魔女家の公子は暴君に「義兄と恋愛しろ」と命令されています。

浅草ゆうひ

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二章、未熟な聖杯と終末の予言

25、氷の遺跡、家族の温度

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 到着した遺跡の周囲は、不自然な猛吹雪地帯だった。
「宣誓~! オレたち~! お前たちは~! どんな苦難があっても怖気ることなく、勇気と忠誠心をもって~! ノウファム殿下についていく~! いえーい!」
 ロザニイルが元気いっぱいにちょっとお莫迦な感じの声を響かせていて、他のメンバーまで一緒になって「おー!」とか声をあげて盛り上がっている。なんだかノリがあやしい。 

「この辺りは元々寒冷地だが、この一帯は真夏でもらしい」
 隊の前方でノウファムが発する声が遠く聞こえる。うーん、遠い。

「待って。でもこれ、悪くない。ポエムにできそうだ」
 僕は心の中でなけなしのポエミー心をコネコネした。
 
「僕のお兄様、遠い人……誰かさんのせいで気まずいし、お兄様だと思ってたら王族だったし、ロザニイルを抱いてもらわないといけないし……あれ?」
 
 これは果たしてポエムなのか?
 ポエムってむずかしい。

「エーテル様、大丈夫ですか」
 モイセスがすごく心配そうな顔をしている。
 その「大丈夫ですか」はアレだね? 「頭大丈夫ですか」ってニュアンスの「大丈夫ですか」だね?
「うん。大丈夫だよ。僕は芸術を爆発させようとしていただけだから――こうなったら世紀の芸術といわれるポエムをつくってやろうじゃないか。見てろ、カジャ陛下」
 
 決意する僕の眼には、隣で「すげー寒い」とか「入り口凍ってら!」とか大声で騒いでいるロザニイルが溌剌はつらつと杖を振るのが視えた。
 
 ――ほわり。
 指揮者みたいな動きの杖先に、赤々とした炎がともる。
 くるり、くるり。
 軽快に杖先がまわって、炎が一巡りごとに育ち膨れ上がる。

「オレ様が溶かしてやるよ! 魔法じゃなくて、オレ様の魅力でな!」 
「何言ってるんだ、ロザニイル……」
「オレ様の魅力に氷の妖精もトロトロになるってこと!」
 
 ロザニイルの快活な声に促されるようにして、炎は尾を引いて入り口にひゅぅんと飛んでいく。そして、じゅわわっと入り口の氷を溶かした。

「わぁ。溶けた」
 僕がぽつりと素直な声で感嘆をこぼすと、ロザニイルがびゅんっと飛んでくる。
 がばりと僕に抱き着いて、すりすりと頬擦ほおずりしてくる――呆れるほどのハイテンションだ。触れる頬はあったかいけど。
「すごいだろ? 見直したか? 格好良かったか? お兄様って呼ぶか? オニイチャンでもいいぞ?」

 ……ロザニイルってこんな奴だったかなあ。
 僕、なんか違和感があるんだよなぁ……。

「ロザニイル。入口を溶かしたのは上出来だが、ふざけるな」
 ノウファムが保護者のようにやってきて、ロザニイルの腕をつかんで前の方に引きずっていく。
 ああ、仲が良いなぁ……。

「殿下……」
 言いかけて、僕はきゅっと眉を寄せた。
 この呼び方は、「遠い」。
 他人みたいだ。

 僕はもっと距離の近い呼び方ができる立場なんだぞ。

 短杖ワンドを握る手に力を籠めて、僕は義兄たちに駆け寄った。

「……ノウファム兄様! 僕があかりの魔術を担当いたします!」

 短杖をふるえば、光が生まれる。

 道の先を照らすように前に飛ばせば、ノウファムが頷く気配が感じられた。
 このノウファムも不憫だな。
 第一王子だったのに弟王子にやられっぱなしで、散々な人生じゃないか。
 
 ここ数年なんて見世物にはなるし、無理やり僕のアレを飲まされるし、こんな寒いところで探索してるし……か、かわいそう。とてもかわいそう。

「ロザニイルは空調を頼む。暖かくしてくれ」

 同情の念を募らせる僕の耳に、ノウファムがロザニイルに向ける声が聞こえる。
 
 それを聞いて、むくむくと僕の心に不満の種が生まれ始めた。

 
 ――お兄様は、僕に一言くらい何か言葉をくれてもいいんじゃないかな。 

 
 そりゃあ、アレをアレさせられて気持ち悪かったかもしれないけど、僕は悪くないよ。被害者だよ。
 いや、だからといってお兄様が加害者というわけでもないのだけれど……被害者同士「お互い大変だったね」って慰め合うとかしてもいいと思うんだ。

 よし、そっちが来ないなら僕から。

「こほん。お兄様、先日は……」
「エーテル」

 ふわりと肩に外套がかけられる。
 内側にもこもこの柔らかい毛の素材がある、あったかくて大きな外套だ。
 背の高い義兄の着ていたものだから、僕が着ると結構――かなり、ぶかぶかだ。

「身体を冷やしてはいけない。お前は病弱なのだから、特に気を付けるように」

「……っ」

 家族の温度感な声でいわれて、僕は何も言えなくなった。

 そっか、何もなかったみたいに振る舞うんだ。
 そっかそっか。それがいいね。うん、お兄様。僕、わかったよ――、

 僕はコクリと素直に頷いた。
 ぶかぶかの袖が、なんだか嬉しい。
 ちょっと匂いとか嗅いでみたくなる――変態っぽいからやめておくけれど。

「はい、お兄様。ちなみに僕が病弱なのは薬のせいで、今は飲んでいないので割と元気なのです……」
 浮かれた感じの声がぽやぽやと出てしまって、僕が「ちょっと単純すぎるのではないかな、僕」と自分で自分につっこみをいれていると、大きな手がするりと頬を撫でた。
 
 自然な仕草で耳に唇が寄せられる。内緒話をするみたいに。

「先日は酷いことをしてすまなかった」

「……っ!!」

 不意打ちみたいに低くささやかれて、僕は真っ赤になったのだった。

 
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