づけた。
強く吸ったのか、紅い痕がつく。
「東吾……エステ予約しているんじゃなかったのか?」
「ええ、そうですよ」
「馬鹿!」
真っ赤になって叩いてくるアシュリンを楽しそうに見上げながら、アシュリンが感じるところを触れて行く。
徐々に甘い嬌声を上げ始めたアシュリンを優しく執拗に攻めていく。
終わるとぐったりと疲れてしまい、マタニティ・トリートメントが行われるプライベート・スパまで東吾に抱えられるように連れて行かれ、エステティシャンに「お優しい旦那様ですね」と笑顔で言われて真っ赤になって「あいつ嫌い」と恥ずかしそうにしているアシュリンを更に生暖かい目で見られる破目となった。
「あら、まあ! 偶然ね、アシュリン!」
「随分、遅い夕食ね。早く座りなさいよ」
にこやかに声を掛けてくる静江と茅夜に東吾は表情を消した。
旅館の中に有る鉄板焼きのレストランにアシュリンを伴っていくと、ぐいぐいと良い飲みっぷりを発揮して白ワイを飲んでいる兄夫婦と姉夫婦に出くわした。
兄と義兄に視線を送るとさっと逸らされてしまった。
「……兄さん」
「偶然だ。本当に偶々なんだ……すまない」
「うんうん、あるよね。そう言うことも、……申し訳ない」
ぶすっとして案内された兄、姉夫婦の隣の席に座り、メニューを開いてアシュリンの為にノンアルコールのカクテルを聞いている。
コースを予約していたので、東吾はそれに合わせた白と赤を一本ずつ注文していた。
「東吾……飲み過ぎるなよ」
「飲まないとやってられませんよ」
憮然とした表情で注がれたワインを飲み干した。
困ったように笑って、前菜で出てきた九谷焼の皿に盛られた根菜とエビのテリーヌを美味しそうに口に運んでいた。
「美味しいですか?」
「うん」
「良かった」
アシュリンの笑顔に目を細めて、手を伸ばすとテーブルの上に置かれたアシュリンの手を握る。
「仲が良いわね! お姉ちゃん、あてられちゃうわあ」
「東吾のだらしない笑顔なんて初めて見たわ」
年代物のポートワインを注文して、水を飲むように空けてこちらを酒の肴にしてくる姉たちにイラッとしたが、相手にすれば喜ばせるだけなので、無視することにした。
ちらりと正人を見るとに地酒を注文して、オマールエビのガーリックバターソースを嬉しそうに堪能していた。
春馬はA5ランクのサーロインステーキを頬張り「美味い!」と幸せそうだ。
妻たちの暴走を止める気はないらしい。
誕生日の近かったアシュリンの為に特別にデザートプレートを頼んでいて、ウェイターが祝いの言葉を述べるのを聞いた春馬が朗々とした声でバースデーソングを歌いだし、余りに玄人はだしの歌声だった為、ウェイターも少し困ったような顔をしたが、結局最後まで歌われ、アシュリンもはにかんだ笑顔を見せていた。
「誕生日なら言ってくれたらいいのに、お姉ちゃんプレゼント用意したのに!」
「気が利かないわね、東吾。仕方がないわ、明日アシュリンの誕生日プレゼント選ばないとね」
憤慨する静江と溜息をつきつつも嬉しそうな茅夜に何度目かの溜息をついた。
翌日も、兄・姉夫婦に纏わりつかれて、膨れる東吾をアシュリンが何度も宥めることとなった。
ぼそっと東吾が呟くと
「東吾、なんや言いたいことがあるんか?」
「アシュリンだって、見本が合ったほうが選びやすいでしょう」
曽祖母と祖母にタッグを組まれると東吾も反論できない。
「着物は良く分からないので、お祖母様達に選んでもらう方が」
「そうやろう? 将正、正幸も東吾以外はいらんから、好きに観光でもしてきなはれ」
「正人さんもお父さんたちとどうぞ。悪妻は着物を選んでいますわ」
「春馬も好きなもの食べていらっしゃいな。私も可愛い妹と生意気な弟の婚礼衣装選びがあるから」
「……悪かったよ。でも夕食は春馬君が静江や茅夜が食べたいと言っていた鉄板焼きの店を予約してあるから」
「しょうがないわね、それで許してあげる」
静江は申し訳なさそうな顔で機嫌をとってくる夫に苦笑して応じる。
ぶすっとした表情になる東吾にアシュリンは不思議そうに腕に触れる。
「東吾、どうした?」
「……いえ、別に」
「安心しなはれ、東吾。二時間ぐらいで開放して差し上げますよって。アシュリンはんと過ごすためにええ宿予約しはったんやろ」
「……なんで分かるんですか?」
「ふふふ、旦那様もあてを喜ばせるためにそうしてくださいましたんや。……ほんに、優しい旦那様やった」
ほんの少し悲し気に笑う曽祖母に何も言えなくなり、結局曽祖母たちが納得するまで付き合う羽目になった。
「アシュリン、疲れたでしょう」
「……お前の機嫌の悪さに冷や冷やさせられたからな。それと言動を一致させてくれないか?」
武家屋敷を思わせる造りの高級旅館で露天風呂付きのスイートを予約していた。
部屋に案内され、窓からの景色を嬉しそうに眺めるアシュリンの背後に東吾が立ったと思うとあっという間に服を脱がされ、露天風呂の中で東吾の膝の上に乗せられている。
