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第2話 抱えきれぬ想い

新入生 Episode:04

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「あの……先輩、なんかみんな、こっち見るんですけど……? あたしどこか……変ですか?」
「あのねぇ」

 最初はイヤミかと思ったのだが、どうやら本気らしい。

「キミが可愛いから、注目されてるんだってば」
「……え?」

 ロアの言葉を聞いて、少女はきょとんとした表情で、考え込んでしまった。
 何を言われたのか、理解できないようだ。

「あきれた! 言われたことないの?」
「ない……です。強い、はよく、言われましたけど……」

 思わず頭を抱えたくなる。
 この美少女、いったいどういう生活をしてきたのか、この手の常識は全く知らないようだ。
 とんでもない後輩を押し付けられた気がする。

(まったくこの年で……って、あれ?)

 そういえば、少女の年齢さえも知らなかった。

「――あのさ、キミ幾つ?」
「10歳、です……」

 それにしては小柄だ。
 だがロアは、そんなことを思う暇がなかった。

 ――10歳。

 妹が生きていれば、ちょうどこの歳だ。
 げんきんなもので、急に少女がいとおしくなる。

「そっか。それでひとりでここへ来たんじゃ、心細かったね」
「心細いっていうか……あたし、学校とか……初めてで……」
「え、学校行ってなかったんだ」

 だとするとやはり、戦場育ちだろうか?
 少年兵として前線に出ていたなら、さっきの食堂での行動も納得がいく。

 これだと学科でパスしたのが不思議だが、おそらくはもともと頭のいい子なのだろう。
 戦地で生き残るためにはそれなりの知識が必要だし、インテリ崩れの兵士からいろいろ学んだ可能性もある。

 何かが心の片隅に引っかかった気はしたが、ロアはそれ以上考えなかった。

「そっか、それだと心配だね。でも大丈夫だよ、きっと。うん、大丈夫」

 死んだ妹と同い年と知って、すっかりお姉さんモードだ。
 先刻までの嫌がっていた様子はどこへやら、根拠のない自信で少女を励ましている。

「ところでお昼は済んでる? もしまだなら、荷物置いてから食べに行こうか?」
「あ、えっと、あの、途中で……少し、食べたので……」

 少女の方も、ロアのお姉さんぶりに安心したようだ。笑顔が多くなってきていた。

「おっけーおっけー、そしたらまず荷物もらって――すみませーん!」

 寮の入り口で寮監を呼び、少女の荷物を受け取る。

「って……これだけ?」
「はい」

 彼女宛てに送られてきていた荷物は、簡単に持ち上げられる大きさのケースがひとつ、それだけだった。

 確かに孤児院などから学院へ来た場合、荷物が少ないのがほとんどだが、これはその中でも少ない部類に入るだろう。
 ぜんぶ届いてよかったと言わんばかりの少女の表情に、こちらが切なくなる。
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