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第9話 至高の日常

遊戯 Episode:12

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「ルーフェイア、どうかしたのか?」
「いえ、なんでも……」

 心配したシルファが問いかけたが、帰ってきたのはいつもどおりの答えだ。

(ですが……)

 医者ではないタシュアが見ても、平気なようにはとても思えない。
 と、不意にこの子がよろけた。

「おいっ!」
「ルーフェイアっ!」

 イマドとシルファとが、とっさに出て両側から支える。

「どうしたっ、大丈夫か!」
「うん……」

 問いに答えるその表情は、虚ろだった。そうとう消耗しているように見える。

「本当に大丈夫か? 戻って休んだほうが、いいんじゃないのか?」

 心配そうに言ったシルファの言葉も、今ひとつ届いていないようだ。ぼうっとした様子のまま、かすかにつぶやく。

「……精……霊……」
「え?」
「精霊? それがどうしたんだ?」

 両側で支えながらイマドとシルファとが不審がったが、タシュアはピンときた。
 すぐに少女に、先ほど外していた精霊差し出す。

「ルーフェイア、これを」

 瞳が何も見ていないのに気づいて、やむなく手に持たせた。

 そのまま様子をうかがう。これで当人が、手の内のものを認識出来なければお手上げだ。
 だが幸い、この子の表情が僅かに動いた。上手く気づいたようだ。

 結晶化していた精霊が光に変わり、消える。
 同時にルーフェイア自身に表情が戻り、荒い息をついた。

「いったい……どうしたんだ?」

 何が起こったのかまだ理解出来ないのだろう。シルファが尋ねる。
 少し間を置いて少女が答えた。

「あたし、精霊外すと……体調、狂って……」
「ばかやろっ、そゆのは早く言えっ!」
「ご、ごめん……」

 間髪入れずのイマドの怒声に、ルーフェイアが泣くのも忘れて謝る。

「ったく、言うこと聞くのも時と場合によるだろっ!

 こんなんでどうかなったら、どうするつもりなんだよ!」

「イマドの言うとおりだぞ」

 心配しているのだろう、シルファの声もいつもに比べるとやや厳しい。

「ごめんなさい……」

 保護者二人に言われて、さすがに少女がしょげ返った。

「――まぁいいや、ともかくボール持ってこいって」
「あ、うん」

 慌ててルーフェイアが、軽いボールを取りに行った。

(問題なさそうですね)

 さっきとは打って変わって、その足取りも動きもしっかりしている。
 程なく少女が戻ってきた。
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