溜息をつきながらも、それほど嫌がっている訳ではない。
東吾の裸の胸に凭れ掛かりながら、ゆっくりと目をつぶった。
「マタニティ・トリートメントも予約してありますから、ゆっくりと過ごしましょう」
「うん、ありがとう」
噛み殺し損ねた欠伸を一つして、優しく触れてくる東吾の手に幸せな気持ちで微睡んでいく。
気がつくとベッドの上で体中に愛撫を施されていた。
一瞬蹴り飛ばそうかと思ったが、これでもかなり我慢しているだろう東吾の好きにさせていた。
「愛しています、アシュリン」
切なそうに見下ろしてくる東吾にため息を吐く。
東吾はあまり、いやほとんど愛の言葉を言わない。情欲に濡れた瞳を見返して困ったように笑いかける。
「東吾、ここにお前との子供たちがいるんだ」
東吾の手を取って、だいぶ目立ってきた下腹部に重ねた手を置く。
叱られた犬のようにしょんぼりと項垂れた東吾の首に白い腕を回す。
「……だから、優しくして」
「もちろんです!」
嬉々として枕の下からコンドームを取り出し、「こっちの方が負担が少ないですから」とアシュリンを抱えあげて、対面で太腿の上に座らせる。
アシュリンは無言のまま東吾の眉間を指で思い切り弾いた。
「痛っ!」
「……なんか腹が立った」
弾かれた場所を抑えて情けなさそうに見上げて来る東吾に渋い顔をして睨み付けようとしたが、ふふっと笑ってしまった。
笑いだすと止まらなくなったのか、肩を震わせて笑い続けるアシュリンに少しだけムッとした顔で東吾が見つめてくる。
「酷い奥さんだ。これでも我慢しているんですよ」
それでも笑い続けるアシュリンに片眉を上げると胸の谷間に口づけた。
強く吸ったのか、紅い痕がつく。
「東吾……エステ予約しているんじゃなかったのか?」
「ええ、そうですよ」
「馬鹿!」
真っ赤になって叩いてくるアシュリンを楽しそうに見上げながら、アシュリンが感じるところを触れて行く。
徐々に甘い嬌声を上げ始めたアシュリンを優しく執拗に攻めていく。
終わるとぐったりと疲れてしまい、マタニティ・トリートメントが行われるプライベート・スパまで東吾に抱えられるように連れて行かれ、エステティシャンに「お優しい旦那様ですね」と笑顔で言われて真っ赤になって「あいつ嫌い」と恥ずかしそうにしているアシュリンを更に生暖かい目で見られる破目となった。
「あら、まあ! 偶然ね、アシュリン!」
「随分、遅い夕食ね。早く座りなさいよ」
にこやかに声を掛けてくる静江と茅夜に東吾は表情を消した。
旅館の中に有る鉄板焼きのレストランにアシュリンを伴っていくと、ぐいぐいと良い飲みっぷりを発揮して白ワイを飲んでいる兄夫婦と姉夫婦に出くわした。
兄と義兄に視線を送るとさっと逸らされてしまった。
「……兄さん」
「偶然だ。本当に偶々なんだ……すまない」
「うんうん、あるよね。そう言うことも、……申し訳ない」
ぶすっとして案内された兄、姉夫婦の隣の席に座り、メニューを開いてアシュリンの為にノンアルコールのカクテルを聞いている。
コースを予約していたので、東吾はそれに合わせた白と赤を一本ずつ注文していた。
「東吾……飲み過ぎるなよ」
「飲まないとやってられませんよ」
憮然とした表情で注がれたワインを飲み干した。
困ったように笑って、前菜で出てきた九谷焼の皿に盛られた根菜とエビのテリーヌを美味しそうに口に運んでいた。
「美味しいですか?」
「うん」
「良かった」
アシュリンの笑顔に目を細めて、手を伸ばすとテーブルの上に置かれたアシュリンの手を握る。
「仲が良いわね! お姉ちゃん、あてられちゃうわあ」
「東吾のだらしない笑顔なんて初めて見たわ」
年代物のポートワインを注文して、水を飲むように空けてこちらを酒の肴にしてくる姉たちにイラッとしたが、相手にすれば喜ばせるだけなので、無視することにした。
ちらりと正人を見るとに地酒を注文して、オマールエビのガーリックバターソースを嬉しそうに堪能していた。
春馬はA5ランクのサーロインステーキを頬張り「美味い!」と幸せそうだ。
妻たちの暴走を止める気はないらしい。
誕生日の近かったアシュリンの為に特別にデザートプレートを頼んでいて、ウェイターが祝いの言葉を述べるのを聞いた春馬が朗々とした声でバースデーソングを歌いだし、余りに玄人はだしの歌声だった為、ウェイターも少し困ったような顔をしたが、結局最後まで歌われ、アシュリンもはにかんだ笑顔を見せていた。
「誕生日なら言ってくれたらいいのに、お姉ちゃんプレゼント用意したのに!」
「気が利かないわね、東吾。仕方がないわ、明日アシュリンの誕生日プレゼント選ばないとね」
憤慨する静江と溜息をつきつつも嬉しそうな茅夜に何度目かの溜息をついた。
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