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第7話 力の行方

反撃 Episode:16

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 ことの是非はともかくとして、この少女が私のことを考えていたのは、間違いがないのだ。

「いや、私もつい……すまない。だがどうして、自分にかけなかった?」

 私が精霊ヴァルキュリアを憑依状態にして乗り切れることは、この少女は知っているはずだ。
 なのになぜ、自分を犠牲にしてまで私に魔法をかけたのか。

 しかしきつく言ったのがまずかったのか、答えようとしない。

「……聞かせてくれないか?」

 重ねて尋ねる。
 綺麗な色の唇からようやく、言葉がこぼれた。

「その……タシュア先輩には、シルファ先輩しか……いないから……」
「ルーフェイア……」

 いったいどこで知ったのだろう?
 まるで兄と姉とを追いかけて歩く妹のように、私たちを慕っているだけのことはあった。

 それにしても本来なんの関係もない他人を、なぜこうも慕うのだろうか。
 戦場での経験の、反動なのか。そう思うと、この少女が可哀想になる。

「ともかく、もう二度とするんじゃない」
「……はい」

 うつむいたままの少女の頭をなでてやると、やっと顔を上げた。

「先輩、ルーフェイアっ!」

 みんなと……そして殿下とが駆けてくる。

「二人とも無事か?」

 殿下の言葉に、「おや」と思った。お気に入りだったルーフェイアだけではなく、私のことまで心配している。

「大丈夫です。シルファ先輩がかばってくださいましたから。先輩も……大丈夫ですよね?」
「え? ああ」

 もしかすると何箇所か打ち身くらいつくったかもしれないが、その程度だ。

「僕のために済まなかった。屋敷の方へ医者を呼ぶように言っておいたから、戻って診てもらうといい。
 こっちはじき警察が来るから、父にまかせておけばいいだろう」

 ルーフェイアと二人、思わず顔を見合せる。

(先輩、殿下へんですよね?)
(ああ……)

 思わずこっそりそんな会話を交わしたが、理由はわからなかった。
 いずれにせよ、いったん屋敷へ戻るのが賢明だろう。

「よし、戻るか」
「了解!」

 後輩たちの声が揃った。
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