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第10話 空(うつほ)なる真実

ルアノンにて Episode:02

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「バッグもひとつ、買ったほうがいいな……」

 必要最低限しか持ち出さなかったルーフェイアのバッグは、買い足したものではちきれそうだ。

「町へ着いたら、買おう」
「え、でも……」
「いいんだ」

 きっぱり言って、それ以上の反論を封じる。
 ここ数日で良く分かったが、遠慮がちな性格のこの子は、こうしないと何がなんでも拒むのだ。

「ルーフェイアのおかげで、アヴァンでのホテル代も、浮いてるんだ。だから気にしなくていい」

 理由らしきものも付け加えてやると、やっとルーフェイアは納得したようだった。

 列車が止まる。
 軽い足取りで、ルーフェイアがホームに降り立った。

 座っていて疲れたのか、大きく伸びをしている。

「えぇと……ホテルはここから、少し離れてるんだな」

 この駅はどういうわけか、町外れにある。
 ガイドブックによれば、街中への敷設にかなり反対があったうえ、お金の問題もあってこうなったらしい。

 しかも大渓谷は、ちょうど町を挟んで反対側だ。
 だから繁華街に程近い町の中心部に、宿を取るのがふつうだった。

 町の中心部へは、バスが出ている。
 だがどうやら、出発した直後のようだった。

 大都市の列車でも、遅れるのはよくある話だ。
 ましてや地方都市のバスでは、どれだけ待たされるか分からない。

「仕方ない、歩くか……」

 幸いもう涼しくなってきたし、元から歩けない距離ではないから、大丈夫だろう。
 それに途中で、いい店でも見つかるかもしれない。

「すまない、ルーフェイア。荷物は持つから、歩こう」
「あ、えっと、だいじょうぶです」

 答えてこの子が、自分の荷物を肩にかけた。

 重そうな様子はない。
 見掛けは華奢だが、鍛えているだけのことはあった。

 駅からは、真っ直ぐ大通りが続いている。
 ホテルはこの通り沿いだから、迷う事もないだろう。

 観光客を当て込んでか、みやげ物や軽食の屋台も、道端に並んでいる。
 そこから適当なものを買ってやり、並んで歩いた。

 そのルーフェイアの足が、ふと止まる。

「どうした?」
「あ、いえ、なんでも……」

 言いながらも辺りを見回して、何かを探しているふうだ。

「何か、欲しいのか?」
「……」

 言いにくそうに黙ってしまう。
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