魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

文字の大きさ
6 / 158
一章、狂王子と魔女家の公子(オープニング)

5、やっぱりフラグだったんだ!

しおりを挟む
「従弟のロザニイル様です。年長者ですが畏まる必要はありませんぞ。お立場はエーテル様の方が格上でございますゆえ、ふんぞり返っておやりなさい」
 
 ネイフェンがそっと耳打ちしてくれる。
 ネイフェンの助言はちょっと過激な気がするのだけど、大丈夫だろうか?
 僕は心配になりつつ、頷いておいた。

「ロザニイル、ちゃんとお医者さまにてもらってね。頭って大丈夫そうにみえて大丈夫じゃなかったりする……」
「オレの頭がおかしいって?」
「うーん。悪口みたいに聞こえた? 僕、そんなつもりじゃなかったんだ……」

 言葉ってむずかしい。
 というか、僕は一応、年下だぞ。結構、年離れてるぞ。ロザニイル、ノウファム兄さんを見習ったらどうだ。
 僕は眉を寄せた。

「ロザニイルは、僕と同レベルに幼いらしい」
「なにっ!」
「あ、口に出てた」

 大人たちが図書館の内側でも外側でも慌ただしく走り回っている。
 大きな地震だったからだろう。みんな、大丈夫だろうか。僕はなんとなく現実から気持ちを逸らすように視線を本に向けた。
 
 いや、だって。ちらっと窓の外に見ない方がいい現実が視えた気がしたんだ。
 さっきネイフェンが自慢していた魔塔が一個折れてた……なんて、気のせいだよね。
 

「お坊ちゃんたち、ちょっと移動しましょうか! お菓子を用意させましたから、ティータイムにしましょう。ねっ! 名付けて『ぐらぐら怖かったねティータイム』です!」 
 黒魔術師がそう言って、僕たちは『避難』することになった。ロザニイルもいっしょだ。

 ティータイムとか言ってるけど、僕は絶対これ『避難』だと思う。
 だって、城中に大きな音で警報みたいなのが鳴って武器を持った人たちが走り回っているもの……。

 ちなみにこの『避難』の最中に知ったのだけれど、黒魔術師はアップルトンという名前で、黒騎士はモイセスというらしい。
 
 ちょっと足早に連れていかれた先は、地下だ。
 避難するなら地下だよね。わかる。

 行ってみると、元々用意していたからだろうか――地下の一室にティータイムって感じのテーブルセットが整っていた。
 頑張ったらしい。

 広々とした部屋の外側は、物々しく武装した兵たちがピリピリした気配で守っている。

 しかし内側は、甘ったるいお菓子の匂いと紅茶の香りで別世界だ。
 
 茶色い素朴な木製テーブルに白レースのテーブルクロスがかけられて、薄紅の花を活けた花瓶が飾られて。
 人数分のチョコレートドリンクに、紅茶。
 
 粒状のトッピング菓子――銀のアラザンが真珠みたいにキラキラしている、パステルカラーのクリームがのったデコレーションカップケーキが食欲をそそる。
 ラズベリークリーム、ピスタチオクリームといった味わい深いクリームに、花のかたちの白チョコレートが添えられていて、華やかだ。
 グラス入りの無色透明のクリアなミントジュレは爽やかな香りを控えめに発していて、美味しい。
 
 サクサクに焼き上げたシュー生地には小さな旗が立てられている。
 中は、イチゴ味のホイップクリームがたっぷりだ。甘い。酸っぱい。甘酸っぱい。

 クルミとナッツがいっぱいのキャラメルタルトも表面がつやつやしていて、美味しそうだなあ……。

「美味しいね」
「あ、ああ……」
 年長組が顔を合わせて不安そうにしている。二人もわかっているのだろう、今なんかヤバイぞって。
  
 いいんだ。現実逃避しても。
 だって、僕たち子供だし。
 何もできないじゃないか。大人しく「お菓子おいしい」って言ってたらいいと思うんだ――ネイフェンと黒騎士が部屋の外に出たきり戻ってこないけど、大丈夫かな? お、お菓子は美味しいなぁ……大丈夫かなぁ……。

 
「へえ、さぞ震えているだろうと思いきや、優雅にティータイムなんてしてるじゃないか」

 
 現実逃避していた僕の耳に、面白がるような高い声が聞こえた。
 同じくらいの年頃の少年の声。男の子――【カジャ】。
 声を聞いた瞬間に脳裏にその名前が閃いて、僕は硬直した。

「下々が必死に防衛しているのに、ご主君はお菓子に夢中、と――ふふ、悪いご主人様だね」


 視界の隅で、部屋の中にいた大人たちが眠るように倒れていくのが見える。
 アップルトンがくたりと壁際で倒れ込むのがとてもゆっくり認識できて、僕はその【同年齢の王子】を視た。


 真っ白だ。

 肌も、髪も、瞳も。
 
 白皙の肌は、雪のよう。
 髪は、煌めく銀色だ。とても繊細で、綺麗だ。
 瞳も不思議な銀色で、美しい。

 唇は、赤かった。
 自然な血色に色づいていて、蠱惑的だ。

 あと、ちっちゃい。

 お子様だ。
 僕と同じ年齢だもの。

 けれど、小さい彼は誰もが無視できない圧倒的な存在感を放っていた。
 不穏で、胸がざわざわして怖くなる。そんなオーラがあった。

 笑顔は綺麗で、それが凄く恐ろしい。



 ――【狂王子】。


 人は彼をそう呼んでいるのだ。
 ……そう呼ばれる彼が、僕の眼の前に訪れたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...