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第3話 葛藤

転機 Episode:04

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◇Nattiess

 授業の終わりまでもう少し。
 早く早くと思いながら、つまんない型の練習を続ける。
 たしかにこれが基本なのは分かるんだけど……もう少しなんか、違うことしたいもの。

「よし、じゃぁ次は……」
「せんせー!」

 とつぜん、ミルが突き刺すような声で手を挙げた。
 きっとまた何かとんでもないこと言って、授業かき回すのかも。
 でもそうすれば時間潰れるから、これはちょっと歓迎?

「ミルドレッド、きちんと授業を受けないと減点するぞ」

「えー、でもあと時間ちょっとだしー。
 たまにはルーフェイアとイマドの模擬試合とか、そーゆーの見たいですー」

 意外だけどこの言葉に、教官ったら考え込んだ。

「その二人か……たしかにそれは、見ておいていいかもしれないな」

 なんか、すごいセリフ。

 イマドが強いのは、みんな知ってる。
 首席はダテじゃなくて、彼相手じゃ誰も攻撃当てられないの。
 でも教官の言い方だと、ルーフェイアとなら、ちゃんと試合が成り立つみたい。

「よし、二人とも前へ」
「え、マジっすか……」

 しかも、イマドったらしり込み。
 いつだって誰が相手でも平然としてるのに、こんなの初めて。

「いいから黙って前へ来い。ルーフェイア、きみもだ」
「はい」

 彼女も立ち上がる。

 学年でもいちばん大柄なイマドと、いちばん小柄なルーフェイア。
 頭ひとつ以上身長が違うの。

 これで試合になるのかな……?

 さすがにちょっと心配になる。
 いくらなんでも、体格差がありすぎだもの。
 でも教官がまさか、そこまでメチャクチャしないと思うし。

「……手加減しろよな。さすがに怪我したくねーから」
「あ、うん」

 とんでもない会話に、なんか呆然としちゃったり。

 だって「手加減しろ」って、つまりルーフェイアのほうが、圧倒的に強いってことだもの。
 けど、どう見たって、そんなふうには見えないし。

 教官に促されて、二人が向かい合う。
 武器はどうするのかと思ってたら、練習用の杖が渡された。
 どっちも剣を使うからなんだろう。

「始め!」

 短くて鋭い声と同時に、ルーフェイアが動いた。同時に、イマドも。
 一瞬で間合いを詰めたルーフェイアの突きを、イマドがすんでのところでかわす。
 同時に動いてなかったら、きっと食らってたはず。

 どうにか逃げたイマドに対して、ルーフェイアがそのままの体制から即座に、手元側での返し突き。
 硬い音がして、杖がぶつかり合った。

 イマドが下段から、ルーフェイアの杖を跳ね上げて防いでる。
 でもルーフェイアは動じた感じもなくて、逆らわずに杖を操って、きれいに正眼に構えなおした。

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