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目覚めた後
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それから理緒は、ゆっくりとではあるが回復していった。襲撃に遭って気を失った理緒は、七日間も目を覚まさなかったとネリーから聞き、驚きを隠せなかった。しかも運び込まれた時には死にかけていたらしく、ネリーですらもあの時はもうだめだと思ったと言ったのだ。これにはさすがの理緒も驚くしかなかった。倒れる前の状況のどこにそんな要素があったのだろうか…
一緒にいた辺境伯は、あの後、小屋を脱して理緒を連れ帰ったという。そのあまりの落差に、これはやはりこの世界に馴染まないせいなのだろうか…と理緒は改めて不安を募らせた。ガルシェの時は体質の問題だと言われたが、今回はそれで済む話なのかもわからないし、そもそも、『この世界のモノ』の何がよくないのかもわからない。もしかしたら普通に出された食材が毒になり得るのかもしれない…その可能性に思い至った理緒は、食事にすらも不安を感じた。
少しずつ話が出来るようになった理緒は、現状をネリーに尋ねた。ネリーによると、ここは辺境伯の本屋敷で、辺境伯がここに連れてきたのだという。こちらの屋敷には辺境伯お抱えの医師がいるため、病人の看病には別邸よりも適しているという。部屋は無駄に立派だし、しかもネリーが理緒の専属として世話をすると言われて、理緒は益々不信感を募らせるしかなかった。
「…何でネリーさんが…」
「これも辺境伯様のご命令です」
「でも…ただの子守に侍女頭のネリーさんが付くのは…」
「今はそんな事は気にしないで身体を治すことだけ考えて。その内辺境伯様がご説明されますから」
「説明…って何の?」
「それは私からは言えません。辺境伯様から聞いてください」
「…」
ネリーがそう言うのであれば、今はそれ以上は教える気がないという事だろう。職務に忠実で無駄を嫌うネリーなだけに、それ以上聞き出せることはなさそうだった。
試しにもう少し質素な部屋、出来れば召使い用の部屋に移りたいと言ったが、その希望もネリーに瞬殺された。一体何なんだと思う。
せめてもの救いは、ルイ達がこの屋敷の離れで元気に過ごしているという事だった。襲撃があったため、念のため警備が厳しいこちらの屋敷に滞在しているのだという。幸いにもエルシー一家が一緒のため、ルイは今までと同じように落ち着いて過ごしているという。襲撃がトラウマになっていないかと心配していたが、どうやらその辺も心配いらないらしかった。
目が覚めてから五日後、ようやく起きている時間が増えた理緒の元に辺境伯が顔を出した。ネリーの話では、日に一、二度は様子を見に来ていたらしいが、理緒が寝ているために声もかけずにいたのだという。これまでの態度との差に、理緒の方が不信感を募らせた。
「体調はどうだ?」
「お陰様で随分よくなりました。ありがとうございます」
かけられた声は固かったが、一応は気にかけてくれたらしい。雇われの身なのにこうして世話をして貰っている事が非常に申し訳なく、理緒は恐縮するばかりだった。しかも主の前でベッドに上半身を起こしただけで、更に言えば無駄に立派な部屋をあてがわれ、かえって居心地が悪い。
元々目の前の御仁は理緒の雇用には反対していたのだ。不本意ながらも雇ったのに、医師なども手配する事になってさぞかし不本意でいるだろう。理緒としても働けない身で手間ばかりかけるのは心苦しく、居たたまれなかった。こうして顔を合わせるだけでも胃が痛くなりそうだ…
「……」
「…」
ベッドの脇に置かれた椅子に座った辺境伯だったが、何も言わず難しそうな表情で理緒を見ていた。主が何も言わない以上、理緒も何も言えないため、気まずすぎる沈黙に包まれた。何だというのだ…これはやはり、仕事が出来ないから解雇というのだろうか…
「…あの…」
「…何だ?」
沈黙の重さに負けたのは理緒だった。普段ならまだしも、こんな状態で耐えられるだけの強心臓を理緒は持っていなかった。
「えっと…あの…この前もお話しましたが…そろそろ辞めさせて、頂きたいのですが…」
これは間違いなくそうなのだろうと思った理緒は、先手を打つ事にした。向こうも寝込んだ人間を追い出すのは気が引けるのだろうから、こちらから願い出た方がいいだろうと思ったのだ。まだ体は動かないが、今までに貰った給金があれば、一、二ヶ月は食い繋げるだろう。
「…辞める、だと?」
「…え?あ、はい。今の自分では仕事も出来ませんし…街に戻ろうかと…」
「出ていくことは許さぬ」
「…は…?」
この状態が続くなら、出て行った方がマシだと思った理緒だったが、その希望は一言で却下された。驚きを通り越して、理緒は呆気にとられるばかりだった。
「でも…自分は動けませんし…そもそも…辺境伯様は自分を雇うのは反対だった筈では…」
放たれる威圧感から逃げたい一心で理緒はそう言ったが、辺境伯は益々眉間のしわを深めるばかりだった。怖い…怖すぎる…せっかくのいい顔なのに、眉間のしわがデフォルトになるのは勿体ないとは思うが、態度が態度なだけに好感度が全く上がらないのが残念だ。
