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第1話 憧憬

再会 Episode:02

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「お前、ケガしてんのか?」
「ううん……ぜんぶ、返り血……ふふ、やられた……」

 こいつが低く嘲う。
 たぶん自軍のやつが裏切ったことを、言ってるんだろう。

「なんか、元ワサール人のやつが、密告したんだってな」
「それも……あるんだけど」

 また低く、こいつが嘲った。

「他になんか、あるのか?」
「ロデスティオの正規軍、あたしたち傭兵隊を見捨てて盾にして……部隊、壊滅したの」
「じゃぁ、あの壊滅ってのは、まさか――」
「うん。そういう……こと」

 俺は、うちの先輩たちがやったことだと思ってた。
 けど違う。あれは味方に、見殺しにされたってワケだ。

「考えとくんだった……読みが、甘かった……」

 こんなちっちゃいやつが言うとは、思えねぇセリフ。
 なんか一瞬背筋に冷たいものを感じて、俺は慌てて話題を変えた。

「でもよ、なんでお前、こんなとこにいるんだ?」

 こっから国境はたいして距離はねぇけど、戦闘やってた場所はそのまた向こうの、けっこう離れたトコだ。
 まして敗走してんなら、こっちへ来るワケがない。

「たまたまあたし、最前線にいて……前線が、後退してたから……」

 疲れてんのか、そこでこいつはいっかい言葉を切った。

「ともかく、下手に撤退するより……こっちへ来た方が、助かると……思って。
 それにあたし……小さいから大人みたいに、言われないし……」

 よくわかんねぇけど、要するに自分がガキなのを逆手に取って、うまく大人の兵士の目を躱しちまったらしい。
 で、あとはどさくさ紛れに国境超えて、町へ入っちまったんだろう。

 けど確かにこいつが公園あたりで血だらけで倒れてても、敵だなんて誰も思わねぇはずだ。
 あとは当人がそゆことさえ言わなきゃ、それで終わる。

 ――すげぇヤツ。

 内心舌を巻きながら、俺は違うことを言った。

「ともかく叔父さんち行こうぜ? 医者だからさ、診てもらえるし」
「うん、ありがと……」

 まともに歩けそうもねぇこいつに、手を貸す。

「だいじょぶか?」
「だい……じょうぶ……」

 言ってるうちに、こいつの身体から力が抜けた。

「お、おい、しっかりしろよ!
 ――叔父さん、こっち来てくれ!」

 叔父さんは医者だから、こゆ時は頼りになる。

「どうした? お、こりゃ大変だ」

 わけもわかっちゃねぇまま、でもばっちり、叔父さんがこいつを抱え上げた。

「すぐ、うちへ運ぶぞ。
 イマド、その懐中電灯で足元照らしてくれ」
「わかった」

 叔父さんと二人、いつもの道を戻る。

「うん、呼吸はしっかりしてるな。ひどい出血もなさそうだし、顔色もそれほど悪くはないし……。
 しかし驚いたな、これは全部他人の血か?」

 ルーフェイアのやつ運びながら、しっかり容体チェックしてるし。

「叔父さん、こいつだいじょぶなのか?」
「外傷も見当たらないし、顔色から見て内臓の損傷もなさそうだから、たぶん大丈夫だろう」
「そっか……」

 とりあえず、ホッとする。
 これならたぶんよっぽどじゃなきゃ、ヤバいことにはならねぇだろう。
 それに叔父さんの家はたいして遠くねぇから、すぐ手当てもできる。

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