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第10話 空(うつほ)なる真実

ルアノンにて Episode:01

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 ◇Sylpha

 窓の外を、景色が流れていく。
 流れ込む涼しい風が、ルーフェイアの金の髪を躍らせていた。

 あと少しで、大渓谷で名高いルアノンだ。
 今朝早くにアヴァンシティを出て、途中で超長距離の列車に乗り換えて、やっとここまで来た。

 ――悪い事をしたな。

 学院を出てから、同じことを何度思っただろう?

 なにしろ私のしたことときたら、誘拐も同然だ。
 幸い同じ学院生だったし、本人が喜んでいるからいいようなものの、ふつうは大騒ぎだろう。

 まぁ黙ってついてきてしまうこの子にも、問題はあるだろうが……。
 あとでよく、そういったことを教えたほうが、いいかもしれない。

 そんなことを考えながら、私も窓の外を眺める。

 この辺りは大穀倉地帯で、どこまでも畑が広がっていた。
 その緑と、ルーフェイアの金の髪のコントラストが、まるで絵のようだ。

 その横顔を見ながら、分からない子だな、と思う。
 アヴァンでの一連を見るかぎり、タシュアの言っていたとおり、「古い家の跡とり娘」なのだろう。

 それも単に古い家系というのではなく、それなりに実力のある家らしい。
 そうでなければ、ホテルで私まで、あんなに丁重に扱ってはもらえないはずだ。

 それなのに、シエラの本校に居る。
 しかも、その戦闘力は群を抜いている。

 深窓の令嬢というべき環境が揃っているのに、なぜ実戦に長けているのか、見当もつかなかった。
 唯一思い当たるのは、かつて言っていた「得体の知れない力を持っている」というものだが……。

 だが途中で、詮索をやめる。
 本人が言おうとしないものを、他人が傍から言うべきではないだろう。

 何より、珍しく楽しそうな横顔を、曇らせたくなかった。

「先輩、もうすぐですよね?」
「そうだな。そろそろ荷物を降ろさないと」

 大渓谷に寄ると知ってから、ルーフェイアは前にもまして嬉しそうだった。
 名だたる観光地を見てみたかったのかもしれない。

「待て、私がやる。ルーフェイアはまだ、座ってていいぞ」

 棚の上の荷物を取ろうとした後輩を、慌てて止める。
 必死に背伸びして降ろそうとするようすは可愛いが、取り落として下敷きになりそうだった。
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