「そなたにはここで暮らして貰う」
「な…?」
「不本意であろうが、そなたは私の妻として、一生ここで暮らして貰う」
「はぁ…?」
全く想定外の言葉に、理緒はまじまじと目の前の男の顔を見つめた。
もしかしてこれは、悪い夢の続きなのだろうか…
一緒にいた辺境伯は、あの後、小屋を脱して理緒を連れ帰ったという。そのあまりの落差に、これはやはりこの世界に馴染まないせいなのだろうか…と理緒は改めて不安を募らせた。ガルシェの時は体質の問題だと言われたが、今回はそれで済む話なのかもわからないし、そもそも、『この世界のモノ』の何がよくないのかもわからない。もしかしたら普通に出された食材が毒になり得るのかもしれない…その可能性に思い至った理緒は、食事にすらも不安を感じた。
少しずつ話が出来るようになった理緒は、現状をネリーに尋ねた。ネリーによると、ここは辺境伯の本屋敷で、辺境伯がここに連れてきたのだという。こちらの屋敷には辺境伯お抱えの医師がいるため、病人の看病には別邸よりも適しているという。部屋は無駄に立派だし、しかもネリーが理緒の専属として世話をすると言われて、理緒は益々不信感を募らせるしかなかった。
「…何でネリーさんが…」
「これも辺境伯様のご命令です」
「でも…ただの子守に侍女頭のネリーさんが付くのは…」
「今はそんな事は気にしないで身体を治すことだけ考えて。その内辺境伯様がご説明されますから」
「説明…って何の?」
「それは私からは言えません。辺境伯様から聞いてください」
「…」
ネリーがそう言うのであれば、今はそれ以上は教える気がないという事だろう。職務に忠実で無駄を嫌うネリーなだけに、それ以上聞き出せることはなさそうだった。
試しにもう少し質素な部屋、出来れば召使い用の部屋に移りたいと言ったが、その希望もネリーに瞬殺された。一体何なんだと思う。
せめてもの救いは、ルイ達がこの屋敷の離れで元気に過ごしているという事だった。襲撃があったため、念のため警備が厳しいこちらの屋敷に滞在しているのだという。幸いにもエルシー一家が一緒のため、ルイは今までと同じように落ち着いて過ごしているという。襲撃がトラウマになっていないかと心配していたが、どうやらその辺も心配いらないらしかった。
目が覚めてから五日後、ようやく起きている時間が増えた理緒の元に辺境伯が顔を出した。ネリーの話では、日に一、二度は様子を見に来ていたらしいが、理緒が寝ているために声もかけずにいたのだという。これまでの態度との差に、理緒の方が不信感を募らせた。
「体調はどうだ?」
「お陰様で随分よくなりました。ありがとうございます」
かけられた声は固かったが、一応は気にかけてくれたらしい。雇われの身なのにこうして世話をして貰っている事が非常に申し訳なく、理緒は恐縮するばかりだった。しかも主の前でベッドに上半身を起こしただけで、更に言えば無駄に立派な部屋をあてがわれ、かえって居心地が悪い。
元々目の前の御仁は理緒の雇用には反対していたのだ。不本意ながらも雇ったのに、医師なども手配する事になってさぞかし不本意でいるだろう。理緒としても働けない身で手間ばかりかけるのは心苦しく、居たたまれなかった。こうして顔を合わせるだけでも胃が痛くなりそうだ…
「……」
「…」
ベッドの脇に置かれた椅子に座った辺境伯だったが、何も言わず難しそうな表情で理緒を見ていた。主が何も言わない以上、理緒も何も言えないため、気まずすぎる沈黙に包まれた。何だというのだ…これはやはり、仕事が出来ないから解雇というのだろうか…
「…あの…」
「…何だ?」
沈黙の重さに負けたのは理緒だった。普段ならまだしも、こんな状態で耐えられるだけの強心臓を理緒は持っていなかった。
「えっと…あの…この前もお話しましたが…そろそろ辞めさせて、頂きたいのですが…」
これは間違いなくそうなのだろうと思った理緒は、先手を打つ事にした。向こうも寝込んだ人間を追い出すのは気が引けるのだろうから、こちらから願い出た方がいいだろうと思ったのだ。まだ体は動かないが、今までに貰った給金があれば、一、二ヶ月は食い繋げるだろう。
「…辞める、だと?」
「…え?あ、はい。今の自分では仕事も出来ませんし…街に戻ろうかと…」
「出ていくことは許さぬ」
「…は…?」
この状態が続くなら、出て行った方がマシだと思った理緒だったが、その希望は一言で却下された。驚きを通り越して、理緒は呆気にとられるばかりだった。
「でも…自分は動けませんし…そもそも…辺境伯様は自分を雇うのは反対だった筈では…」
放たれる威圧感から逃げたい一心で理緒はそう言ったが、辺境伯は益々眉間のしわを深めるばかりだった。怖い…怖すぎる…せっかくのいい顔なのに、眉間のしわがデフォルトになるのは勿体ないとは思うが、態度が態度なだけに好感度が全く上がらないのが残念だ。
「そなたにはここで暮らして貰う」
「な…?」
「不本意であろうが、そなたは私の妻として、一生ここで暮らして貰う」
「はぁ…?」
全く想定外の言葉に、理緒はまじまじと目の前の男の顔を見つめた。
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