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第9話 至高の日常

急転 Episode:10

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「ナースステーションの隣と言うと、窓はありませんか……」

 この建物は外から見ると円柱だが、実際にはドーナツ型になっている。

 そして外側と、中の吹き抜けに面した窓のある部分が、病室や先ほどのデイルーム。
内外の病室の間に中洲のように、ナースステーションや処置室が並ぶ配置だ。

 当然中洲にあたる部分は、窓はない。

「その倉庫の出入り口は、幾つありますか?」
「二つあるけど、使えるのはひとつだけよ」

 しまう物が多いために、ひとつは棚で塞いでしまったのだと言う。

「見張っている人数は、何人か分かりますか?」

 立て続けにタシュアが質問する。

「チビちゃんたちの見張りは、さっき見たときは三人いたわね」
「三人……」

 私たちは顔を見合わせた。

「タシュア、これはかなり……まずいんじゃないか?」
「悪知恵だけは一人前ということですか」
「けどマジ、その人数で中へ立てこもられたら、手も足も出ないですよ?」

 ひょいと会話に加わってきた、イマドの言うとおりだ。

 窓際のデイルームは壁もなく広々としているからどうにでもなるが、窓のない倉庫となると、扉を閉められたら終わりだ。例え他のテロリストを倒したとしても、中で子供たちが犠牲になってしまう。

 しかも三人もで見張っていては、扉を破って全員倒す前に、誰かが銃を乱射するだろう。

「立てこもる前に何らかの手を打つ必要はありますね。できれば、中に火種を隠したいところですが」
「だが、どうやってだ?」

 この場にルーフェイアがいれば、患者と偽って子供たちのところへ行かせられるだろうが、彼女はあいにく病院の外だ。

「そうですね、シルファが行ってはどうです?」
「ムチャを言うな」

 年齢より幼い見かけのルーフェイアならともかく、私の体格では子供たちの中に紛れ込むなど、絶対にムリだ。
「誰も小児としてなどとは、言っていまんよ。白衣を借りて着れば済みます」
「――!!」

 冗談ではない。
 見るとタシュアが、僅かに面白そうな表情を浮かべている。

「俺もそれ、賛成♪」

 イマドまでが、喜んで話に乗ってきた。

「絶対ダメだっ!」

 思わず口調が強くなる。
 先日のドレスでさえ恥ずかしくてたまらなかったのに、看護士の格好など想像するだけでも嫌だ。
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